表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/186

21話 干し草の山には、たいてい刺客がいる。



 ホブゴブリンの指示によって、ゴブリンたちは移動を開始した。大急ぎである。いつまた〈トルネード〉が発動するか知れないと、ビクついているようだ。

 レイは馬車に移動した。


「ゴブリンたちが、指示通りに遠くまで移動するか、見届けよう」


 ゴブリンの群れから、50メートルほど離れ、馬車で追跡した。古代神殿ルマから、だいたい20キロ離れたところで、レイは納得した。


「とりあえず、約束は守ったようだ」


 レイは、隣に腰かけているラプソディを見た。


 美麗な顔立ち。銀色の髪は腰まで伸ばしている。胸は豊かで、肌は透き通るようだ。レイの説得で、最近は衣服の露出度も低減した。

 ラプソディは言う。


「けど、レイ。連中、また舞い戻ってくるかもしれないわよ」


 レイも、その可能性は認めていた。

 ゴブリンたちは、今はラプソディの〈トルネード〉に恐れを成している。

 だが何週間かすれば、その恐怖も薄らぐだろう。

 そんなときに、またも〈守護獣〉の夢を見たら、どうなるか。古代神殿ルマに舞い戻る可能性は、高い。


「まぁ、そのときは、そのときだ。再度、クエストを受けて、立ち退かせに来てもいい」


 今回、冒険者ギルドから受けたのは、殲滅クエストではなかった。

 冒険者ギルドとしても、村落を襲ったわけでもないゴブリン達を殲滅させるのは、気が引けたのだろう。

 しかし、次回はそうはいかないだろう。


 レイは、遠のくゴブリンの群れに向かって、呟いた。


「うちの新妻に殲滅されたくなければ、もう戻ってくるなよ」


 それから、ラプソディたちに言った。


「さ、帰ろう!」


「まって、レイ。古代神殿ルマを、ひと目でいいから見てみたいわ。大丈夫、ルマには入らないから。これなら、〈守護獣〉とも戦わないでしょ。ね、だから、お願い」


 ラプソディにここまで懇願されては、レイの気持ちも揺らぐ。


「……まぁ、遠くから見るだけなら」


 今回のクエストでは、出番のなかったハニ。

 金色の髪をツインドリルにした少女だ。座っていると、尻尾が邪魔そうだ。慎ましい胸の前で、腕を組んでいる。


「ラプソディ様。パーティでクエストを受けているときは、ボクはレイに従属しているのですよね?」


「そうよ、ハニちゃん。パーティのリーダーは、レイなのだから」


「わかりました。それでは、使命を全うします。レイ、助言するよ」


「なんだ?」


「ラプソディ様を、古代神殿ルマに近づけさせてはダメだよ。ラプソディ様ほどの存在が接近すれば、〈守護獣〉は絶対に反応するからね。最悪、〈守護獣〉がルマから飛び出して来て、そのまま戦闘に突入するかも」


「な、なんだって!」


 ラプソディを見ると、あからさまに視線を逸らした。

 どうやらラプソディは、〈守護獣〉が反応することを予測していたらしい。その上で、古代神殿ルマに近づこうとした。


「……ラプソディ」


「……ごめんなさい、レイ」


 ハニが疲れた様子で溜息をついた。

 ハニとしては、複雑だっただろう。ラプソディが喜ぶことを、ハニは願っている。〈守護獣〉と戦いたいのなら、戦わせてあげたい。

 一方で、そのラプソディからは、こう厳命されている。パーティを第一に考え、レイの指示に従うように、と。

 そうなると、ラプソディの企みを、レイに明かさないわけにはいかなった。


(ハニも、気苦労が絶えないな)


「よし、王都に帰るぞ。ラプソディ、古代神殿ルマには、絶対に近づかないからな」



「……はい」



※※※



 王都ルクセンは、周囲へと街道が伸びている。ゴブリンの群れを立ち退かせた後、馬車は街道の一つに入って、王都を目指していた。


 ところが、その途中でのことだ。

 街道を塞ぐようにして、横向きに荷車が置かれていた。


 このとき御者をしていたのは、レイだった。荷車を迂回することもできるが、荷車を退かしたほうが早いだろう。

 レイは御者台から飛び降り、荷車に向かった。

 荷車の周囲に人はいない。こんなところに荷車を置いたまま、どこかに行ってしまったようだ。


「困ったものだな」


 荷車には干し草が積まれている。重たい荷ではないので、動かすのは簡単だろう。

 何ら警戒せず、レイは荷車に近づいた。


 とたん、干し草の山から、複数の人影が跳び出した。


「なんだ!」


 瞬時に、腰から両手剣を抜くレイ。

 だが、レイの敏捷性は低い。さらに敵は一斉に攻撃してきた。すべての攻撃を捌くことは、不可能だ。

 斬撃の一つが、レイの腹部を抉った。


「く、そ」


「レイ!」


 レイの頭上を跳び越して、ラプソディが着地する。レイを守る位置だ。

 干し草に潜んでいた刺客は、6人。全員、長剣で武装している。


 ラプソディは、まず近くにいた刺客を捕まえ、片手で頭を引き抜いた。

 それから、〈ファイヤ・ブラスト〉を、3人の刺客へと叩き込む。刺客たちは絶叫しながら、激しく燃え、ついには灰と化した。

 5人目の刺客は、捕まえるなり、生きたまま皮を剥いだ。全身の皮を剥がれた刺客は、苦しみ悶えた。しばらくラプソディは、それを眺めていた。

 最後には、心臓を抉り出し、握りつぶしたが。


 最後の1人となった刺客は、20代の男だ。顔面蒼白で、震えている。小便を漏らしていた。


「た、助けて、命だけは、た、助け」


「リガロン。捕まえておいて。まだ、生かしておくのよ」


 駆け付けたリガロンが、刺客の顔面に拳を叩き込む。


「このクソ野郎が、うちのリーダーに何してくれる!」


 刺客が吹き飛ばされる。


 レイはそれを見届けてから、仰向けに倒れた。

 そんなレイの傍に、ラプソディが屈みこむ。レイの腹部からの出血は、激しい。


「……ゆ、油断した。まさか、干し草の中に……刺客が、潜んでいたなんて」


 ラプソディは、レイの頬を撫でる。


「いまは喋らないで、体力を使ってしまうから。大丈夫よ、あたしが助けるから」


 ラプソディは、レイの傷口に片手を近づけ、〈ヒーリング〉を発動。しかし、なかなか治癒されない。傷が深いため、〈ヒーリング〉が効果を発揮していないのだ。


「ハニちゃん!」


 すでにハニは、レイの傍に屈んでいる。


「ラプソディ様、ボクはどうすれば?」


「ハニちゃんも、〈ヒーリング〉を使って。2人がかりなら──」


「わかりました!」


 ハニも〈ヒーリング〉を発動する。

 2人とも魔族であるため、低級の回復魔法である〈ヒーリング〉しか使えない。

 しかし、〈ヒーリング〉を2人がかりで行うことで、治癒の力を強めることができるのだ。


 レイの腹部の傷は、治癒されていった。痛みが引いていき、傷口がふさがる。


 レイはホッとした。


「ありがとう、ラプソディ、ハニ。君たちがいなかったら、いまごろ出血多量で死んでいたよ」


 ラプソディが、レイを抱きしめる。


「良かったわ、レイ! レイが死んじゃったら、どうしようかと……」


 それから、泣き出してしまう。


 レイは、ラプソディの背中を優しくさすった。


「もう大丈夫だから」


 ハニは、溜息をつく。


「防御力が低いのは、考えものだね」


 リガロンが、気絶した刺客を引きずってきた。


「レイ、無事そうだな。ヒヤヒヤさせんなよ。で、この野郎、どうする?」


 ラプソディは、もう一度、レイの傷が癒えたのを確認した。それから、刺客のもとまで行く。

 刺客の頭に左手を置いて、魔法を発動。


「〈リーディング〉」


 レイが首を傾げる。


「初めて聞く魔法だ」


 ハニが説明する。


「記憶を読む魔法だよ」


「刺客の記憶を読んでいるのか」


「ラプソディ様は、この襲撃が無差別ではない、と考えられているようだね」


「無差別ではない? つまり、おれたちが狙いだったのか?」


「というより、レイ個人ではないかな?」


 レイは考えを口にした。


「おれたちが受けたクエストを知っていれば、どこに向かったか分かる。つまり、帰路のルートも推定できる。だから、待ち伏せは可能ではある、が……おれは、誰かに恨まれていたかなぁ」


 ラプソディは左手を、刺客の頭から離した。記憶を読み終えたようだ。

 それから、〈アイス・ニードル〉を刺客の脳天に刺して、始末する。


 ラプソディからは、激しい怒りが放射されていた。


「……ラプソディ?」


「刺客の記憶を読んで、雇い主が分かったわ」


「誰だったんだ?」


 ラプソディは、レイの質問には答えなかった。


「ハニちゃん、リガロン。レイのことを頼んだわ。まだ傷が癒えたばかりで、身体が動きづらいはずだから」


「ラプソディ、君はどこへ──」


 ラプソディの姿が消えた。ワープ魔法を使ったのだ。


 レイは、呟いた。


「ラプソディは、刺客の雇い主のもとに行ったようだ」


 ハニがうなずいた。


「どこの誰かは知らないけど、その雇い主は、これから地獄を見るね」 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ