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第49話:最終解体命令。――世界を真っ二つにする「次元ノコギリ」を、瞬間接着剤で固めます

世界の裏側バックヤードの地盤が、かつてない震動と共に裂け始めた。

 それは地震などという生易しいものではない。世界という建築物の「基礎」そのものを切り離し、不必要なバグ(カイたち)ごと宇宙の塵にしようとする、次元規模の強制切断作業だった。


「……ギ、ギギ。……管理者権限の汚染を確認。……オーナーの無力化を確認。……規約に基づき、対象領域を『物理的切除パージ』する」


バックヤードの底から、漆黒の光を放つ巨大な円盤状の構造物がせり出してきた。

 それは直径数千キロメートルにも及ぶ、時空を削り取る『次元ノコギリ』。神が世界を創る際に使った「切り出しナイフ」の成れの果てであり、今はただシステムを守るためだけに動く自動解体機オート・スクラッパーだ。


「カ、カイ様! バックヤードの端から世界が切り離されています! このままだと、僕たちが立っているこの地殻ごと、虚無の彼方へ放り出されます!」


リリスが悲鳴を上げる。モニターには、世界の端が「断面」となって、さらさらと消滅していく絶望的な光景が映し出されていた。


「……ちっ、オーナーを味方につければ終わりだと思ったけど、管理システムが自動で動いてるのか。……これだから古いOSは嫌なんだ。……融通が利かない!」


僕は、隣で真っ青になっている神(0番)の襟首を掴んだ。


「おい、0番! あのノコギリの止め方は!? あんたが作った道具だろ!」


「……む、無理だ。……あれは我の意志とは独立した『保安プログラム』。……一度起動すれば、対象を切り落とすまで止まらぬ。……我であっても、実体化した今、あの刃に触れれば消滅する……」


「……使えないオーナーだな、本当に!」


僕はスパナを投げ捨て、カイポリスの全資源を一点に集中させるための最終コードを打ち込んだ。


「――バルガスさん! カイポリスにある『全・魔導接着剤(瞬間硬化型)』を、あのノコギリの回転軸にブチ込め! リリスさんは、世界の『断面』に立ち、剥がれゆく法則を強引に繋ぎ止める『次元ボルト』を打ち続けて!」


「がはは! 世界を接着剤で直すのか! 狂ってるが、最高だ! 野郎ども、接着剤のドラム缶を全機射出だぁ!!」


上空の転送ゲートから、何万、何億というドラム缶が降り注いだ。

 中から溢れ出すのは、一度固まれば神の雷でも壊せないという超高粘度の「次元安定接着剤」。

 それが、猛烈な速度で回転する『次元ノコギリ』の刃にこびりつき、凄まじい摩擦音と火花を撒き散らす。


キィィィィィィィィィィィィィィィン……ッ!!


耳を劈くような高音がバックヤードを満たす。

 ノコギリの回転が、接着剤の粘りによって目に見えて鈍っていく。だが、相手は次元そのものを切る刃だ。接着剤ごと世界を切り裂こうと、出力をさらに上げていく。


「……まだだ! 足りない! 物理的に止まらないなら……『重み』で止める!」


僕は、地上の全公民館、全インフラ、そして全人類の「存在データ」を、一時的にノコギリの刃の上に「質量」としてマッピング(転送)した。


「……おい、システム! よく見ろ。あんたが切ろうとしているのは、ただのゴミじゃない。……三千年の歴史と、今この瞬間を生きている数億人の『重み』だ! ……これだけの質量、あんたの安っぽい刃で切れると思うなよ!」


ズズ、ズズズ……ッ。


ついに、次元ノコギリが停止した。

 接着剤と、数億人の「生きたい」という意志の質量に耐えかね、神の刃が真っ二つにへし折れたのだ。


「……ギ、ギギ。……負荷……限界。……切断失敗。……システム……フリーズ……」


静寂が戻る。

 折れたノコギリの破片が、バックヤードの底へと沈んでいく。


「……ふぅ。……危なかった。……さて、0番。……フリーズしてる間に、このシステムの『根源』を書き換えるぞ」


僕は、動かなくなった管理システムの基幹部に歩み寄り、そこに「カイポリス・エクスプレス」のエンブレムを刻み込んだ。


「……これからは、自動解体なんてさせない。……壊れそうになったら直す。汚れたら掃除する。……当たり前の『メンテナンス』で、この世界を運営していくんだ」


神は、折れた神の刃と、それを接着剤まみれで止めた僕の姿を交互に見て、静かに涙を流した。


「……カイ。……其方は、我よりも深く、この世界を愛しているのだな」


「愛じゃないよ、オーナー。……ただの『職業倫理』だ」


こうして、世界を脅かす最後のシステムバグは排除された。

 だが、物語はまだ終わらない。

 50話。第1部の完結。それは、修復された世界で行われる「史上最大の検収式」となる。

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