わたしは違う
姉視点です。
「あっ、おかえりー!」
「おかえりなさいませ、双子さま」
シャ・ルーフェ星から帰宅した双子神を、深紅と蒼穹が出迎えた。
「そういえば、双子ちゃんはお洋服拘らないのー? 折角美人さんなのに、勿体なーい」
美人とは言っても、創造神も管理神も自分の姿は色を除き、自由自在に変えられる。最近は、深紅が頭に一角を生やすようになった。
「……別に拘る必要がないのです」
「えぇっ、じゃあ一回だけでいいから、何か変えてみなよ〜」
一旦考えた双子神は、しばらくして淡い光に包まれる。
「えっ、いいじゃん! かぁいい!」
「洋装ですねっ。とてもお可愛らしくていらっしゃいますわ」
深紅と蒼穹がとても褒めてくれる。
今まで、双子神はポンチョのようなものだけを着ていたのだが、今はロリィタのような洋装だ。
髪も耳がエルフのように尖っている。
とりあえず、このまま過ごそうということになった。変える気がない双子神は、半永久的にこうなることは分かりきっていることである。
「あの、双子さまの……お姉さまはどちらでしょうか……?」
双子神にそう声をかけたのは蒼穹だった。後ろには深紅もいる。
姉は軽く手を挙げた。
「わたしです」
「わたくしと深紅さまからお話があるのです。お付き合いいただけますか……?」
「妹ちゃんは、黄龍と一緒に星巡りをしてきてほしいの。お願い?」
「……離れて行動するということです?」
「そうなるね」
深紅は頷いた。その言葉に、妹はほんの少しだけ妹は眉を歪ませる。
「嫌です。わたしも聞いたら駄目な話です?」
「ごめんだけど、無理なんだぁ。黄龍、連れてってー」
「やです! あ、黄龍くんっ、やめてくださいなのです!」
「深紅が五月蝿いから行くよー」
そう言って、妹を連れて黄龍は神殿を出ていった。
とりあえず、姉は妹の無事を願っておく。この長い年月を共に過ごした双子神の別れだ。姉が生まれたときから、離れたことなどなかった。
「それで、何のお話です?」
「単刀直入に言うと……君、創造神じゃないでしょ」
「……」
深紅の言葉に、姉は目を見開いた。
どうしてです、そんな気持ちが浮かぶ。
「何故そう思ったのです?」
「……分かるんだよ。創造神と管理神は、白と四色で分けられてる。でも、それ以外にも見分ける方法はあるの」
「……神力、です」
蒼穹は口を開く。彼女によると、創造神にはソレに神力があるかどうかを見分ける能力があるそうだ。管理神に分類されている神は創造神に創られた神なのだから、当然神力はない。
姉にも、なかったのだろう。ただ白いから創造神と呼ばれただけで、姉に力はなかった。妹にはあったのだろう。あの子が先に生まれたのだから。
「そうです。深紅や蒼穹さんがそう言うなら、そうなのかもしれないです」
「……別に悪いことじゃないんだよー?」
「ただ、事実かどうかお聞きしたかっただけですわ……」
いつもより硬い無表情で言う姉に、深紅と蒼穹は申し訳なさそうにそう言った。
別にいいのだ。姉が、妹に劣っている事実は変わらないのだから。
そう、生まれたときから、隣にいたのは妹だった。
姉が生まれたのは、創造神たる妹が寂しがり屋だったから。生まれたときから四ついた深紅たちとは違う。
創造神である妹は、管理神という分類になる姉を創ることくらい容易かっただろう。
あぁ、どうして妹は寂しがり屋に生まれてしまったのだろう。強い神に生まれていれば。
あぁ、どうしてわたしは生まれてしまったのだろう。生まれたくなかったのに。
あぁ、どうしてわたしでなければならなかったのだろう。わたしである必要などなかったのに。
あぁ、どうして姉でなければならなかったのだろう。わたしが妹であれば。
いつも姉が思う想いだ。もちろん、今日の今日まで妹の傍を離れたことなどないのだから、声に出したことなどないが。
「あの子は、わたしがいないと生きていけないんです。だから、わたしが生まれたんです。貴女たちと共にあの子が生まれていれば、もしかしたらわたしは生まれていなかったかもしれないのです」
「……それは、まぁ運命だろうね」
「そうです。そうであれば良かったのです」
いつもの無表情に、姉は自虐を乗せて薄く笑う。
「……どうしてそう思われるのですか? 貴女様はお生まれになっていなかったかもしれませんのに」
「そうです? ……わたしは、生まれたくなかったです。わたしは、あの子の寂しいを埋めるものでしかないんです」
姉の言葉に、深紅と蒼穹は目を見開いた。
「そんなわけないじゃん。貴女は貴女でしょ。ものじゃない」
「ものじゃないことくらい、知ってるのです。でも、そう思わずにはいられないんです」
創造神である妹と、その姉として妹に創られた姉。
姉は、そうである自分が許せなかった。
「……だから、わたしを殺してくれてもいいのです。そうしてくれた方が、嬉しいです」
「そんなこと、できるわけないでしょ。……お願いだから、そんな風に自分のことを思わないで」
「……善処はするのです」
姉は、無表情にそう言った。
このまま、姉は何千、何万――永遠のときをこの劣等感を抱えて生きることになるとは、このとき誰も知らない。




