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22話 バカな貴族、ラプソディをガチで怒らせたので、人生詰む。



 男爵家の長男として生まれた、ロバク。


 ロバクは幼少より、苦労せずに生きて来た。男爵といえば、貴族の中では低い爵位ではある。それでも、貴族に代わりはない。


 とくにロバクの家は、領地を持っていた。

 つまり、ロバクが好きにできる領民がいるのだ。ロバクは領民の中で、好みの女を見つけては、領館に連れ込んで、手込めにした。

 ロバクにとって、領民などは奴隷と同じなのだ。ロバクの玩具にしても問題がない。


 しかし王都にいるときは、領地にいるときほど、好き勝手には振舞えなかった。

 ここには上位の貴族もいるし、何より王族がいる。それでも、爵位を継いだ以上は、年に何日かは王都に上がらねばならない。

 王の臣下としての義務だ。


 この期間中、飼い始めていたグリフィンが逃げた。芸を覚えないので、配下に命じて、鞭を使わせたのだ。

 すると、開いていたドアから、屋外へと飛んで行ってしまった。

 ドアが開いていたのは、小間使いのミスだ。その小間使いは、2度と同じミスはしないだろう。身体に教え込んでやった。


 問題は、この後だ。

 ロバクは、グリフィンの回収を、冒険者ギルドに依頼した。すると、平民の冒険者が2人派遣されてきた。

 女のほうは、絶世の美少女だった。

 ロバクのタイプだ。王都に来るのも、悪くはないな、と思った。


 ところが、だ。その女を頂こうとしたところ、男のほうが邪魔をしてきた。

 それどころか、あろうことかロバクを殴りつけたのだ。

 平民の分際で、貴族に暴力を働くとは。極悪の極みだ。

 

 ロバクは、冒険者ギルドに駆け込み、極悪な男を始末するように言った。

 しかし、冒険者ギルドが、その男を罰した様子はない。

 信じがたい話だが、冒険者ギルドは貴族であるロバクを、無視したのだ。


 何よりも許しがたいのは、その男がまだ生きていることだ。

 ロバクを殴りつけた、身の程を知らない平民が、だ。


 そこでロバクは、冒険者ギルドの下っ端を買収し、この男の情報を話させた。

 Fランクの戦士で、レイという名だと分かった。生意気にも、パーティを率いているという。

 そのパーティには、ロバクが目を付けた美少女もいた。その女が、ラプソディという名であることも分かった。


 ロバクは、考えた。これはチャンスだ。

 王都の中ならともかく、外でなら2人を襲っても構うまい。

 クエストの行先を探り出し、帰路で待ち伏せをする。上流階級には、この手の汚れ仕事を一任する連中がいる。


 ようは、暗殺者の一団だ。

 その名も、〈梟の庭〉という。


 彼らの拠点がどこにあるかは分からない。ただ接触の方法は知っていた。王都内にある、〈止まり木〉という酒場。

 そこの店主に合言葉を言うと、その度に変わる接触場所を教えてくれる。


 ただし、この煩瑣な作業を自分で行うつもりはなかった。ロバクは、酒場に執事を行かせ、接触場所を聞き出した。

 さすがに、暗殺者との接触は、自分で行ったが。


 そうして会った男は、長身痩躯。フードで顔を隠していた。

 ロバクは、依頼内容を伝えた。冒険者ギルドのレイとラプソディを捕まえて来い、と。

 殺しの依頼ではなかった。 

 なぜなら、レイの前で、ラプソディを犯すためだ。

 そのあとで、レイのことは、ロバク自身が嬲り殺しにしてくれる。ラプソディは飽きるまで飼うつもりだ。


 ロバクは、〈梟の庭〉の男が了解するのを、信じて疑わなかった。

 噂によれば、〈梟の庭〉には、元A~SSSランクの冒険者がゴロゴロしているという。

 ところが、暗殺者の男は断って来た。


 ロバクは、耳を疑った。


「なんだと? 俺の命令が聞けないのか?」


 暗殺者の男は、冷ややかに言った。


「閣下。私は、あなたの部下ではありません。命令に従う義務はありません」


 ロバクは、暗殺者の男に恐怖を覚えた。


「し、しかし……そうだ。カネなら、いくらでも支払うぞ? 金貨が何枚欲しい? 言ってみろ?」


 暗殺者の男は溜息をついた。それから、言い聞かせるように言う。


「閣下。悪いことは言いません。ラプソディという冒険者、あの女には関わらんことです。我々の情報が正しければ、あの女は災いそのものだ」


 だが、ロバクが忠告を聞くことはなかった。それどころか、〈梟の庭〉とは、腰抜けの集まりではないか、と決め付けた。


 次の策として、ロバクは傭兵を雇うことにした。

 確かに、傭兵では〈梟の庭〉より質は落ちる。

 とはいえ、標的はFランクだ。傭兵でも充分だろう。


(初めから、こうしていれば良かったのだ)と、ロバクは思った。


 数日後、レイのパーティがクエストに出立した、という情報を得た。

 さっそくロバクは、傭兵たちを派遣した。街道で待ち伏せさせる。

 具合の良いことに、レイたちが帰ってくる街道は、普段はあまり使われていない。つまり、人通りは激しくない。

 これなら、標的を間違えることもないだろう。


 そして、今。


 ロバクは王都の別邸にいた。自室で葡萄酒を飲みながら、傭兵たちの帰りを待っていた。

 レイは殺すことにした。本当なら、あの平民の前で、ラプソディを甚振ってやりたかった。しかし、下手に生かしておいて逃げられても、面倒だ。

 そこで傭兵どもに、男は殺せ、と命じたのだ。

 もちろん、女は傷つけてはならない、とも厳命した。


 ロバクにとって、女などは道具でしかない。冒険者などを気取っているが、何人かの傭兵に囲まれれば、泣き叫ぶことしかできまい。


 ロバクは舌なめずりした。

 いまにも、ラプソディが運ばれてくるはずだ。

 そのとき、誰が上位者なのか、教えてやろう。


 ある意味では、ロバクの予想は当たった。

 

 ラプソディが訪れた点だけは。 


「お邪魔かしら?」


 ふいに室内から声がした。ロバクはハッとして、振り返った。

 そこに、あの女がいた。銀色の髪をした、美麗な少女。ラプソディ。


 ロバクの動揺は、すぐに去った。

 なぜ、この女がここにいるのか。傭兵が連れてきたわけではなさそうだが。

 しかし、ロバクは疑問も気にしないことにした。重要なのは、この女がいることだ。


 ロバクは椅子から立ち上がり、ラプソディへと歩み寄った。


「もう逃がさんぞ、アバズレめ」


 ラプソディは微笑んだ。


「あら、そうなの?」


 ラプソディの左手が、ロバクの右腕を掴んだ。右手は、ロバクの右肩に置かれる。

 ロバクは、バカにしたように笑った。


「なんのつもりだ、小娘」


「こういうつもり」


 ラプソディが、軽く引っ張る。

 それだけで、ロバクの右腕が、肩から引きちぎれた。


「???!!」


 片腕を引き抜かれた激痛は、少し遅れて来た。

 そのときには、ロバクの左足も潰されていた。

 ラプソディが軽く蹴っただけで。


「うぎゃぁぁぁぁあぁ!」


「あたしを侮辱するだけなら、楽に殺してあげたのにね。まさか、あたしのレイを傷つけるなんて。あんたは、やってはいけないことを、やったのよ」


「誰かぁ、誰かぁ!」


 ロバクには、私兵がいた。レイたちを襲わせるのに、さすがに私兵は使わなかったが。

 その私兵たちが、1階にいるはずだ。


 ラプソディは微笑む。


「私兵に助けを求めているの? 残念。みんな、殺してしまったわ。邪魔して欲しくなかったし──レイは、無用な殺生は反対するのだけどね。優しい人なのよ。だから、あんたの私兵を殺してしまったことは、内緒にしておいてね」


 このとき、すでにロバクの左腕と右足も、ラプソディによって引き千切られていた。

 達磨と化したロバクは、絶叫する。

 何とか、逃げようと転がる。


「だ、だずげでぇ゛!!! だずげでぇくだざぁい゛、お、おねがいじま゛ず!!! じ、じに゛だぐな゛い゛でず!!! じ、じ、じに゛だぐばな゛い゛、だずげでぇぇぇぇ゛、ヴベ」


 ラプソディが、ロバクの頭部を踏みつぶしたのだ。


「さて、帰らないと。レイが待っているわね」

 


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