表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/50

第50話:世界リフォーム、竣工。――現場監督の検収印で、新しい時代が始まります

世界の裏側バックヤードに、三千年の歴史で初めて「完成」の静寂が訪れた。

 かつて錆とヘドロと絶望にまみれていた巨大な魔導配管は、今やカイポリス製の銀色の遮熱材に包まれ、規則正しく美しい脈動を刻んでいる。空を覆っていた次元コンクリートの殻は、リリスが施した聖法気によって「青空」を投影するスクリーンへと変貌し、バックヤードそのものが一つの巨大な「地下都市」のような輝きを放っていた。


中央広場には、この大規模修繕リフォームを戦い抜いた面々が集まっている。

 泥まみれのヘルメットを脱ぎ、清々しい顔をしたバルガスとドワーフたち。

 弓を置き、満足げに微笑むセレナ。

 そして、傍らで僕を支え続けてくれたリリス。


「……カイ様、ついに、この時が来ましたね」


リリスが差し出したのは、金色のインクが充填された特注の「管理者用・検収印スタンプ」。これを基幹システムの最終確認書に押せば、この世界の管理権限は神の手を離れ、恒久的に「現場」へと委譲される。


「ああ。……長かった。……でも、まだ一人、確認してもらわなきゃいけない人がいる」


僕は、群衆の後ろで、すっかりツナギが板についた老人――新人作業員(0番)として働いてきた「神」に声をかけた。

 彼はこの数週間で、手に豆を作り、腰を痛め、そして「自分で直した配管から綺麗なマナが流れる喜び」を知った。今の彼には、かつての傲慢な創造主の面影はない。ただ一人の、熟練した「手伝い」の顔をしていた。


「……オーナー。……見ての通り、工事は完了だ。……あんたの目から見て、この世界はまだ『全損』かい?」


神は、ゆっくりと顔を上げた。

 彼は銀色の配管を見つめ、地上から流れてくる「公民館で笑い合う人々の声」に耳を澄ませた。


「……いや。……全損どころか、我の設計図よりも遥かに……強くて、温かい。……カイ、我は間違っていた。……世界を支えているのは奇跡ではない。……汚れを厭わず、一歩ずつ積み上げる『人間の歩み』だったのだな」


神は、自らの手で書き換えた「保守管理マニュアル」を僕に手渡した。それは神の力による解決を禁じ、人が自ら修理し続けるための、泥臭い知恵の結晶だった。


「……よし。……なら、これにて竣工だ」


僕は、アーカイブの最終ページを開いた。

 そこには、三千年前から「未完」のまま放置されていた世界の設計図が浮かび上がっている。

 僕は大きく息を吸い込み、金色の検収印を、渾身の力でその設計図へと叩きつけた。


――【竣工検収:合格パス】。

 ――【管理者:カイ・ハイランド】。


ゴォォォォォォォォォォォン……ッ!!


世界が、歓喜に震えるような音を立てた。

 地上の空に、見たこともないほど巨大で鮮やかな七色の虹が架かる。

 それは神の奇跡ではない。新しく張り巡らされた魔導ネットワークが、余剰マナを光へと変換して放った「インフラの輝き」だ。


「……じいちゃん。……見てるか。……ハイランドの家訓、今日で終わりだよ。……これからは『床下を気にするな』じゃなくて、……『床下が一番の自慢だ』って言える世界にしたからさ」


傍らでじいちゃんが、鼻をすすりながらタバコに火をつけた。


「……ああ。……お前は、最高の現場監督だ、カイ」


***


数日後。

 聖王国ハイランドの王都。

 かつての「追放された王子」を嘲笑った貴族たちは、今やカイポリスが提供する「全自動魔法掃除機」と「温水洗浄便座」の虜になり、僕にペコペコと頭を下げている。


だが、僕は玉座には座らなかった。

 王都の片隅に建てた小さな事務所――「カイポリス・メンテナンス商会」のデスクで、僕は新しい依頼書オーダーを眺めていた。


「カイ様、お茶が入りましたよ。……次は、どこの現場へ向かいますか?」

 リリスが、新しいヘルメットを僕の机に置く。


「……次は、隣の大陸の『砂漠化問題』かな。……あそこの地下水路、設計ミスで詰まってるみたいなんだ。……放っておくと、また神様が『リセットボタン』を押しに来るかもしれないからね」


僕はヘルメットを被り、スパナを背負って立ち上がった。


「……さあ、行こう。……世界は広い。……直すべき場所は、まだまだ山積みだ!」


夕日に向かって走り出す一台の魔導バイク。

 その背中には、世界一頼もしい「現場監督」の文字が輝いていた。

第二部第一話:無能力者の再起。――「魔力」はないが、僕には「てこ」がある

 『強くてニューゲーム・ハードモード』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ