表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

第四話

風が、やわらかかった。

重くもなく、強くもない。花の海がゆれている。赤も青も黄色も、思い思いの方向へ傾いて、また戻る。

その中に、白が見えた。

小さな花が、ふわっと広がっている。密集していない。押し合っていない。ただ、軽く、そこにある。風が来るたびに、ほんの少しだけ揺れて、また元に戻る。

少女は少しだけ立ち止まった。それから、歩き出した。


二人は、白い花の中にいた。

年配の男と、その隣の女。夫婦だろうと思った。並び方が、そういう並び方だった。長い時間をかけて作られた、自然な距離感。

二人とも、花を見ていた。話していない。それでも、黙っているのではなかった。何も言わなくていい、という空気が、二人の間にあった。

少女は少し離れたところで、二人を見た。

それから、近づいた。

男が振り返った。穏やかな顔だった。

「こんにちは」

「……こんにちは」

女も少女を見た。少し目を細める。子どもを見るときの目だった。

「お花、きれいですね」

男が言った。

「うん」

少女は白い花を見た。

「ここ、よく来るんですか」

「たまに。二人で」

女が答えた。

「昔から好きなの、この花」

「どうして?」

「なんとなく。重くないから」

風が来た。白い花が、ふわりと揺れた。二人はそれを見ていた。


少女はいつも通り、口を開こうとした。

「それ、よくないって……」

止まった。

言葉が、途中で止まった。

男と女は、まだ花を見ていた。肩が触れそうなくらい近くに立って、風が来るたびに揺れる白を、ただ見ていた。

少女は二人を見た。

何かが消えかけた。消えるべきものを探した。

見つからなかった。

重さでもない。ただ、そこに二人がいて、白い花があって、風が吹いていた。

「……」

少女は何も言わなかった。


しばらくそこにいた。

二人は少女のことを気にしていなかった。嫌っているのではなく、ただ花を見ていた。それだけで足りているような、そういう時間だった。

白い花は揺れていた。崩れなかった。色が抜けなかった。ただ、軽く、そこにあった。


少女は、静かに踵を返した。

二人には言わなかった。振り返らなかった。

白い花の中を、来た道へ戻っていく。風がやわらかく吹いていた。

花は、残っていた。


少女は歩きながら、何も考えなかった。

次の花を探さなかった。

ただ、歩いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ