26話 女竜騎士クルニアさん、無双。
ワイバーンの竜騎士は、クルニアと名乗った。
ラプソディが話していた、鉤爪山脈を越えて来た親衛隊員のようだ。
ラプソディから冒険者ギルドへの入団を勧められたクルニア。
ひとまず、ラプソディの旦那であり、パーティ・リーダーでもあるレイと会うため、王都へ飛んだ。
しかし、レイは不在。
冒険者ギルドの受付嬢を脅しつけたところ、レイはクエストに出発してしまったという。
そこでクエスト先のベル墓地まで、飛んできたとか。
レイとしては、受付嬢を脅した、というのは聞き捨てならない。
「それは、ローラのことだろ。今度、謝罪するんだ、いいな?」
クルニアは肩をすくめた。
「些末なことを気にするのだな。構わないが──コレらは、どうする?」
クルニアが示したのは、周囲にいるゾンビたち。
「私が、殲滅してやろうか?」
レイは首を横に振った。
「いや。先ほど助けてくれたことは、感謝する。だが、これは冒険者のクエストだ。聞いたところ、あんたは、まだ冒険者ではないという。つまり、一般市民だ。一般市民に、危険なクエストをさせるわけにはいかない」
「私なら、ものの数秒で、ゾンビどもを殲滅できるのに? 貴様らでは、生き残れるかも怪しい」
「実力がどうの、という話ではない。冒険者としての有り方の問題だ」
レイとクルニアが会話している間も、ゾンビたちは待ってはくれない。続々と襲って来る。
対してクルニアは、片手に持つ戦闘槌で、軽々と吹き飛ばしていく。
そんなクルニアは、面白そうに笑った。
「なるほど。冒険者としての矜持か」
「そこまで偉そうなものではない。ただ、おれがどうしたいのか、の話だ」
「……いいだろう。助太刀してやる」
レイは首を捻った。
「おれの話を聞いていたのか? おれは助太刀など必要ない、と言ったんだ」
「まぁ、聞け。私は、こう決めていた。貴様が、私に助けを求めるようだったら、見捨ててしまおうと。だが、お前は違った。冒険者としての有り方とか言って、助けを求めるどころか、拒んだ。人間にしては、見所がある。だから、助けてやるというのだ」
「しかし、冒険者ではない者が、だな」
痺れを切らした様子で、リガロンが言う。
「おい、レイ。冒険者ではなくとも、人助けは可能だろうが。この姐さんは、クエストを行うのではなく、ただの人助けをしようというのだ。ならば、助けてもらって問題がないだろ。だいたいな、オレたちだけじゃ、生き残れるかも分からないんだ」
レイは、うなずいた。
確かに、こだわりすぎて命を落とすのもバカバカしい。
「クルニア。助太刀してもらえるか?」
実はこのとき、すでにクルニアは、ゾンビを30体ほど倒していた。襲いかかって来たのを、返り討ちにしているだけだったが。
「いいだろう。では、貴様らは伏せていろ」
レイたちは指示に従い、伏せた。
刹那、クルニアの戦闘槌が一閃。
「〈旋風刃〉!」
〈旋風刃〉。
刃と化した旋風が、周囲の敵を切り裂く必殺技スキルだ。
威力は、レイの〈茨道〉の数倍。しかも、一度の攻撃範囲が広い。
レイが顔を上げたきには、すべてのゾンビどもが、身体を破壊されて転がっていた。
クルニアが戦闘槌で、近くに倒れるゾンビを示す。そのゾンビは、胴体が真っ二つにされていながらも、まだ動いている。
「〈旋風刃〉は、精確性に欠ける。すべてのゾンビの頭部を破壊できたわけではない」
レイはうなずいた。
「トドメを刺すのくらいは、やらせてもらうよ」
倒れている敵にトドメを刺すのは、気持ちの良いものではない。
だが、相手はゾンビだ。捕虜にできるタイプではない。ここで始末しなければ、さらなる犠牲者が出てしまう。何より、もとは死体だ。
そこでレイとリガロンは、淡々と作業に入った。まだ動いているゾンビを見つけては、首を斬るか、頭部を破壊するのだ。
サラも手伝おうとしたが、顔色が悪いので、レイが断った。
クルニアは、ワイバーンの傍に戻って、作業を眺めている。
ゾンビを片付けながらも、レイはゾンビ・マスターを探した。
だが、ゾンビたちと共に転がっている様子はない。
「まずいな。ゾンビと一緒に、クルニアの〈旋風刃〉で倒されたと思ったんだが」
クルニアが尋ねてくる。
「どうした?」
レイは、ゾンビ・マスターのことを話した。
すべての元凶は、このゾンビ・マスターだ。
「奴を逃してしまった。また、新たなゾンビを造られてしまう。それも、生者を餌食にするかもしれない」
「逃してしまったものは、仕方がないだろう」
「……そうかもしれないが」
ジョンたちに、仇を取る、と誓ったのだ。
あのゾンビ・マスターだけは、何としても倒さねばならなかった。
すべてのゾンビを片付けてから、レイたちは墓地の周囲を捜索した。しかし、やはりゾンビ・マスターの姿はない。
おそらく、クルニアの登場で旗色が悪くなったと判断し、単独で逃げたのだろう。
王都には下水道など、隠れるところがたくさんある。
リガロンが、レイの肩を叩いた。
「仕方ねぇさ。冒険者を続けていれば、このゾンビ・マスターと再遭遇するときもあるだろ。そのときこそ、奴を倒すときだ」
「それまでに、どれほどの犠牲者が出ることか」
また、レイには別の懸念もあった。
実は、ゾンビ・マスターは活動するほどに、知性が増す。今夜のゾンビ・マスターは、片言で話すレベルだった。
次回は、もっと賢くなっているだろう。
「厄介な敵を残してしまったか」
今回のクエストは、レイにとって苦いものとなった。
臨時パーティとはいえ、パーティ・メンバーを殺された。
その上、ゾンビ・マスターという、後顧の憂いを残してしまったのだ。
(ゾンビ・マスターだけは、このおれが、必ず斬る)




