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水底呼声  作者: 宣芳まゆり
番外編
224/227

砂漠の歌姫9

国王の登場でわき立つ前庭で,ライクシードはメイシーに部屋でふたりきりになろうと誘った.

「こんなにも人が大勢いては,口づけすらままならない.」

彼に肩を抱かれて,メイシーはうなずく.

静かな場所に行き,父のことについて相談したい.

手をこまねいていたら,メイシーたちは愛し合っているのに別れるはめになる.

たがいに想いを打ち明けてから,ライクシードは優しく抱き寄せてくれるようになった.

このぬくもりを失いたくない.

日が落ちたばかりの前庭を,メイシーは夫と手を握り合って抜け出す.

夕やみが,ふたりの姿を隠した.

そしてライクシードの自室に入ったとたん,彼はきつく抱きしめてきた.

「ずっと君とこうしたかった.」

切ない声に顔を上げると,深い青の瞳がある.

初めての口づけは,夢のようだった.

大きな白い手が,服の下の肌に触れてくる.

あっという間に服が脱げ落ちて,メイシーはぎょっとした.

「何をするのですか!?」

服を取って身を守ろうとするメイシーを,ライクシードはひょいと担いで寝室まで連れていく.

「待ってください.私は相談があるのです.」

メイシーはあわてて抵抗する.

「もう待てない.君と結婚して,四十六日もたった.」

彼はものすごく真剣に訴える.

「ですが,あと一日お待ちください.」

「無理だ.」

メイシーをベッドに降ろすと,強引に押し倒す.

「それから失恋の歌は,――月が見守っているから想いが届かなくていいとかは歌わないでくれ.私にも君にも,必要のない曲だ.」

「でも好きな曲なんです.」

夜が更ける前に,メイシーの純潔はあっけなく散った.

翌朝,目覚めたとき,メイシーはぼう然自失の状態だった.

歌や物語の中では,こういう朝は幸せをかみしめるものなのに.

もはや離婚はできない.

喜ぶべきだが,父のことを考えると不安だ.

「だから,待ってとお願いしたのに.」

ライクシードは隣で,気持ちよく眠っている.

こんなにも,おさえのきかない人だったなんて…….

メイシーはとりあえず,ベッドの下に落ちた下着や服を拾って身につける.

ライクシードが,ぼんやりした様子で起き出した.

彼は申し訳なさそうにまゆじりを下げて,いつもの調子で「すまない.」と謝ると思いきや,

「朝の光の中でも,君はきれいだ.愛しているよ,砂漠の歌姫.」

とろけるような笑顔でメイシーをつかまえて,再びベッドに押し倒す.

「待ってください! 相談があると,何度言えば理解するのですか?」

再度ことにおよぼうとするライクシードに,メイシーは思わず,ばっちーんと手を上げた.


「その顔は何だ? 左のほおが赤くはれているぞ.」

「何でしょうね.」

バウスの問いに,ライクシードは不機嫌な声で答えた.

メイシーは,隣に立つ夫をにらみつけるだけでせいいっぱいだ.

バウスはにやにやしたかと思うと,腹を抱えて笑い出す.

「わが義妹は腕力があるらしいな.お前の顔がこんなにはれているのを,初めて見た!」

「兄さんもマリエに,分厚い本でなぐられたことがあるんじゃないですか!?」

ライクシードは真っ赤になって怒った.

「マリエが,そんな本が傷むことをするものか.」

「メイシーだって,ウィッヂでなぐったわけではありませんよ.」

この部屋には,メイシーとマリエとライクシードとバウスしかいない.

なので兄弟は,遠慮なくののしりあっている.

ちなみにマリエは,兄弟げんかを適当に聞き流していた.

多分,ライクシードの謝りぐせはなくなったのだろう.

今までなら「すまない.」と口にしそうな場面で,彼は謝罪しなくなった.

だからなのか,昨日よりも,自信のある堂々とした男に見える.

きっとメイシーは,彼にいい変化をもたらした.

そう考えると,気はずかしくて,くすぐったくてうれしい.

ライクシードとバウスはひとしきり不毛な言い争いをしてから,本題に入った.

「相談したいことは何だ?」

全員がソファーに腰かけてから,バウスが問いかける.

メイシーはライクシードに打ち明けたことを,向かいの席に座る国王夫妻にも話した.

自分の父であるヘキが問題を起こし,セイキが花嫁の交換を提案していることを.

「確かに困った問題だな.だが大火ではなく,小火だ.」

バウスは断言した.

「ヘキ族長が何を言ってきても,私たち神聖公国の人間は彼の一族とは交易しない.また彼の一族を厚遇することもないわ.」

マリエも口を開く.

「だから放っておけばいい.結婚相手を変える必要はない.」

義兄の言葉に,メイシーは思った以上にほっとした.

「けれど,ならばなぜセイキ族長は,花嫁の入れ替えを要求したのでしょうか?」

メイシーはたずねる.

「君は昨日が,セイキ族長と初対面だったな?」

「はい.」

バウスの質問に,メイシーは答えた.

「たくさんの兄弟姉妹がいると聞いたが,姉のロウシーとは,どれだけ親しいのだ?」

「私にとって,母とも言える女性です.年齢は,十五才ほど離れています.ただ,お姉さまが嫁いでからは,会う機会がありません.」

「何年ぐらい会っていないの?」

マリエが問いかける.

「少なくとも十年は,顔を合わせていません.」

ロウシーと別れたとき,メイシーは七才だったか八才だったか,記憶は定かではない.

なるほど,とバウスはマリエとうなずいてから,

「ということは,セイキ族長は君を試したんだ.」

メイシーはライクシードと結婚したことによって,政治的に重要な位置に立った.

「しかしセイキ族長もロウシーも,君の人となりや能力についてほとんど分かっていない.」

十年もたてば,人は変わる.

ましてやメイシーは,幼い子どもだった.

ゆえにセイキは,本来ならば自治区内で解決できる小さな問題を,メイシーに提示した.

さらに,離婚し自治区に帰るように勧めた.

メイシーが帰郷してもしなくても,構わなかった.

父親の問題にどう対応するのかを見たかった.

メイシーの能力をはかりたかったのだ.

「よって君はセイキ族長に,『離婚はしません.ヘキ族長のことは無視してください.』と告げればいいだけだ.」

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