第14話:ドワーフの里の悲鳴。――このトンネル、俺たちの百年分を三秒で掘りやがった
隣国のミラ王女が、ゲストルームの温水洗浄便座に感動(あるいは敗北)して、そのまま「ここに住むわ!」と宣言してから数日。
都市カイポリスの人口は増え続け、さらなる「資源」が必要になっていた。
「カイ様。ガミールさんから相談です。街の拡張に使う『特殊合金』の材料となる魔鉱石が足りないそうです」
聖女リリスが、工事の進捗表を見ながら報告してくる。
「魔鉱石か。……確か、この近くの『ゴルゴン山脈』に、ドワーフの採掘集落があったよね? あそこから仕入れられないかな」
「それが……最近、山脈の深部で大規模な落盤事故があったらしく、ドワーフたちが掘り進められずに困っているそうです。取引どころではないと」
「落盤か。……それは放っておけないな。現場監督として、安全確保に協力しに行こう」
僕は愛用の測量棒を手に取ると、地底竜の背に飛び乗った。
***
ゴルゴン山脈の中腹。ドワーフの集落『アイアン・フィスト』。
そこには、筋骨隆々のドワーフたちが、無骨なツルハシを地面に叩きつけて絶望していた。
「……ダメだ。この岩盤、伝説の『アダマンタイト』が混じってやがる。俺たちのツルハシじゃ、百年かけても一メートルも進めねぇ……」
族長のバルガスが、折れたツルハシを投げ捨てた。
彼らの目の前には、巨大な岩壁が道を塞いでいる。この先に、最高級の魔鉱石の脈が眠っているというのに。
「こんにちは。……ここが現場だね?」
僕がドラゴンから降りて声をかけると、バルガスが怪訝そうにこちらを見た。
「あぁ? なんだお前さんは。ひょろりとした人間が、こんな死地になんの用だ」
「都市カイポリスの現場監督、カイだ。落盤で困ってると聞いて、トンネルを掘りに来たんだ」
「ガハハ! 笑わせるな! このアダマンタイトの壁を、人間が掘るだと? 俺たちドワーフが一生かけても――」
「ちょっと失礼」
僕はバルガスの言葉を遮り、岩壁の前に立った。
手のひらを冷たい岩肌に当てる。
スキル【地質組成解析】。
……なるほど。分子構造がガチガチに結合している。でも、特定の周波数で振動を与えれば、脆くなる性質があるな。
「バルガスさん。耳を塞いでて。……あと、ちょっと風圧がすごいから下がって」
「あ? 何を――」
僕はポーチから、現場用の『振動杭』を取り出し、岩壁の「急所」に突き刺した。
【固有権能:超振動穿孔――施工開始!】
――ッ、キィィィィィィィィィィィィィィン!!
鼓膜を揺らす高周波。
次の瞬間、ドワーフたちが百年かけても傷一つつけられなかったアダマンタイトの岩壁が、まるで「熟しすぎた果実」のように、音を立てて崩壊し始めた。
「な……っ!? 壁が……溶けてやがる!?」
それだけではない。
僕は崩れた岩を、即座にスキルで加工していく。
「【構造定着:アーチ式トンネル】。ついでに、崩れないように『永久補強』を打ち込んで……」
僕が進むたびに、暗闇だった洞窟の中に、滑らかなコンクリート壁と、一定間隔で灯る魔導LEDライトが自動的に形成されていく。
わずか三秒。
そこには、王都のメインストリートよりも広くて明るい、完璧な「地下高速道路」が貫通していた。
「……完成。この先が鉱脈だね」
僕はヘルメットを脱いで、汗を拭った。
後ろを振り返ると、ドワーフたちが一斉に地面に膝をつき、祈るようなポーズで固まっていた。
「……おい、夢じゃねえよな。俺たちが百年かけて掘るつもりだった距離を……三秒か?」
「三秒だ。しかも、壁が……素手で撫でても傷つかないほど滑らかだ。……これは、神の御業か?」
バルガスが震える手で壁に触れ、そのまま泣き出した。
「カイ様……あんた、俺たちの『土木』の概念を壊しちまったよ! 頼む、このドワーフ一族、今日からあんたの『作業員』にしてくれ! この技術、死ぬまでに一度でいいから学びてえ!」
「え、作業員? 助かるよ。ちょうど新しい鉄道の『枕木』を作る人手が欲しかったんだ」
こうして、世界最高の金属加工技術を持つドワーフ一族が、カイポリスの「工務店部隊」として配下に入った。
***
その頃、王都。
「団長……アイアン・フィストのドワーフたちから、絶縁状が届きました。……『これからはカイ様の現場で働くから、王都のボロい剣の修理なんてやってられるか』だそうです……」
「……」
レオンは、もはや怒る気力もなく、穴の開いた屋根を見上げて、ただ虚空を掴んでいた。




