16話 レイ・ハニ・リガロン VS 吸血鬼リーク。
先行したハニが、すぐに見えなくなった。そこはAランク格闘家の敏捷性だ。
レイとリガロンが唖然としていると、苛立たしそうにハニが戻ってくる。
「遅くて困るよ! カメ並みだよ!」
「……すまん」
カメ並みは言いすぎだろ、と思うレイだが、ハニの足を引っ張ってしまったのは事実だ。
ハニが呪文詠唱し、レイとリガロンを順に指さす。
「〈スピード・スター〉──。さ、これでいいよ。一定時間、敏捷性を5倍にしたよ。これで、付いて来られるね?」
ハニが走って行く。
追いかけて、レイも駆けだす。とたん、凄い勢いで、景色が後ろへと流れていった。
まるで、馬に乗っているようだ。いや、馬だって、この速度は出せないのではないか。これが、ハニの速度か。
森に入っているため、樹木を避けながら、走る。
やがて月明りのもと、吸血鬼リークの背中が見えてきた。吸血鬼も敏捷性に優れるが、ハニの〈スピード・スター〉が上回ったようだ。
「待て、リーク!」
リークが、ちらりと後ろを向く。とたん、リークの姿が消える。
「しまった! ワープ魔法か!」
隣を走るハニが、呆れた調子で言う。
「リークがワープ魔法できるのなら、とっくに使っているって。奴は、蝙蝠になったんだよ!」
レイの必殺技スキル〈茨道〉を回避するときも、リークは蝙蝠に化けた。〈蝙蝠化〉スキルは、意外とバカにならない能力だ。
「蝙蝠の状態で、夜陰に紛れられると、見つけるのは至難だぞ」
ハニが呪文詠唱してから、
「なら、明るくすればいいよ。〈ハウンド・フレイム〉!」
とたん、大地や樹木から、複数の火柱が噴き出る。
蝙蝠化したリークにも、火柱は命中したようだ。ヒト型に戻ったリークが、火炎をまとって転がってきた。
すかさず、ハニが追撃する。
「〈ドリーネ・フレイム〉!」
炎の壁が出現し、リークを押し潰す。
刹那、リークの周囲に、刃のような風が出現。おそらく、〈ウインド・ブレイド〉だろう。
風刃が炎の壁を裂いて、そこからリークが転がり出る。
炎の壁から脱したといっても、すでにリークは瀕死のダメージだ。
しかし、すぐさま〈リザレクション〉スキルが自動で発動され、リークは全回復した。
レイは考える。
(〈リザレクション〉スキル。やはり、厄介だな。ラプソディが吸血鬼ラモを殺したときのように、〈リザレクション〉の発動前に、息の根を止めるしかない)
リークが、レイたちの前方に立つ。逃げることは止めたようだ。
レイ、ハニ、リガロンは横一列に並んだ。
リークとの距離は、8メートルほど。
ハニとリークが呪文詠唱を始めたのは、同時だった。レイとしては、リークの詠唱完了を待ってやる必要はない。
「行くぞ、リガロン!」
「おうよ!」
レイとリガロンは駆け出し、リークに肉薄する。いまだ〈スピード・スター〉の効果は健在だ。しかし、リークは高く跳躍することで、レイたちの攻撃を回避した。
(くそ。〈スピード・スター〉は、ジャンプ力まではプラスされないからな)
先に、ハニの呪文詠唱が完了した。
「〈ライトニング・ブラスト〉!」
巨大な雷の砲弾が、ハニの両手から連射される。一発でも食らえば、確実に感電死する威力だ。
だが、雷の砲弾が命中する前に、リークも呪文詠唱を完了させてしまった。
「〈ブラック・ホール〉!」
とたん、ハニの後ろで、空間が裂けた。そこから闇黒の球体が覗く。雷の砲弾が軌道を外れ、闇黒の球体へと飲み込まれる。
レイは呻いた。
(どうやら、あの闇黒の球体が、ブラック・ホールという代物らしい。しかし、これは──)
ブラック・ホールへ、周囲のものが吸い込まれていく。雷の砲弾だけではなく、ブラック・ホールの近くにいたハニも、だ。
「ハニ!」
「あぐぅぅぅ!」
ハニは大地を踏みしめ、何とか持ちこたえる。
しかし、これでは、まともに戦闘などできない。少しでも注意を逸らせば、ブラック・ホールへと吸い込まれてしまうだろう。
レイとリガロンも、ハニを助けには行けない。
2人は、一定の距離が離れているからこそ、ブラック・ホールの吸引範囲から外れているのだ。もしも、ハニを助けるために近づけば、ハニより先にブラック・ホールへと吸い込まれてしまうだろう。
リークが大地に立ち、勝ち誇った笑声を上げた。
「魔導士を潰してしまえば、こちらのものだ! 冒険者ども、貴様らの血は、私がいただくぞ! とはいえ、そこのリザードマンの血は、願い下げだがな」
レイは状況を見極めた。
(勝つチャンスが、見えた)
「ハニ! 〈ライトニング・ブラスト〉を撃てるか?」
ハニは、ブラック・ホールの吸引に耐えながら、うなずいた。
「な、なんとかね!」
リークが嘲笑う。
「ふん。そこから、いくら撃って来ても、私は全て回避してしまうぞ」
レイは、両手剣の切っ先をリークへと向ける。
「村人を虐殺した報い、受けてもらうぞ!」
リークが嘲笑う。
「雑魚は大人しく、私の餌になっていろ!」
レイは怒鳴った。
「跳ぶぞ、リガロン!」
レイのパーティ・リーダーとしての指示は、ハニとリガロンに伝わった。
レイとリガロンが、ジャンプする。
同時に、ハニが〈ライトニング・ブラスト〉の雷砲弾を、大地へと放つ。
「貴様ら、一体、なにを、ぐあっ!」
電撃は大地を駆け抜け、立っていたリークまで達したのだ。一方、レイとリガロンは空中にいたため、電撃を受けなかった。
電撃を受けたリークが、片膝を突く。しかし、〈ライトニング・ブラスト〉を直撃したわけではないので、ダメージは軽微だ。
レイは言った。
「だが、それこそ好都合だ! ダメージが軽いのなら、〈リザレクション〉スキルが発動して、お前が全回復することもないだろうからな!」
リークが唸る。
「貴様、小癪なことを、殺してくれる!」
「オレを忘れてもらっちゃ、困るぜ! 〈爆裂斬〉!」
リガロンがリークへと飛びかかり、戦斧を振り下ろす。リークは回避し、戦斧は大地に叩き込まれた。
とたん、地面が爆裂し、リークの身体も巻き込んだ。
リークの身体が転がり、なんとか立ち上がる。
電撃と〈爆裂斬〉の余波で、リークの動きは緩慢だった。
何よりも、集中力が欠けていた。そのため気づかなかったのだ。
レイが、懐に飛び込んで来たことを。
「な、貴様!」
「これで、お終いだ! 〈茨道〉!」
必殺の斬撃が、リークの胴体に叩き込まれる。
吸血鬼の防御力が、刃を弾こうとした。
しかし、レイの攻撃力がそれを上回った。
「人間ごときがぁぁぁあ!」
リークの胴体が、真っ二つに切り裂かれた。
レイは両手剣を振りぬいたところで、固まった。
その傍で、リークの死体が、ゆっくりと地に落ちた。




