10話 リザードマンどもを蹂躙する、新妻さんとボクっ娘。
ラプソディは、〈ライトニング・ボール〉を連射し、残りのリザードマンを倒していく。あっというまに死屍累々が築かれた。
「東から来た雑魚の掃除は、これで終了ね」
レイは死体の数を数えて、ハッとした。
「19体分しかない! ラプソディ、気を付けろ! もう1体いるぞ!」
ソイツは、仲間の死体の下に隠れていた。パッと跳び出すと、ラプソディに襲いかかる。
この20体目のリザードマンは、戦斧を振り上げ、怒鳴るように言った。
「〈砕散〉!」
ソイツの戦斧が、鈍く輝く。
(必殺技スキルか!)
防御壁を吹き飛ばし大穴を開けたのも、このリザードマンの必殺技スキル〈砕散〉のようだ。通常攻撃の何倍もの威力を持った戦斧が、ラプソディ目がけて振り下ろされる。
「ラプソディ!」
「あら」
ラプソディは、左手の人差し指で、戦斧の刃を止めた。
〈砕散〉を放ったリザードマンが、あんぐりと口を開ける。
渾身の必殺技だというのに、指先で止められてしまうとは。悪い夢を見ているような気持ちだろう。
「なんか、ウザいわね」
ラプソディが右手を一閃させる。20体目のリザードマンの首が切断され、落ちた。
これで東から攻め込んで来た20体は、全滅したことになる。
「……ところで、ラプソディ。聞くまでもないんだろうが、南からの52体は、もう片付けたんだよな」
「もちろんよ。ただ殲滅系の攻撃が使えないから、時間はかかったわね」
レイが11体をようやく倒していた時間で、ラプソディは52体を片付けた上、この東方面へと駆け付けたわけだ。
「ラプソディ。二手に分かれて、北と西へ加勢に行こう」
ラプソディは探索魔法を使った。
「リガロンが苦戦しているわね。あたしが、西へ行くわ。レイは念のため、北に行ってちょうだい」
北からは、48体のリザードマンが攻め込んでいる。
対するハニは、一人だ。それでも、『念のため』ということのようだが。
「了解した」
ラプソディと別れ、レイは町を斜めに突っ切って、北方面へと向かった。
そこに待っていたのは、すでに築かれた死屍累々。リザードマンの死体が、何十体と転がっている。
だが、まだ戦闘中だ。
ハニは、目にも留まらぬ速度で跳び回っては、リザードマンに拳を叩き込んでいる。まるでダンスのようだ。
一発の拳で、リザードマンは命を絶たれていく。
ハニの本職は、魔導士という話。しかし、そこは魔王の娘の親衛隊員。格闘家としても、Aランク以上の強さがあるようだ。
(おっと。見惚れている場合ではなかった)
レイは、両手剣の柄を握りなおして、走り出した。
ハニが素っ気なく尋ねて来る。
「人間、ボクに何か用?」
「加勢するぞ!」
ハニは、肩をすくめた。
「お好きに」
レイは、手近にいたリザードマンを斬り伏せた。そこから立て続けに、2体倒す。
「後ろ!」
ハニが声を張り上げてから、レイに向かって、リザードマンの死体を投げて来た。
レイはハッとして、伏せる。
投げられたリザードマン死体は、レイの上を通過して、背後から迫って来ていたリザードマンに命中した。
レイは起き上がり、死体の下敷きになったリザードマンに、トドメを差す。
「ハニ、助かった!」
「人間なんて助けたくはないけど、ラプソディ様の夫だから、仕方なくだよ!」
この間にも、ハニは眼前のリザードマンを殴り倒す。そのパンチは、防御壁も粉みじんにする攻撃力があるだろう。
やがて、敵はいなくなった。念のためレイは、死体の数が48体あることを確認した。
レイは肩で息をしている。一方、ハニは呼吸を乱してさえもいない。
(さすがだな。本業の魔法を使わずに、この戦闘力とは。しかも、親衛隊とやらには、このレベルがゴロゴロといるのだろう。どうりで冒険者たちが、魔王城をいつになっても攻略できない訳だ)
「ハニ、ラプソディたちに合流しよう!」
2人は、西方面へと走った。
(どうせ、もう終わっているだろうが)
レイの予想通りだった。
西方面での戦闘は終わり、20体のリザードマンの骸が転がっている。
ラプソディは掠り傷ひとつ、負っていない。当然である。ラプソディは防御力も、途轍もない。リザードマンの戦斧などでは、千回、同じ個所に当たって、ようやく掠り傷ができる程度だ。
一方、リガロンは事情が違う。リガロンは、ただの『はぐれリザードマン』だ。
1体で、20体を相手にするのには、初めから無理があった。
「リガロン。負傷したのか?」
リガロンの右脇腹には、真っ赤な血が見える。
「ああ。だが、あんたの奥さんが、回復魔法を使ってくれた。血の汚れだけで、もう傷はない」
「ラプソディ。君は、回復魔法も使えたのか」
回復魔法は、白魔法の系統だ。魔族と白魔法は、相性が悪い。
「ええ。〈ヒーリング〉程度だけれどね。だからレイ。あんまり大怪我はしないでよ」
〈ヒーリング〉は、回復魔法の中ではレベルが低い。切断クラスの大怪我では、治癒が追い付かないのだ。
「それはそうと、レイ。リガロンは、並みのリザードマンではないわよ。あたしが駆け付けたとき、もう敵を10体も倒していたもの。改めて、彼のステータスを見てみたけれど、リザードマンにしておくには惜しい数値だったわね」
リガロンが苦々しげに言った。
「オレは、リザードマンだ。おかしなことを言うな」
ラプソディは、何やら考え込んでいる様子。それから、顔を輝かせた。
「レイ。冒険者ギルドでは、パーティを組まないと臨めないクエストもあるのよね?」
「ああ。どっちかというと、パーティを組むクエストのほうが、多いかもしれない。なぜ?」
「クエストをするパーティは固定できるのでしょ?」
「もちろんだ。といっても、冒険者ギルドが固定するわけではない。ようはパーティを決めた状態で、クエストを受注しに行けばいいわけだ。そのパーティを毎回同じにすれば、結果的に固定したことになる」
「それなら、これでパーティは決定ね。とりあえず、4人いるわ」
レイは唖然とした。
4人ということは、レイとラプソディに加えて、ハニとリガロンも含まれている。
「まった。ハニは魔族だろ。リウ国で暮らすのは、問題がある」
「獣人のフリをして生活すれば、大丈夫よ。さっそく魔王城に指令を送り、偽の身分証を作らせましょう」
ラプソディも偽の身分証によって、冒険者ギルドに登録し、冒険者カードを得ている。
「ハニの気持ちも、聞いたほうがいいんじゃないか」
ラプソディは、ハニを見やる。
「嫌?」
「ラプソディ様のお傍にいられるのでしたら、どこだろうと構いません」
そう答えたハニは、本心のようだ。
「……ハニは分かった。しかし、リガロンはどうかと思うが。リガロンは、人間の村を襲った前科がある。家畜泥棒だけとはいえな」
「ねぇ、レイ。協力したら、リガロンは無罪放免という約束だったわよね? だけど、そんなこと、Fランクの戦士が決めてしまっていいものなの?」
「……いや、それは」
「つまり、冒険者ギルドには無断で、リガロンを逃がすわけよね。だけど、自由になったあとのリガロンの責任は、レイにあるのよ。リガロンがまた悪さをしたら、それはレイの罪になるの」
「……まぁ、それは」
「なら、いっそのこと仲間にして、近くから見張っていたほうがいいと思うわよ」
ラプソディの指摘は、間違ってはいない。
レイは、リガロンに尋ねてみた。
「本人は、どうなんだ? 心を入れ替えて、冒険者として人々に尽くす気はあるのか?」
リガロンは肩をすくめる。
「オレは、あんたに命を助けられたようなものだ。逮捕されていれば、家畜泥棒でも死罪だったろうからな。お上は、リザードマンという種族に厳しいからよ。だから、あんたが決めてくれ。あんたが望むなら、オレは立派な冒険者になろう」
レイは溜息をついた。
「わかった。ここに、4人のパーティが結成したな」




