32話 闘技大会⑤~竜人の娘さん、強すぎた。
1回戦のラスト。
対戦カードは、竜人の女オルと、前回優勝者のAランク戦士アレクだ。
アレクの装備は、両手剣。対してオルは、キャノン・ランスを右手に持つ。
レイは控室の窓から、戦闘フィールドを観戦した。
試合開始の銅鑼が鳴る。
オルはキャノン・ランスを、アレクへと向ける。
レイの隣で観戦していたラプソディが、鋭い口調で言う。
「レイ、無関係の観客が死ぬのは、嫌?」
レイは訳が分からないながら、答えた。
「当たり前だろ」
ラプソディの姿が消える。
ワープ魔法を使ったようだが、行先はどこか?
刹那、視神経を焼きかねない、激しい光が起こった。
オルのキャノン・ランスからだ。
キャノン・ランスは、その先端を変換することができる。穂先か、砲口かに。
いまは砲口の状態であり、そこから光の柱が発射されたのだ。
〈光の柱〉は、アレクを飲み込んだ。
刹那、アレクの肉体は消滅した。
〈光の柱〉の破壊力は、アレクの防御力など上回り、その肉体を跡形もなく消してしまったのだ。
〈光の柱〉はそのまま、真っすぐに進んで行く。すなわち、観客席に向かって。
観客たちが悲鳴を上げる。〈光の柱〉が触れるだけで、観客たちは消し飛ばされるだろう。
殺戮が起ころうとした、そのときだ。
砲口から発射された〈光の柱〉が、観客席に至る直前で止まった。
まるで、見えない壁に衝突したかのように。
レイはハッとした。観客席の前に、ラプソディが浮かんでいる。浮遊魔法だろう。
ラプソディは〈光の柱〉へと、右手を突き出していた。
停止している〈光の柱〉とは、5メートルほど離れている。
(そうか。ラプソディは、魔法障壁を出しているんだ。〈光の柱〉は、魔法障壁に衝突した。魔法障壁は、肉眼では見えないからな。ラプソディは、観客たちを守ってくれているのか)
オルは首を傾げてから、キャノン・ランスを下した。
とたん、〈光の柱〉が消滅する。
ラプソディは右手を下して、楽しそうに微笑んだ。
「なるほどね。竜人というのは、少しは楽しめそうな種族のようね」
オルは返答せず、戦闘フィールドから歩き去った。
アレクが消滅したので、オルの勝利だ。
レイの隣で、ハニが感嘆の声で言う。
「さすが、ラプソディ様。鉄壁の魔法障壁だったよね」
「しかし、変だな。以前にも、キャノン・ランスを見たことはある。だが、火の玉を発射するだけだったぞ。その火の玉も、せいぜいが〈ファイヤ・ボール〉の威力だった」
「オルのキャノン・ランスは、通常のモノではないよ。魔改造されているね」
「魔改造だって?」
「簡単な話。通常より、威力が100倍くらいになっているのさ」
「まてよ。100倍のパワーなんて、改造したからって出せるものなのか? だいたい、キャノン自体が持たないだろ?」
「もちろんさ。だから、オルは自らのMPを使っている。〈光の柱〉の発射元は、オル自身なのさ。大量のMPを消費し、キャノン・ランスを媒介にすることで、初めて〈光の柱〉を放てるね」
「……なるほど。そのため、通常のキャノン・ランスの100倍のパワーを実現し、キャノン本体も壊れないわけか。つまり、オルは魔導士でもあるわけか?」
「厳密には、魔導士ではないね。魔導士は魔法を使う。スキャンしたけど、オルのステータスに魔法はなかった。ただね、MPの数値は膨大だった。悔しいけど、ボク以上だね。ちなみに、ラプソディ様のMPは無尽蔵」
レイは、整理した。
オルは膨大なMPを持っているが、魔導士ではない。
キャノン・ランスを魔改造し、自分のMPを消費することで、〈光の柱〉を放てる。
「そうか。〈光の柱〉の正体は、必殺技スキルだな」
必殺技スキルとは、MPを消費して放つ、必殺の技。レイもMPを使って、〈茨道改〉などを放っている。
「だね」
ラプソディが、ワープ魔法で戻って来た。
レイはラプソディに頷きかける。
「ありがとう、ラプソディ。観客たちを守ってくれて」
「レイのハグがご褒美よ」
「……いま、人前で?」
「もちろん」
レイは、ラプソディを抱きしめた。
ハニが呆れ顔をし、サラが顔を真っ赤にしていた。
こうして、1回戦の全試合が終了した。
前回優勝者が早々に敗北、しかも殺されるという、波乱を含んだ始まりだった。
「よし、宿に帰るか」
ラプソディが小首を傾げる。
「何を言っているのよ、レイ。これからが、本番でしょう?」
「……ラプソディ。闘技大会の日程表、読んでないのか?」
「なぜ、あたしが読むの?」
「2回戦、準々決勝、準決勝が行われるのは、大会2日目。つまり、明日だ。そして大会3日目に、決勝戦が行われる」
「決勝戦は、レイとあたしで決まりね」
「……オルを撃破するだけでなく、ハニも倒さなければ、決勝まで行けないんだが?」
ラプソディは、レイを信じきった眼差しだ。
「レイなら、やれるはずよ」
「……努力する」
コロシアムの表で、観客席にいたリガロンと合流。
リガロンは、オルの〈光の柱〉について、言った。
「たまげたな、アレは。これまで戦ってきた敵の中では、文句なしで最強だろ」
「これまで戦った中だと──最も手ごわかったのは、吸血鬼リークか」
レイは、頭の中で、オルとリークを戦わせてみた。
リークにも、〈ブラック・ホール〉という、強力な殲滅系の魔法があった。
実際、ハニを苦しめたほどの敵だ。
それでも、リークがオルに勝てるとは、思えなかった。
「ああ。今のところ、敵ではオルが最強だな」
「そんなオルと、お前は準々決勝で当たるのか……前回優勝者を瞬殺した、化け物と」
「……まあな。といっても、まずは2回戦を突破しなければ、だが」
「準々決勝まで進んだら、戦う前に棄権しろよ。リーダーを失っちゃ、このパーティはお終いだぜ」
「……」
確かに、リガロンの助言は正しい。レイでは、オルには勝てないだろう。
しかし、それを理解したうえで、レイは思うのだ。
(今のおれの力が、どこまでオルに通用するのか。それを試してみたい)と。
5人は、宿に戻った。
宿では、不機嫌そうなクルニアが待っていた。
レイが聞く。
「あれ、クルニア。コロシアムには、行かなかったのか?」
クルニアは、つまらなさそうに言う。
「ふん。姫殿下が勝利されると、明らかではないか。むろん、姫殿下の勇姿を見届ける価値はある。しかし、それは明後日の決勝だけで、充分だ。決勝でハニと当たるまでは、どうせ雑魚ばかり。姫殿下も、退屈されるだろう」
クルニアは、ちゃんと大会スケジュールが頭に入っているらしい。
ハニが、気の毒そうに言う。
「クルニアさん、失敗したよ。試合を観戦していたら、さっそくラプソディ様の勇姿を見ることができたのに」
それからハニは、オルの〈光の柱〉を、ラプソディが魔法障壁で防いだ話をした。
クルニアは興味を持ったようだ。
「ほう。竜人が出場しているのか。それは手合わせ願いたいものだな」
「うちのパーティだと、まずレイが戦うことになりそうだよ」
「なに、この男が?」
ハニとクルニアが、同時にレイを見た。
レイは唸った。
「……すでに死んだ者を見るような眼差し、やめろ」




