33話 闘技大会⑥~バジリスクに、ガンを付けてはいけない。
窓からの朝日が顔に当たって、レイは目覚めた。
朝だ。レイはベッドから起き出してから、まだ夢の中のラプソディを起こす。
「ラプソディ、朝だぞ」
ラプソディは半分寝言で、返答した。
「朝なんて、嫌いだわ……滅ぼすわ」
魔王の娘も、朝は弱いらしい。
(そんな理由で滅ぼされたら、世界はいくつあっても足りないぞ)
30分後、レイとラプソディは連れ立って、一階の食堂に降りた。ハニ、リガロン、クルニア、サラは、すでに席に付いている。
ハニは、トーストにバターを塗りながら、残念そうに言った。
「今日で、このパーティは解散だね」
すでに両手剣を腰に下げたレイが、返答する。
「おい。おれが死ぬことになっているのかよ」
「準々決勝前に棄権するなら、別だけどねぇ」
「まず2回戦に勝ってから、考える」
6人は朝食を終えて、コロシアムに向かった。
観客席は、今日も満席のようだ。
昨日、ラプソディが魔法障壁を作っていなければ、たくさんの観客が〈光の柱〉の犠牲になっていた。そこのとこを、観客たちは理解しているのだろうか。
リガロンとクルニアは、観客席へ向かった。
出場者であるレイ、ハニ、ラプソディと、補佐役のサラは、控室に移動。
大会スタッフが来て、さっそく2回戦を始めるとのことだ。
レイは、珈琲を飲みすぎたな、と思いながら言った。
「ちょっとトイレに行ってくる」
出場者も観客と同じトイレを使う。朝から行列だ。レイが用を足して戻ると、まだラプソディは控室にいた。
「2回戦の第1試合は、君からだろ?」
「もう済んだわよ」
「早いな」
「面倒だったし、裏拳一発で、対戦相手を伸したわ」
その対戦相手は、自信喪失に陥っているだろう。ラプソディのような華奢な女子に、裏拳一発で伸されたのだから(昨日のデコピン一発よりはマシだが)。
ラプソディの正体が魔王の娘と知ったら、負けて当然と分かるのだろうが。
(いや、正体を知るまでもないか。オルと戦うときになれば)
この大会で、ラプソディが全力で戦えそうなのは、オルだけだ。
だとすれば、この2人の激突は、異次元のものになるはず。そこまで考えて、レイは嫌な汗をかいた。
ハニを見つけたので、控室の隅に呼ぶ。
「何か手を考える必要があるぞ」
「なんの?」
「決勝戦だ。対戦カードは、ラプソディとオルだろ。この2人がガチで戦ったら、コロシアムは消滅する。最悪、城郭都市ベルグそのものが」
ハニは腕組みして、しばし考え込んだ。
それから、目を獰猛に輝かせる。
「レイ。ラプソディ様が、オルと戦うことはないよ」
「なぜだ?」
「このボクが、オルをボコるからさ」
レイは、「あっ」と思った。
決勝の前に、準決勝において、ハニはオルとぶつかるのか。
そうこうしているうちに、2回戦5試合目となった。
ハニの出番だ。
ハニの2回戦の対戦相手は、面白い職業だった。
蛇使いだ。
たとえば魔獣使いならば、魔獣を飼いならし、操る。蛇使いは、蛇に特化した版だ。
たかが蛇、とバカにならない。蛇ならば、どんな蛇でも操ることができる。小さな毒蛇は、暗殺に向いているだろう。
そして、かの魔獣バジリスクも、蛇の仲間である。
対戦相手の蛇使いボークは、このバジリスクを連れていた。
バジリスク。
全長30メートル以上で、頭部には、皮膚と一体化した王冠が生えている。
「バジリスクが出てくるなんて! これは、ハニも苦戦するのではないか?」
何といっても、バジリスクには、特殊スキルがある。
〈邪視〉。
目を合わせた者を、石化するスキルだ。つまり石化魔法のスキル版。
しかもバジリスクは、魔法耐性が高い。つまり、攻撃魔法に、さほどダメージを受けない。
レイがバジリスクの登場に驚いたのは、ボークの戦略が関係していた。
ボークは、1回戦では、バジリスクを出して来なかったのだ。代わりにアナコンダを連れていた。
ボークの対戦相手は、アナコンダに巻き付かれ、失神したのだ。観客は、けっこう湧いていた。
ただ、アナコンダなどは、レイでも倒せる敵。この蛇使いは、たいした者ではないな、と決め付けてしまっていた。
「まさか、バジリスクという切り札を、隠し持っていたとはな」
レイの隣で、ラプソディも、バジリスクを眺めている。
「ふーん。当初の蛇使いの計画は、決勝戦まで、バジリスクを温存することだったわね」
「その狙いを変えたのか」
「1回戦のハニちゃんの戦いを見て、切り札を出し惜しんでいる場合ではない、と考えたのよ」
「なるほど」
レイは固唾を呑んで、戦闘フィールドを見た。
ハニとボーク・バジリスクが対峙している。
試合開始の銅鑼が鳴った。
ハニは、バジリスクに視線を向けていない。〈邪視〉を警戒してのことだろう。
しかし、これではバジリスクの動きが分からない。
ボークが、ニヤリと笑った。
「行け、バジリスク!」
バジリスクが、戦闘フィールド上を這って行く。凄まじいスピードだ。
このまま進んで、ハニを丸飲みにしようという訳だ。
「ハニ、気をつけろ!」
「平気よ、レイ。バジリスクなんて、ハニちゃんの敵ではないわ」
視線をそらしていたハニだが、その口は動き続けていた。
どうやら、複数の呪文を唱えているらしい。
そして、バジリスクが迫ったタイミングで、魔法を連続して発動した。
まず、生成魔法〈フォーム〉を発動。
バジリスクの前方に、巨大な鏡を作り出した。
バジリスクが混乱した様子で止まり、とぐろを巻く。鏡から視線をそらすようにして。
「そうか。〈邪視〉を鏡越しに見たら、バジリスク自身が石化してしまう。いいぞ、あれで動きを封じた」
戦闘フィールド上では、ボークが怒鳴る。
「ええい、そんな鏡は破壊しろ!」
バジリスクが、胴体を鏡にぶつけた。
鏡が割れる。同時に、爆発が起きた。
「何が起きた?」
レイの疑問に、ラプソディが解説した。
「ハニちゃん、鏡に〈ボム〉を仕込んだのよ。バジリスクは鏡を壊すため、胴体をぶつけて来た。このタイミングで、〈ボム〉を発動したのね」
〈ボム〉は、爆発魔法だ。狙いは良かった。
しかし、そこは魔法耐性の強いバジリスクだ。
〈ボム〉の直撃を受けても、倒れない。
それどころか、ハニを丸飲みにするため、再度、動き出す。
ハニは突っ立ったまま、バジリスクを待ち受けた。
バジリスクが口を開き、ハニへと襲いかかる。
ハニの敏捷性は、高い。
レイは、ハニなら容易く回避できる、と信じた。
ところが、ハニは呆気なく、バジリスクに飲み込まれてしまった。
レイは控室から、声を張り上げた。
「そんな、ハニ!」
観客たちが沸く。勝ちを確信したボークが、高笑いする。
バジリスクは、主人であるボークのもとへと戻った。
ラプソディが微笑む。
「勝負は決まったわね」
「ラプソディ! 消化される前に、ハニを助けないと!」
「レイ。勘違いしているわよ、勝者は──」
刹那、バジリスクが内側から裂けた。
バジリスクの体内から現れたのは、無傷のハニだ。
ハニは、わざと飲み込まれることで、バジリスクの体内から攻撃。ついに胴体を切り裂いたのだ。
ハニを見るなり、ボークが悲鳴を上げる。
そのボークの顔面に、ハニは拳を叩き込んだ。
ボークの身体は、観客席まで吹っ飛んで行った。
ラプソディが、レイにウインクした。
「ね、ハニちゃんの楽勝だったでしょう?」




