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水底呼声  作者: 宣芳まゆり
番外編
221/227

砂漠の歌姫6

大広間へ行くと,大勢の人たちがいた.

メイシーの知らない人たちばかりで,おそらく南方からの帰還兵だろう.

彼らは,すでに酒が入っているらしく赤ら顔で,楽しく笑い合っていた.

メイシーが人ごみの中できょろきょろしていると,セシリアが気づいてくれた.

「メイシー姉さま!」

明るい笑顔で,近寄ってくる.

はれの日にふさわしく,華やかなドレスに身を包んでいる.

長い銀の髪は結いあげられて,大きな花飾りがついていた.

だがメイシーの暗い表情を目にして,少女はまゆをくもらせる.

「何かあったの?」

ライクシードに似た青の瞳で,心配そうに見つめる.

どうしよう,話そうかな.

メイシーにとってセシリアは,いろんなことを気軽に相談できる相手だった.

メイシーが迷っていると,少女は何かを察して淡くほほ笑んだ.

「ライク兄さまは,あなたをとても大切に思っているわ.」

メイシーはうなずく.

「セイキ族長が城に来ると決まったときから,兄さまはずっと悩んでいたの.」

セイキ族長が来れば,メイシーは自分たちの結婚の裏にあるものに気づくだろう,と.

「私たち神聖公国の人間は,あなたが兄さまと結婚することによって,戦争を終わらせることができた.故郷に帰ってこれて,兵士たちもその家族も本当に喜んでいるわ.この大広間の様子から分かるように.」

セシリアは真剣に訴える.

「だけど,和平のための婚姻ではないの.ライク兄さまは,あなたと結婚したくて結婚したの.」

少女の言葉が,心にしみこんでくる.

しかしライクシードは,メイシーがただの旅芸人なら結婚しなかった,国の利益のために求婚したとしゃべった.

ライクシードとセシリア,どちらを信じればいいのか.

「セシリア,メイシー.」

すると横合いから呼びかけられた.

声のした方を向くと,バウスと見知らぬ中年の男が近づいてくる.

男はメイシーと同じく,浅黒い肌をして自治区の服を着ている.

自治区の服は基本的に,白や黄などの明るい色をしている.

肌の露出は少ないが,布は薄く軽いものばかりだ.

となると彼が,セイキ族長だろう.

目的のためには手段を選ばない,情のない人物だ,などといううわさを耳にしたことがある.

ところが見た目はそんな風には感じられず,温和そうなたれ目のおじさんだ.

「セイキ族長.こちらがメイシーです.私の弟であるライクシードの妻です.」

バウスはセイキに,メイシーを紹介した.

セイキは,にこにこと笑う.

「初めまして.」

「初めてお目にかかります.ロウシーの妹であるメイシーです.」

メイシーはセシリアにウィッヂを預けて,さっとお辞儀をした.

片手を胸に当てて,もう片方の手でスカートをつまむ自治区のお辞儀だ.

「君が元気そうで,安心したよ.遠い異国に,ひとりで嫁がせてすまない.」

つらいことはないか? さびしくはないかい? と言外に問いかけてくる.

ロウシーのような,暖かなまなざしだった.

「いいえ.みんな親切にしてくれています.」

メイシーはほほ笑む.

セイキは,セシリアの抱えたウィッヂに視線をやった.

「音楽を続けているとは思わなかった.ロウシーが聞いたら,驚くだろう.」

メイシーは子どものころは,ウィッヂの練習を嫌がっていた.

ある程度,難しい曲が弾けるようになってから,楽しくなってきたのだ.

「嫁ぐ前までは,コナー先生に教わっていました.」

コナーの名前に,セイキは目を丸くする.

「それはすばらしい.彼は,弟子をえり好みするのに.」

コナーは,自治区一のウィッヂの奏者だ.

メイシーは,彼に認められて弟子のひとりになったとき,喜びと興奮で夜が眠れなかった.

だがコナーは変人でもあり,恋をしろだの何だの妙なけいこも多かった.

「次に,こちらが私の妹のセシリアです.」

バウスがセシリアを紹介する.

少女はメイシーにウィッヂを返して,メイシーのまねをして自治区のお辞儀をした.

「セシリアと申します.お目にかかれて光栄です.」

「これはこれは,かわいらしい.」

セイキは,わが子を見るように目じりを下げた.

「私があと二十才くらい若ければ,あなたに求婚するために,あなたの婚約者と決闘したでしょう.」

「彼は強いですよ.すでに五人の挑戦者を倒していますから.」

バウスは楽しそうに笑う.

「遅れて申し訳ありません.」

メイシーの背後から,ライクシードの声と足音がした.

メイシーはどきっとする.

彼はすぐに,メイシーの隣に並んだ.

「セイキ族長,このたびは和平のためにご尽力いただき,心から感謝いたします.」

「いやいや,」

セイキは笑う.

「あなたこそ停戦のために,自治区,スンダン王国,神聖公国の三国を飛び回り,城へ帰ったら,一息つく間もなく結婚式だった.」

メイシーは驚いて,ライクシードの横顔を見上げた.

彼は自治区のみならず,スンダン王国にも足を運んだのか.

いや,スンダン王国を中心に動いて,自治区にも足を伸ばしたのだろう.

「さすがに疲れたでしょう?」

結婚式では,誰よりも疲弊していたはずだ.

なのにメイシーは彼の疲れに気づくどころか,マリエやセシリアに甘えていた.

自己嫌悪に,うつむいてぎゅっと唇を閉じる.

「確かにくたくたでしたが,それ以上に得るものが多かったです.」

ライクシードは答えて,気づかわしげにメイシーの顔をのぞきこんだ.

「顔色が悪い.」

メイシーはびくっとして,思わず後退した.

「いったん部屋に戻ろう.私が君を送る.」

彼の目が,メイシーを捕らえる.

優しいはずの人なのに,妙に怖い.

逃がさないぞ,と言われているみたいで.

ふたりきりになったら,今度はどんなつらいことを聞かされるのか.

セイキは,穏やかな笑みを浮かべた.

「メイシー,ロウシーからの伝言がある.」

「はい.」

メイシーはライクシードから逃げるように,セイキの方を向く.

「少しふたりで話ができるかね?」

「もちろんです.」

メイシーはライクシードたちに別れを告げて,セイキと大広間から出ていった.

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