24話 新米ヒーラーの少女、サラ。
ヒーラーの少女サラは、初々しい。もしや、とレイは思った。
「おれは、レイ。こっちのリザードマンは、リガロン。ところで、君は、クエストに慣れていないようだが?」
「はい。先日、ジョンさんにスカウトしていただきました。実戦は、これが初めてでして」
「やっぱり」
実戦が初めての者がパーティにいるのだから、ジョンはもう少し、面倒を見るべきだろう。しかし、ゲスト参加であるレイは、その点を追及するのは止めておいた。
「気楽にやるといい。今回のクエストは、危険はないから」
「そうですか……ですけど、わたし、簡単なクエストなら、ソロかデュオのクエストと思っていましたが」
「パーティで臨んでいるのは、念のためだろう」
レイはそこで言葉を切り、両手剣を抜いた。
墓石の陰から、影が跳び出して来たのだ。
生気のない目に、腐敗した身体。ゾンビだ。
剣を一閃させると、ゾンビの頭部が切り落とされた。
ゾンビを倒すには、頭部を破壊するか、切り離すのが手っ取り早い。
もちろん、〈ファイヤ・ブラスト〉などで灰にしてもいいわけだが。
ジョンと魔導士の2人が、走って来た。
「おお、レイ殿。手柄を持っていかれてしまったなぁ」
クエストを終えた気でいるジョンに、レイは首を横に振った。
「待ってくれ。目撃にあったゾンビは、男のゾンビだった。しかし、これは」
レイは両手剣の切っ先で、倒したばかりのゾンビを示した。赤いドレスを着た、女だ。
「これを男のゾンビと見間違えるとは、思えない。おそらく、ゾンビは2体いる。だとすると、厄介なことになる」
ゾンビは、自然発生することがある。まして、ここは墓地だ。しかし、自然発生するといっても、そうそう死体がゾンビ化するわけではない。
この墓地の規模では、自然発生するならば、1体がせいぜいだろう。
それが2体もいる。
ならば、自然発生ではなく、人工的に造られたのだ。
だとするなら、裏にネクロマンサーが潜んでいる可能性が、ぐんと高まった。
リガロンが舌打ちした。
「まさか、の事態というわけか。どうするんだ、レイ?」
「落ち着け、リガロン。まだ、そうと決まったわけではない」
ネクロマンサーでなくとも、ゾンビを造る存在はある。
レイには、そちらが正解のような気がした。もちろん、ネクロマンサーほどではないが、厄介な敵ではある。
「とにかく、撤退したほうがいいな。ジョン?」
しかし、ジョンは首を横に振った。
「撤退? 冗談じゃない。こんなクエストも完遂できないようでは、パーティ・ランクが下がってしまうだろ」
レイは、ジョンの肩をつかんだ。
「気持ちは分かるが、パーティを危険に晒すのは、リーダー失格だ。ここは撤退するべきときだ」
ジョンはレイの手を振り払い、
「ならば、君たちにはパーティから出て行ってもらおうか。君たちには期待していたが、ただの腰抜けだったようだからな」
そう言うなり、ジョンは魔導士2人を連れ、先へと進んで行ってしまった。
リガロンが、笑った。
「ラプソディがいたら、ジョンの奴は、ボコられているな。レイを腰抜け呼ばわりしちまったんだから」
「リガロン、笑いごとではない。おれの読みが正しければ、ゾンビ・マスターがいるぞ」
「なに、ゾンビ・マスターが?」
「ああ。ネクロマンサーが造ったにしては、このゾンビは出来が悪いからな」
元は人間だったとはいえ、ゾンビはモンスターの枠に入る。
ゾンビ・マスターとは、ゾンビの上位種モンスターだ。
かつては、こう言われた。ゾンビに噛まれることで、生きている人もゾンビ化する、と。
だが、これはデマだった。ゾンビに噛まれても、人がゾンビ化することはない。
しかし、ゾンビ・マスターは別だ。
ゾンビ・マスターに噛まれれば、耐毒性のない者は、一発でゾンビと化してしまう。
ただし、もとが生者ならば、ゾンビ化してしまっても、回復魔法で戻すことが可能だ。
死人がゾンビ化した場合も、回復魔法で戻せる。もちろん、その場合は死人に戻るわけだが。
「ゾンビ・マスターは、ただのゾンビと違って、いくらか知性がある。ゾンビ・マスターの中には、ゾンビどもを指揮するタイプもいるらしい」
「ジョンのパーティじゃ、最悪、全滅もあるってことか?」
「ゾンビ・マスターが、何体のゾンビを操っているかにもよるが」
ゾンビ・マスターは、生者をゾンビにできるように、死体もゾンビにできる。ここは、墓地。ゾンビにする材料には、事欠くまい。
「で、どうするよ、レイ?」
「撤退するように、ジョンを説得するしかないだろ。君は、どうする?」
そう尋ねたのは、リガロンではなく、サラに対してだ。
ジョンと魔導士2人は先へと進んだが、サラは残っていた。
ジョンのパーティ・メンバーとはいえ、サラはこれが初めての実戦。ジョンのパーティに馴染んでいるわけでもないのだろう。
サラは顔を青くしていた。
「あの、わたしは、どうすれば……?」
Eランクでも、ヒーラーだ。
すなわち、ゾンビの天敵といえる。
「もう墓地に入ってしまっているから、単独で脱出するのは危険だ。おれたちに付いて来てくれ。先行したジョンたちと合流し、撤退しよう」
「は、はい! わかりました!」
こういうわけで、小さなパーティが生まれた。リーダーはレイで、メンバーがリガロンとサラだ。
何十人もの大所帯のパーティでなら、分裂することはある。
しかし、たかが6人のパーティで、分断してしまうとは。
(おれが、ジョンの指示に従わなかったせいか? しかし、この流れで撤退しないというのは、愚策だ)
ゾンビ・マスターを舐めてはいけない。
確かにネクロマンサーや吸血鬼ほど、強力な敵ではないかもしれない。それでも、厄介な敵であることに変わりはない。脆弱なパーティを全滅させるほどに。
(間に合ってくれよ)
3人は、墓地の中を走った。




