23話 ゾンビの季節になりましたね。
※ゴブリン退去クエストから、15日後※
夜も更けたころ、鉤爪山脈を越えて、飛来したものがある。
ワイバーンだ。
ワイバーンは、ドラゴンの中では小さい。そのため、竜騎士が騎乗するのにピッタリだ。
ワイバーンが着地し、竜騎士が降り立った。クルニアだ。
冒険者ギルドに登録すれば、第1職業は、SSSランクの竜騎士だろう。
クルニアは軽装鎧に身を包んだ、長身の女だった。
長い亜麻色の髪が、風にそよぐ。
鉤爪山脈の麓でクルニアを出迎えたのが、ラプソディとハニだった。
クルニアは、ラプソディの前に跪く。
「お久しぶりです、姫殿下」
「クルニアちゃん。元気そうね。反乱軍を鎮圧するため、3万の軍勢を率いていたはずだけれど。それと、立ち上がっていいわよ」
クルニアが立ち上がると、長身のため、ラプソディを見下ろす形になる。
「あのような烏合の衆、我らの敵ではございません」
「ふうん。それなら、いま暇? あたし、リウ国で冒険者をやっているのだけど、手伝う気ある?」
「はぁ」
クルニアは困った顔で、ハニを見た。
人間と魔族は敵対している。だというのに、人間の国で、人間のために冒険者をやるというのか?
クルニアの気持ちが、よく分かるハニだった。
「ラプソディ様は、夫君のために冒険者をされているよ」
クルニアが顔をしかめる。
「レイとかいう、弱小な冒険者のことですか」
ラプソディが窘めるように言う。
「クルニアちゃん、レイのことを悪く言ってはダメよ。レイは、次期魔王なのよ」
クルニアは唖然とした様子だ。
確かに、魔王の娘婿ならば、次期魔王ということになる。
が、あまりに信じがたい話なため、考えたこともなかったのだ。
「ですが……人間が、魔王などとは」
「まぁ、パパもそれは反対すると思うわよ」
クルニアとしては、魔王の娘婿が人間という時点で、反対したかったのだが。
ラプソディは続けて言った。
「魔王の座は、あたしが継ぐことになるわね。レイも、魔王なんて、やりたくはないでしょうし」
ひとまず、最悪の事態は避けられた。
そういう意味で、クルニアは安堵の溜息をついた。
「……姫殿下。先ほどのお誘いですが、お受けいたします」
「あら、冒険者をやってくれるの? ありがと、クルニアちゃん! けれど、テグスはまだ、王都には入れないでね。まずは、ドラゴンの飼育許可を得ないとダメみたい」
テグスとは、クルニアが騎乗するワイバーンの名前だ。
ラプソディが離れたときに、ハニはクルニアの傍に行き、小声で注意した。
「クルニアさん。レイを暗殺しようという考えでは、ないよね?」
クルニアは首を傾げた。
「やはり、まずいか?」
「まずいよ。ラプソディ様は、レイに惚れ抜いているよ。それに、レイは悪い奴ではない……人間にしては、いい奴かもしれない」
「安心しろ、ハニ。殺す気などは、ない。ただ姫殿下が見初められた人間が、どのようなものか見たいだけだ」
「……」
なぜだか、嫌な予感のするハニだった。
※※※※
そのころ。
レイは、クシャミした。隣を歩いていたリガロンが言う。
「誰かに、噂されているようだな」
「そうだろうか」
レイとリガロンは、ベル墓地内を歩いていた。
半日前に遡る。
クエスト報酬を受け取りに、レイとリガロンは冒険者ギルド本部に向かった。2人だけなのは、ラプソディとハニは友人と会うため、鉤爪山脈へ向かったためだ。
このときローラから、メンバーを募集しているパーティがある、と紹介された。
「前衛系が足りていないそうです。大至急、必要と」
「どんなクエストなんだ?」
「ゾンビ退治です」
「ゾンビか。まぁ、ラプソディは、夜遅くまで帰って来ないし──やるか、リガロン?」
「いいぜ」
ということで、別のパーティに参加することになった2人。
その夜、ベル墓地に行き、今夜限りのパーティに加わったのだ。
そのパーティは、リーダーがBランクの戦士。
それに、Cランクの魔導士が2人、Eランクのヒーラーが1人、という構成。
ヒーラーとは魔導士だが、回復魔法に特化した職業のことだ。
確かに、このパーティには、前衛系を担当する職業が少ない。ここに、レイとリガロンが加わったのだ。
パーティ・リーダーのジョンが、レイに言った。
「念のため、断っておきたい。君は、自分のパーティを持っているそうだが、このクエストでは、俺の指示に従ってくれ」
レイはうなずいた。
「そのつもりだ。これは、あんたのパーティのクエストだ。おれとリガロンは、ゲスト参加だからな」
クエストを行うのが、王都内にあるベル墓地だ。
ベル墓地は、平民の遺体が眠る墓地であり、王都の外縁部にある。
いまは、夜。ゾンビが徘徊する時間帯だ。
昼間は、ゾンビが隠れてしまっているかもしれないため、わざわざ日が暮れてから出発した。
ゾンビというと、裏にはネクロマンサーの姿がちらつく。
ネクロマンサーは霊魂を呼び出し、時には命のないものに命を与える職業だ。
かなり稀な職業でもある。Aランクのネクロマンサーで、SSSランクの魔導士と同レベルとされる。
となると、SSSランクのネクロマンサーなどが出てきたら、どうなることか。
冒険者ギルドの長い歴史の中でも、そんな化け物は現れていないらしいが。
とにかく、ネクロマンサーが出てきたら、このパーティでは勝ち目は薄い。
ただ、ゾンビがいるからといって、ネクロマンサーが必ずいるとも、限らない。
確かに、ネクロマンサーはゾンビを造る。よって、大量にゾンビが蔓延れば、まずネクロマンサーがいるのだろう。
しかし、目撃情報では、ゾンビは1体のみだ。
自然現象によって、死体がゾンビと化すことも、よくある。
今回は、こっちの例だろう。
ゾンビ1体ならば、Bランクの戦士1人で片付けられる。
それでも、念のために、ジョンはパーティを強化したのだろう。万が一、ネクロマンサーが現れたときのために。
パーティはジョンを先頭に、魔導士の2人、そしてヒーラーと続く。
その後衛を、レイとリガロンが任されていた。後方から敵が来たとき、戦闘では無力なヒーラーを守る役目だ。
ベル墓地は、そりなりに広い。横断するのに、60分はかかるだろう。
ゾンビが目撃されたのは、中央付近だ。
墓石が並ぶ中を、パーティ・メンバーは進んだ。
ヒーラーは、空色の髪の少女だ。16歳くらい。あどけない顔立ちをしている。白いローブを着て、魔法効果を高める杖を装備している。
「おっと、危ない。大丈夫か?」
ヒーラーの少女が蹴躓いたので、レイが支えたのだ。
「あ、ありがとうございます!」
少女は、勢いよく頭を下げた。
それから名乗った。
「わたしの名前は、サラです。あの、よろしくお願いします!」




