28話 闘技大会①~出場者の品定めは大切。
城郭都市ベルグは、王都を出て、3日の距離だ。
ラプソディは、長旅を拒否。そこでワープ魔法の出番となった。レイは、ワープ魔法は酔うから、好きではなかったが。
ラプソディが詠唱省略で、ワープ魔法を発動。
「うっ」
吐き気を堪えるレイ。
隣では、共にワープしたサラが嘔吐している。その背中をさすってあげた。
リガロンは余裕そうだ。リザードマンは、ワープに強いようだ。ハニは当然ながら、平然としている。
ラプソディがワープ先に設定したのは、城郭都市ベルグから、300メートルほど離れた雑木林の中だった。
いきなり都市の中に出ると、まわりの注目を買うからだ。
レイは、今回のクエスト内容を再確認した。
「闘技大会は、明日から、行われる」
レイがワープ魔法を受け入れたのが、このためだった。普通に移動していたら、大会に間に合わない。
「闘技大会には、国内から猛者どもが集まる」
とはいえ、ラプソディとハニの敵ではないだろうが。
「クエストは単純だ。闘技大会に優勝して、浮遊石を入手すること」
浮遊石は、魔石の一種だ。レイは魔石に詳しくはないが、この浮遊石は、かなり稀少らしい。一部では、伝説の石とも言われているくらいだ。
これほどの優勝賞品を用意したのは、正式名称、『第26回ベルグ闘技大会』。
ボール侯爵という貴族が、主催者だ。
城郭都市ベルグは、自治都市である。王より、自治を認められた都市なのだ。
そしてボール侯爵が、自治権を有している。いわばボール侯爵は、城郭都市ベルグの君主といえる。
冒険者ギルドは、浮遊石が、どうしても必要のようだ(別クエストのためだろうか?)。
しかし、ボール侯爵から徴発することはできない。
そこで手に入れるため、正攻法で行くことにした。
つまり、冒険者を闘技大会に出場させ、優勝させる。
冒険者ギルドは、大会の出場枠を3つ手に入れていた。
レイたちのパーティから、3人出て、そのうちの1人が優勝すれば良いわけだ。
「さてと。誰が出るか、だが」
レイの言葉に、ハニが答える。
「ボク、ラプソディ様、クルニアさん。確実にクエストは成功だね」
「まて。クルニアは間に合うのか? 出場枠は確保してもらったが、正式な手続きはこれからだ。闘技大会の受付に行き、出場する本人が手続きしないといけない。受付の終了時間が、今日の14時。あと4時間。間に合わないかもしれないクルニアは、当てにできない」
「クルニアさんが出場できないのなら、どっちが出るの?」
どっち、とは、レイとリガロンのことだ。
パーティの中で、この2人の実力は拮抗している。
リガロンが主張した。
「レイ。せっかく腕試しができる機会だ。オレが出させてもらうぜ」
「まてよ。それは、おれにも言えることだ。パーティのリーダーとして、大会に出場し、少しでも鍛えたい」
「オメー、防御力は無いに等しいだろ。こんなところで大怪我したら、どうするつもりだ? パーティのリーダーがよ?」
「だからこそ、サラがいてくれる。サラなら、ある程度の負傷は回復してくれる。そうだよね?」
話を振られたサラは、大きくうなずいた。
「は、はい。〈エンジェル・ヒーリング〉がありますから……ですけど、瀕死の大怪我はしないでくださいね。まだ、〈リザレクション〉は使えませんから」
「というわけだ、リガロン。これはリーダー命令だ。おれが出場する」
話がまとまったところで、闘技大会が行われるコロシアムへ向かった。
本番は明日からだが、コロシアムの周りには出店が並び、祭のように賑わっていた。年一回の城郭都市ベルグ最大のイベントだけはある。
周辺だけでなく、遠くの町村からも、観光客が訪れているのだ。
出場するレイ、ラプソディ、ハニが、コロシアムの関係者用の入り口へと向かう。
すると、向こうから出て来た者と、対峙する格好となった。
2人いる。
片方は、子供のように小さいが、老け具合から50代の男だ。
魔杖を所持しているので、魔導士らしい。杖の形状から、サラの装備する回復系の杖ではなく、攻撃系の杖と分かる。
補助用の魔杖を持つからといって、ランクが低いとは限らない。とくに攻撃系は。
もう1人は、20代の女だ。
整った顔立ちだが、眼光が鋭い。紫青色の髪は、短く切っていた。そして、額から角が生えていた。
レイは一驚する。
(この女、竜人だ。吸血鬼以上に、希少な種族だぞ。初めて見たなぁ)
竜人の女は、片手に珍しい武器を持っていた。槍と砲が合体した武器、キャノン・ランスだ。砲の部分は、魔導士が造ったもので、火炎弾などを発射する。
レイは、感心して、キャノン・ランスを観察していた。
すると、竜人の女が冷ややかに言う。
「邪魔だ、どけ」
「え? ああ、失礼」
レイは一歩、横に退いた。
しかし、隣にいるラプソディは退かない。ラプソディが退かないので、ハニも退かない。
ラプソディは、竜人の女に言った。
「そっちこそ、邪魔なのだけどね? どいてくれる?」
竜人の女は、ラプソディを睨み返した。
レイは、ラプソディを脇へ引っ張った。
「おい、闘技大会が始まる前に、騒ぎを起こすなよ」
竜人の女が笑う。
「なるほど。キサマらは、闘技大会の出場者か。なら是非とも当たりたいものだな。その生意気な態度を、我が自ら叩き直してくれる」
連れの魔導士が、鋭い口調で言う。
「オル。もう良かろう。ワシらは、小物どもと争うために、こんな臭い国に来たのではないぞ」
オルと呼ばれた竜人の女は、渋々ながらの様子で、うなずく。
「そうだな、イワン」
オルは大仰に脇へと退き、コロシアムのほうを片手で示した。
「どうぞ」
ラプソディは小首を傾げて、オルを見やる。獲物を眺めているように。
それから、先へと進んだ。
「どうも」
オルとイワンが歩き去る。
レイは2人を見送りながら、考えた。
イワンは『こんな臭い国に来た』と発言した。ということは、あの2人は、国外からの来訪者なのだ。
レイがそのことを伝えると、ラプソディは不思議そうに言った。
「他国から? なんのために?」
「闘技大会で腕を磨くため──ではないよな。優勝賞品の浮遊石が目当てだろうな」
オルは竜人だが、竜人の国家は存在しない。竜人は全世界に散らばって、暮らしているそうだ。
よって竜人だからといって、どこの国と特定できるわけではない。
ハニが尋ねる。
「リウ国って、他の人類の国と仲いいの?」
「ああ。かつては争っていたそうだが、いまは共通の敵がいるため、とりあえず同盟関係にある」
「共通の敵?」
レイは、ラプソディとハニを指さした。まわりに聞こえないよう、小声で付け足す。
「魔族」
「ボク達のおかげかぁ」
3人は無事に出場手続きを終えた。
話題はまた、先ほどの2人組へと戻る。
「イワンという魔導士のほう、ステータスを見たけど、まずまずの魔導士だったよ」
ハニがそう話した。
知らないあいだに、スキャン魔法を使っていたようだ。
レイが尋ねる。
「まずまずというが、どの程度だ?」
「Sランクかな。あと、装備していた魔杖ね。あれも結構な代物だったよ。魔杖の効力をプラスすれば、実力はSSランクになるかもね」
レイは呻いた。
「大会の優勝は、楽勝だと思っていたが。苦戦するかもな」
ラプソディが楽しそうに言う。
「ダサい角を生やしていた女だけど」
「竜人のオルだろ」
「あの女は、イワン以上の力を持っているわよ。冒険者ギルドだったら、SSSランクの戦士とするでしょうね」
「まさか。SSSランクだって?」
「対戦するのが、いまから楽しみだわ」
レイは、コロシアムを見やる。
明日から、ここで闘技大会が開かれる。
(……波乱が起きそうだな。だいたい、ラプソディと、SSSランクの竜人が戦ったら、どうなる? 少なくとも、このコロシアムはなくなるぞ)




