25話 レイ・リガロン・サラ vs ゾンビ大行進。
ベル墓地の中央は、窪地になっていた。
そこにジョンたち3人が倒れていた。
レイは、駆け寄ろうとするリガロンとサラを、止めた。
「まて。様子が変だぞ。これは──」
ジョンと2人の魔導士が、立ち上がる。
だが、両手はだらりと下げ、顔には生気がない。それに首の肉が、ごっそりとなかった。何者かに噛み千切られたようだ。
ゾンビ・マスターの仕業だろう。
「ジョン達は、ゾンビ化している。サラ、回復魔法で解除してやってくれ」
サラは混乱している様子だ。
「あ、あの、どうすれば?」
レイは記憶を手繰った。
ヒーラーの知識は無いに等しい。戦士職なのだから、仕方がないといえる。
(まて。それでも、知識としてあるはずだ。そうだ、ゾンビ化を回復できる魔法は、複数ある。その中で、最も会得レベルが低いのは、なにか?)
「サラ、〈エンジェル・ヒーリング〉を使えるか?」
〈エンジェル・ヒーリング〉とは、回復魔法〈ヒーリング〉の上位魔法だ。
回復速度は、〈ヒーリング〉より、かなり高い。
さらに付属効果として、ゾンビ回復もあるのだ。
「は、はい! ですが、呪文詠唱に時間がかかります」
Eランクのヒーラーに、詠唱省略スキルを求めてはいけない。
「何分だ?」
「あの、5分は必要です」
(思ったより、かかるな)
同じ魔法の呪文詠唱でも、ランクによって、長さが変わってくる。Aランクなら数秒で済む魔法が、Eランクでは5分もかかったりする。
「よし、始めてくれ」
サラに指示してから、レイはリガロンに言う。
「サラを守りつつ、後退するぞ。ジョンたちを、傷つけるな」
「ゾンビ化が解けても、生きているかは微妙だぜ」
リガロンの言うことも、もっともではある。
ジョンたちの首は、かなり噛み千切られている。つまり、殺されてから、その死体をゾンビ化された可能性が高い。
だとしたら、〈エンジェル・ヒーリング〉でゾンビ化を戻しても、それは死体だ。
ならば、回復するのを省略して、首を刎ねてしまったほうが早い。
「……だが、生きているうちに、ゾンビ化された可能性もある。だとしたら、まだ助かる見込みはあるんだ」
「了解したぜ、レイ。ジョンたちは傷つけないでおこう」
それにゾンビが3体だ。さほど脅威ではないだろう。
レイが、そう判断した矢先のことだ。
周囲の地面が盛り上がり、突き破られた。
続々と現れたのは、腐敗したゾンビたちだ。
「やられた!」
ゾンビ・マスターは、すでに何十体もの死体を、ゾンビ化していた。
そのゾンビたちを、地面の下に潜ませていたのだ。
その領域へと、レイ達は、まんまと入り込んでしまった。
こうして、レイ、リガロン、サラの3人は、20体近くのゾンビたちに囲まれたのだった。
そこに、ゾンビ化したジョン達も加わる。
レイは、次の指示を出した。
「新たに現れたゾンビたちは、元は死体だろう。リガロン、首を刎ねまくっていいぞ。ただし、ジョン達を間違えて斬るなよ」
「おうよ!」
リガロンが戦斧を振り回す。立て続けに、ゾンビたちの首を落としていく。
レイは、呪文詠唱を続けるサラの傍から、離れなかった。
サラを守りつつ、近づいてきたゾンビたちを、斬り伏せる。
そのときだ。ジョンの仲間の魔導士ゾンビが、突撃してきた。ゾンビに成りたてだから、他のゾンビよりも、動きが速い。
このゾンビは傷つけてはいけないので、蹴飛ばして、遠のかせる。
20体いたゾンビも、リガロンの活躍により、半数まで減っていた。
サラの呪文詠唱も、終わりそうだ。
「これなら、いけそうか」
サラが、レイの肩に触れる。詠唱完了の合図だ。
〈エンジェル・ヒーリング〉は、何度も使えるものではない。
「まず、ジョンを回復してくれ!」
サラが、ジョン目がけて杖を掲げる。
「〈エンジェル・ヒーリング〉!」
白い光が、ジョンを貫く。
とたん、ジョンはその場に倒れた。脈を確認するまでもない。
もう死んでいる。
「サラ! 他の2人も、頼む!」
ジョンの仲間だった2人の魔導士にも、〈エンジェル・ヒーリング〉の光が突き刺さる。
が、ゾンビ化が解けても、死体となるだけだった。
「くっ。やはり、殺してから、ゾンビ化していたのか」
レイは、ジョンの死体に語り掛ける。
この仇は取るぞ、と。
「しかし、ゾンビ・マスターは、どこだ?」
この場にいるのは、ゾンビたちだけだ。肝心のゾンビ・マスターの姿はない。
レイがゾンビ・マスターを探しているあいだも、リガロンは激しく戦っていた。ゾンビどもを蹴散らしていく。
ついに、残りのゾンビは4体となった。
レイも加勢し、一気に片を付けた。
リガロンが呼吸を整える。
「ゾンビは、スライム並みの雑魚だな。これなら何百体と来ようとも、敵ではないぜ」
「ナラバ、300ノぞんびヲ、相手シテモラオウカ?」
片言の発言が、闇の中からされた。
「なんだと?」
視線を向けると、10メートルは離れた墓石の上だ。
そこに、男が立っている。肉体は腐っているが、双眸には知性の輝きがある。
「ゾンビ・マスターか!」
レイが両手剣を構え直し、突撃しようとした。
とたん、全方位から、新手のゾンビたちが現れた。
今回、現れたのは、先ほどの数の比ではない。
数えきれないほどの、ゾンビの群れだ。
この墓地に眠る、すべての死体をゾンビ化したかのようだ。
ゾンビ・マスターの言う300体というのも、あながち誇張ではないかもしれない。
リガロンが舌打ちする。
「畜生。マジで、何百体も寄こしやがったぜ」
たとえ単体が雑魚だとしても、数えきれないほどの量で、一斉に押し寄せて来るのだ。
しかも、ゾンビに噛まれると、高い確率で毒状態になる。ゾンビ化こそしないが、噛まれれば厄介なことは、間違いない。
「どうするよ、レイ? ヤバいぜ、これは?」
ゾンビの群れに取り囲まれ、脱出経路はない。
親玉を倒せば、と思ったが、ゾンビ・マスターは姿を消している。ゾンビたちに紛れたのかもしれない。
サラは、いまにも泣き出しそうだ。
それでも、なんとか堪えている。
「……リガロン。サラを守りつつ、この包囲網を突破するぞ」
「ま、やるしかねぇよな」
ゾンビ・マスターが命じたのだろう。
ゾンビどもが、全方位から、一斉に突撃して来た。
「こんなところで、足元をすくわれるとは」
とたん、13メートルほど先で、大地が爆裂した。
そこにいた50体ほどのゾンビが、周囲へと吹き飛んで行く。
「なにが、起きたんだ?」
ゾンビたちが吹き飛んだため、爆裂した地点は、空白になっていた。
そこには、ワイバーンの姿があった。
いまの爆裂は、このワイバーンの仕業だった。
上空から滑空し、大地を叩いたのだ。
ワイバーンならではの、この凄まじい破壊力。
そのワイバーンには、騎手がいた。
長身の、美しい女だ。
その女は跳び上がるなり、レイの前で着地した。
レイは、直感で尋ねた。
「ラプソディの友人か?」
長身の女魔族は、つまらなそうに言った。
「貴様が、レイか」




