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森の奥で静かに暮らしたいだけなのですが、どうやら私の魔法は普通ではないようです。  作者: nene
第一章 花の咲く家

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15/15

15.公爵邸に訪れた客人


 その朝、エリアナは庭師のアルノーから、一枚の紙を受け取った。


「これは……?」


「昨日お探しだった薬草の一覧です。温室に残っているものを調べておきました」


 紙には植物の名前と、それぞれの鉢が置かれた場所が丁寧に記されていた。


 昨日、旧王立植物研究園を訪れた際、エリアナは初めて見る植物をいくつも見つけた。帰ってからその話をしていると、アルノーが公爵邸の温室にも古い研究用の植物が残っていると教えてくれたのだ。


「こんなにたくさん調べてくださったんですか?」


「大した手間ではありませんよ。私も、久しぶりに古い台帳を開くいい機会になりました」


 アルノーは日焼けした顔に笑みを浮かべた。


 五十代半ばの、少し無口な庭師だった。


 公爵家には二十年以上勤めており、先代公爵夫人が庭を手入れしていた頃のこともよく覚えているという。


「それで、エリアナ様。一つお聞きしたいのですが」


「何でしょう?」


「月白蘭のことです」


 エリアナは顔を上げた。


「何かありましたか?」


「つぼみが、少し大きくなりましてね」


 アルノーは嬉しそうに言った。


「今朝見たところ、花弁の先に色がついていたんです。あの花が咲くのを見るのは、もう何年ぶりになるでしょう」


「それは楽しみですね」


「ええ。奥様も、さぞお喜びだったでしょう」


 そう言ったあと、アルノーは少しだけ目を伏せた。


 エリアナは何も言わず、彼の隣で温室を見つめた。


 亡くなった人の話をするとき、無理に明るく振る舞う必要はない。


 祖母を亡くしてから、エリアナ自身も何度かそう感じたことがあった。


「……咲いたら、ルシアン様にもすぐお知らせしたいですね」


 しばらくして、エリアナが言った。


 アルノーは顔を上げ、ゆっくりと頷いた。


「そうですな。旦那様もきっと喜ばれます」


 それから彼は、少し照れくさそうに付け加えた。


「もしよろしければ、咲いたあとも一緒に世話をしていただけませんか。月白蘭について、私はまだ知らないことが多くて」


「もちろんです。私でよければ、喜んで」


 エリアナは差し出された一覧をもう一度見た。


「それなら、私も教えていただきたいことがあるんです。こちらのお庭には、森では育てたことのない植物がたくさんありますから」


「おお、それは構いませんとも」


 アルノーの声が弾んだ。


 そのまま二人は、温室の棚の配置や土の配合について話し始めた。


 エリアナにとって、植物の話をできる相手が増えるのは嬉しいことだった。


 王都にはまだ慣れないけれど、この屋敷にも少しずつ親しい人ができている。


 そう思うと、ここでの暮らしが前より身近に感じられた。


        ◇


 同じ頃、ルシアンは執務室でオルフェンを迎えていた。


「わざわざお越しいただき、ありがとうございます」


「いや、こちらから頼んだことだからな」


 オルフェンは向かいの椅子に腰を下ろした。


 セドリックが紅茶を運び、二人の前に置く。


 扉が閉まるのを待ってから、ルシアンは口を開いた。


「先日のお手紙についてですが」


「うむ。まずは、これを見てもらいたい」


 オルフェンは革の鞄から数枚の書類を取り出した。


 黄ばんだ紙には細かな文字が並び、所々に古い王印が残っている。


「エレオノーラ・フィオーレに関する記録だ。三十年以上前のものになる」


 ルシアンは書類を受け取った。


 最初の一枚には、王立魔導院への招聘を辞退したという記録があった。


 その次には、彼女の研究に関する調査の中止命令。


 署名は、先代国王のものだった。


「……なぜ、ここまで厳重に?」


「それを知りたくて調べておる」


 オルフェンは紅茶に手を伸ばした。


「ただ、少し気になることが見つかった。彼女が王都を去る前、原初魔法の継承について研究していたらしい」


「継承?」


「うむ。通常、魔法は適性と訓練によって習得するものだ。だが、原初魔法については事情が異なる可能性がある」


 ルシアンは書類へ目を落とした。


 エリアナは祖母から魔法を教わったと言っていた。


 その話自体に不自然なところはない。


 しかし、エレオノーラが特別な方法で力を受け継がせたのだとすれば、話は変わってくる。


「その研究と、エリアナに関係があると?」


「可能性はある。だが、今の段階では何とも言えん」


 オルフェンは率直に答えた。


「記録の一部が抜き取られていてな。肝心なところがわからんのだ」


「誰が抜き取ったのですか?」


「それも不明だ。封印当時の記録はほとんど残っておらん」


 ルシアンはしばらく考えた。


「……院長」


「何かな」


「エリアナには、祖母の研究について話すおつもりですか?」


「もちろんだ」


 オルフェンは迷わず頷いた。


「彼女自身のことかもしれんのだからな」


「危険はありませんか?」


「記録を読むこと自体に危険があるとは考えておらん。ただし、その内容がどう利用されるかは別だ」


 老人は真剣な表情になった。


「わしが気にしているのは、研究そのものよりも、当時の王宮がなぜ継承者を隠そうとしたのかという点だ」


 ルシアンは黙って聞いていた。


「古い記録には、継承者の存在を王宮に報告するなと書かれている。ところが、その記録を封印したのも王家だ。事情を知らぬ者が見れば、矛盾しているように思えるだろう」


「先代国王が、誰かから継承者を守ろうとした可能性もありますね」


「わしもそう考えておる」


 オルフェンは頷いた。


「もっとも、それを裏づける証拠はまだない」


 ルシアンは書類を机に置いた。


「エリアナは、祖母のことをもっと知りたがっています」


「そうだろうな」


「ですから、本人に話していただくことには賛成です。ただ、まだわかっていないことを事実として伝えるのは避けたい」


 オルフェンは少しだけ目を細めた。


「……公爵閣下は、ずいぶん慎重だな」


「彼女に関わることですから」


 ルシアンは淡々と答えた。


 その様子を見て、オルフェンは小さく笑った。


「なるほど。よくわかった」


「何がでしょう?」


「いや、こちらの話だ」


 老人は紅茶を一口飲んだ。


 ルシアンはわずかに眉を寄せたが、追及はしなかった。


        ◇


「エリアナ様、こちらでしたか」


 温室でアルノーと話していると、ミーナが姿を見せた。


「ミーナさん。どうかされました?」


「旦那様からお伝えするようにと。王立魔導院のオルフェン院長がお越しになっているそうです」


 エリアナは驚いて顔を上げた。


「オルフェン様が?」


「はい。もしお時間がございましたら、少しお話をしたいとのことです」


「もちろんです」


 エリアナは手元の台帳を閉じた。


「アルノーさん、続きはまたあとでもいいでしょうか」


「ええ、いつでも。こちらは急ぎませんから」


「ありがとうございます」


 エリアナはミーナとともに温室を出た。


 図書館で出会ったオルフェン。


 祖母のことを知っている、数少ない人の一人だ。


 あの日、祖母が研究していた魔法の記録を見せてくれると話していた。


 もしかすると、その件だろうか。


 期待と、少しの緊張が入り混じった。


 祖母の昔のことを知りたい。


 けれど、知らなかったことを知るのは、少し怖い気もした。


 森で暮らしていた祖母は、いつも穏やかだった。


 薬草を育て、料理を作り、エリアナに魔法を教えてくれた。


 けれど、王都にいた頃の祖母については、ほとんど何も知らない。


 自分が覚えている祖母とは、違う一面があったのだろうか。


 そんなことを考えながら、エリアナは応接室へ向かった。


        ◇


「お久しぶりです、オルフェン様」


 部屋へ入ると、エリアナは丁寧に頭を下げた。


「おお、エリアナ。先日はどうも」


 オルフェンは立ち上がり、親しげに微笑んだ。


「図書館では、ゆっくり話す時間もなかったからな」


「はい。今日はお越しいただいて、ありがとうございます」


「いやいや。わしの方こそ、聞きたいことがあってな」


 エリアナはルシアンへ目を向けた。


 彼はいつものように穏やかに微笑み、隣の席を勧めてくれた。


「祖母君の研究に関する資料が見つかったそうだよ」


「……本当ですか?」


「ああ。ただ、まだ調査の途中らしい」


 エリアナはオルフェンを見た。


「どんな研究をしていたんでしょうか」


「原初魔法についてだ」


 その言葉を聞き、エリアナは少し考えた。


「……図書館で読んだ本にも、その名前がありました」


「覚えておったか」


「はい。でも、よくわからないことが多くて」


 オルフェンは頷いた。


「それも無理はない。今ではほとんど使い手が確認されておらんからな」


 エリアナは膝の上で指を組んだ。


「祖母が使っていた魔法も、原初魔法だったのでしょうか」


「その可能性は高いと思っておる」


 オルフェンは慎重に答えた。


「ただ、実際に確かめるには、もう少し資料が必要だ」


「そうなんですね」


 エリアナは頷いた。


 自分が使っている魔法に、名前がある。


 それだけでも、少し不思議だった。


 祖母は魔法を使うとき、あまり難しい説明をしなかった。


 植物を育てるときも、傷を治すときも、まず相手の状態をよく見なさいと教えてくれた。


 魔力を無理に押し込むのではなく、流れを感じ取ること。


 それが、祖母の教えだった。


「……あの、オルフェン様」


「何かな」


「祖母は、王都ではどんな人だったんですか?」


 オルフェンは少し意外そうに彼女を見た。


「どんな人?」


「はい。魔法の研究をしていたことは、今初めて知りました。私が覚えている祖母は、森で薬草を育てている人だったので」


 エリアナは少し笑った。


「昔の祖母のことを、聞いてみたいんです」


 オルフェンはしばらく黙っていた。


 そして、ゆっくりと口を開いた。


「……そうだな。エレオノーラは、昔から人の話をよく聞く女だった」


「祖母が?」


「ああ。ただし、納得できないことには、決して頷かなかった」


 オルフェンは懐かしそうに笑った。


「若い頃、研究会で何度か一緒になったことがある。あの頃のわしは、魔法については誰よりも詳しいつもりでおった」


「そうだったんですね」


「ところが、エレオノーラはわしの説明を最後まで聞いたあと、こう言ったんだ」


 老人は少し声を変えた。


「『理屈はわかったわ。でも、それでは花は咲かないでしょう?』とな」


 エリアナは思わず笑った。


「……祖母らしいです」


「そうか?」


「はい。私にも、よく似たことを言っていました」


 オルフェンは目を細めた。


「何と言っておった?」


「魔法が上手に使えなくて困っていたときに、『難しいことを考える前に、ちゃんと見てごらんなさい』って」


 言いながら、祖母の声を思い出す。


 幼い頃、枯れかけた花を前に、どうしていいかわからなくなったことがあった。


 魔力をたくさん注げば元気になると思い、かえって花を弱らせてしまったのだ。


 祖母は怒らなかった。


 ただ隣にしゃがみ、花が本当に必要としているものを一緒に考えてくれた。


「……そうか」


 オルフェンは静かに頷いた。


「あの頃から、変わらなかったんだな」


 その表情がどこか寂しそうに見えて、エリアナは少しだけ胸が詰まった。


 自分の知っている祖母と、オルフェンの知っている祖母。


 過ごした時間は違うけれど、同じ人を懐かしんでいる。


 それが、何だか嬉しかった。


        ◇


「ところで、エリアナ」


 しばらく祖母の話をしたあと、オルフェンが尋ねた。


「図書館で見せると約束した記録についてだが、少し相談がある」


「はい」


「一部に古い文字が使われていてな。今の魔導院では、まだ正確に読めておらん」


 エリアナは首を傾げた。


「古い文字、ですか?」


「うむ。エレオノーラが残した研究書の中にも、似た文字が使われているかもしれん」


「……祖母の本にも?」


「ああ」


 エリアナは少し考えた。


 祖母の書斎には、古い魔法の本が何冊もあった。


 その中には、普通の本とは違う文字で書かれたものもある。


 けれど、祖母に教わったので、読むのに困ったことはなかった。


「……文字を見せていただいてもいいですか?」


 オルフェンは頷き、鞄から一枚の紙を取り出した。


 そこには、いくつかの古代文字が写されていた。


 エリアナは受け取り、目を通した。


 そして、少し驚いた。


「あら……」


「どうした?」


「これ、祖母の本にも出てきた文字です」


 オルフェンの手が止まった。


「……読めるのかね?」


「はい」


 エリアナは紙を見ながら答えた。


「『流れを閉ざすものは、巡りを失う。力を留めるものは、いずれ器を傷つける』……と書いてあります」


 室内が静かになった。


 オルフェンはしばらく動かなかった。


 ルシアンも、エリアナを見つめている。


 エリアナは紙から顔を上げた。


「……違いましたか?」


「いや……」


 オルフェンはゆっくりと首を振った。


「わしらが推測していた意味と、ずいぶん違う」


「そうなんですか?」


「うむ。これは、魔力を封じるための術式について書かれたものだと思っておった」


 エリアナはもう一度、紙を見た。


「封じる……ですか」


「そうだ」


「でも、これは……」


 エリアナは少し考え込んだ。


「どちらかというと、魔力を閉じ込めてはいけない、という意味に近いと思います」


 オルフェンは彼女の説明を聞き、ゆっくりと頷いた。


「……なるほど」


 老人は紙へ視線を落とした。


「確かに、その読み方なら前後の文章とつながるかもしれん」


 エリアナは首を傾げた。


「ほかにも文章があるんですか?」


「ああ。ただ、今ここには持ってきておらん」


「そうなんですね」


 少し残念だった。


 久しぶりに祖母が教えてくれた文字を見て、懐かしくなったのだ。


 あの文字で書かれた本を読むと、今でも祖母が隣にいるような気がする。


「……あの、オルフェン様」


「何かな」


「もしよろしければ、その本も読ませていただけませんか?」


 オルフェンはエリアナを見た。


「君が?」


「はい。祖母の研究なら、私も知りたいです」


 その声には、静かな決意があった。


 ルシアンは隣で彼女を見つめていた。


 エリアナが自分から、祖母の過去を知ろうとしている。


 それを止める理由はない。


 ただ、何か問題が起きたときには、できる限り力になりたいと思った。


「……エリアナ」


 ルシアンが声をかけた。


「はい?」


「読むこと自体は構わないと思う。ただ、魔導院の記録には閲覧の決まりもあるから、院長と相談しながら進めよう」


「はい。もちろんです」


 エリアナは頷いた。


 オルフェンも満足そうに微笑んだ。


「では、近いうちに案内しよう。必要な準備を整えておく」


「ありがとうございます」


 エリアナは嬉しそうに頭を下げた。


        ◇


 オルフェンが帰ったあと、エリアナは一人で温室へ向かった。


 月白蘭のつぼみは、朝より少しだけ膨らんでいた。


 花弁の先には淡い青色が見え始めている。


 エリアナは鉢の前にしゃがみ込み、しばらく眺めていた。


 祖母のことを、今日はたくさん聞いた。


 王都で魔法を研究していたこと。


 研究会でほかの魔導師たちと議論していたこと。


 そして、昔から少し頑固なところがあったこと。


 知らなかった話ばかりだった。


 けれど、どれも祖母らしいと思えた。


「……おばあちゃん、楽しそうだったのね」


 エリアナは小さくつぶやいた。


 森の家で暮らしていた頃、祖母はあまり外へ出なかった。


 それでも、研究の話になると嬉しそうに古い本を開いていた。


 もしかすると、王都で過ごした時間も、祖母にとって大切なものだったのだろう。


 エリアナは鉢の縁にそっと触れた。


 祖母が自分に残してくれたものは、魔法だけではない。


 植物を育てる楽しさも、本を読む喜びも、人と向き合うときの考え方も。


 それらは、今も自分の中に残っている。


 だからこそ、祖母が何を考え、どんな人生を送ってきたのか知りたかった。


 ただ懐かしむだけではなく、一人の人として。


「……少しずつ、知っていけたらいいな」


 そう言って立ち上がる。


 そのとき、温室の入口から声がした。


「エリアナ」


 振り返ると、ルシアンが立っていた。


「こちらにいたんだね」


「はい。月白蘭の様子を見ていたんです」


 ルシアンは近づき、隣に立った。


「朝より少し大きくなったかな」


「ええ。もうすぐ咲きそうです」


 二人でつぼみを眺める。


 しばらくして、ルシアンが口を開いた。


「……今日は、祖母君のことをいろいろ聞けたね」


「はい」


 エリアナは頷いた。


「知らなかったことばかりでした。でも、祖母らしい話もあって……嬉しかったです」


「そうか」


「ルシアン様」


「うん?」


「私、祖母の研究を調べてみたいと思います」


 ルシアンは彼女を見た。


 エリアナは少し緊張しながら続けた。


「祖母が隠していたことがあるのなら、理由も知りたいです。今まで、特に疑問に思わなかったんですけれど……」


 言葉を探しながら、ゆっくりと話す。


「今日、お話を聞いて、祖母には私の知らない時間がたくさんあったんだと気づいたんです」


 ルシアンは黙って聞いていた。


「だから、ちゃんと知ってみたいです」


 エリアナは顔を上げた。


 ルシアンは少し考え、それから頷いた。


「……わかった」


 静かな返事だった。


「君がそう決めたなら、私もできる限り協力するよ」


「ありがとうございます」


 エリアナは微笑んだ。


 その表情を見て、ルシアンは少しだけ安心した。


 何かを知らされるのを待つのではなく、彼女自身が知ろうとしている。


 それなら、自分がすべきことは、彼女の代わりに答えを決めることではない。


 必要なときに手を差し伸べられるよう、そばにいることだ。


「……それから」


 ルシアンが言った。


「今日の夕食のあと、少し時間はあるかい?」


「はい。何かご用ですか?」


「君に会わせたい人がいるんだ」


 エリアナは目を瞬かせた。


「私に?」


「ああ。以前から親しくしている家の令嬢でね。今日、母君と一緒に訪ねてくる予定なんだ」


「……令嬢?」


 エリアナは少し驚いた。


 王都に来てから、まだ貴族の女性とゆっくり話したことはない。


 失礼なことをしてしまわないだろうか。


 そんな不安が、少しだけ頭をよぎった。


「とても気さくな人だよ。花や本も好きだから、君と話が合うと思う」


 ルシアンは微笑んだ。


「名前は、セレスティーヌ・ラグランジュ。ラグランジュ伯爵家の令嬢だ」


 エリアナはその名前を心の中で繰り返した。


 セレスティーヌ。


 どんな人なのだろう。


 少し緊張するけれど、楽しみでもあった。


「……はい。ぜひ、お会いしてみたいです」


 ルシアンは満足そうに頷いた。


「それなら、よかった」


 エリアナは温室の窓から庭園を眺めた。


 王都に来てから、知らない人と出会う機会が増えた。


 その一つひとつが、少しずつ自分の世界を広げてくれている。


 祖母が話していた王都は、賑やかで、綺麗なものがたくさんある場所だった。


 けれど、実際に来てみると、それだけではなかった。


 知らなかった祖母の過去に触れ、新しい人と話し、自分の考えを伝える。


 森の家では経験できなかったことが、ここにはある。


 エリアナは小さく息を吸った。


 まだ知らないことばかりだけれど、少しずつ慣れていけたらいい。


 そう思いながら、ルシアンと並んで温室を出た。


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