第1話:無能少年の覚醒
「カイ・ハイランド。貴様を本軍から追放し、騎士爵を剥奪する」
王立騎士団、第13演習場。
かつて親友だと思っていたレオンが、冷酷な声を響かせた。
背後には、僕を蔑むような目で見下ろす騎士たちが並んでいる。
「……理由は、適性検査の結果ですか?」
「そうだ。火、水、風、土……そして光と闇。万物に宿る六属性。そのすべてにおいて、お前の適性値は『0』だった」
レオンが羊皮紙を地面に叩きつける。
そこには、歴史上類を見ないほど真っ白な測定結果が記されていた。
「全属性適性ゼロ。魔法も使えず、魔力による身体強化もできない。そんな『無の欠陥品』を置いておくほど、騎士団は暇ではないのだよ」
「でも、レオン。僕が担当していた城壁の補修や、陣地の構築は……」
「黙れ! あんなものは、お前が土をいじって泥遊びをしていただけだろうが! 他の魔法騎士なら、もっとスマートに土魔法で片付ける!」
……そうか。
彼らには、僕がやっていたことが「ただの泥遊び」に見えていたんだ。
僕には見えていた。
この世界の地面の下を流れる、複雑な魔力のライン。
それをどう繋ぎ、どう固めれば、数百年耐えられる構造体になるのか。
魔法という「現象」ではなく、土木という「理」で世界を弄る感覚。
でも、それを説明したところで、魔法至上主義の彼らには理解できないだろう。
「わかった。……今までお世話になりました」
「ふん。潔くて助かる。……ああ、忘れていた。追放先は決まっているぞ」
レオンがニヤリと下卑た笑みを浮かべた。
「最果ての『ゲヘナ荒野』だ。魔物が跋扈し、草一本生えない死の土地。無能なお前には、そこがお似合いだ」
周囲から失笑が漏れる。
そこは、生きて帰ってきた者がいないと言われる、実質的な処刑場だった。
***
数日後。
僕は、見渡す限りの赤茶けた大地に立っていた。
吹き荒れる風は熱を帯び、土はひび割れ、生命の気配が全くしない。
確かに、ここは地獄かもしれない。
「……でも、僕にとっては」
僕は跪き、ひび割れた地面にそっと手を触れた。
「――最高の、現場だ」
その瞬間、僕の脳内に、荒野の広大な3D設計図が展開された。
深度10メートルに眠る巨大な水脈。
地殻の下で渦巻く、手付かずの膨大な地熱エネルギー。
それらが、僕の指先を求めて震えているのがわかる。
【固有権能:概念土木が発動しました】
「よし。まずは、今夜の宿から作ろうか」
僕は地面を軽く叩いた。
――ズ、ズズズ……。
魔法のような派手なエフェクトはない。
ただ、物理法則が書き換わる鈍い音が響く。
地面から噴出した岩石が、空中で正確な立方体に切り出され、寸分の狂いもなく積み重なっていく。
「構造強化(パイル打ち)。断熱処理。魔力遮断(防水)。……完成」
わずか1分。
そこには、王都の貴族が住む屋敷よりも堅牢で、機能的な石造りのコテージが建っていた。
「次は水だな。……少し、深めに掘るか」
僕は適当な枝を拾うと、それを地面に突き立てた。
スキル【超硬度穿孔】。
枝はダイヤモンドよりも硬いドリルと化し、一瞬で地下100メートルに到達する。
ドォォォォォォン!!
爆音と共に、空高くに水柱が上がった。
それはただの水ではない。
地下の超高圧で圧縮され、地質のミネラルを極限まで取り込んだ、伝説のエリクサーにも匹敵する『超魔力水』だ。
「お、冷たくて美味しいな」
僕は、歴史的な発見であるはずの泉で、何気なく手を洗った。
その時。
「グォォォォォォ!!」
地響きと共に、地中から巨大な影が飛び出した。
全長20メートル。全身を鋼鉄の鱗で覆った、荒野の支配者『地底竜』。
本来なら、Sランク冒険者がパーティを組んで挑む災厄。
それが、自分の縄張りを荒らされたことに怒り、僕に襲いかかろうとしていた。
「ああ、ごめん。そこ、ちょっと邪魔かな」
僕は、迫りくるドラゴンの顎に向けて、測量用の杭を軽く放り投げた。
「【定礎】」
ドッ!!
空中で杭が固定された。
いかなる物理現象も無視して、その一点に「空間の基点」が固定される。
突進してきたドラゴンは、その小さな杭にぶつかり――そのまま鼻面からひっくり返り、地面に激突した。
「グル……ル……?」
ドラゴンが目を回している隙に、僕は周囲の地形を操作する。
「不法投棄はいけないからね。……【埋設】」
パチン、と指を鳴らす。
ドラゴンの下の地面が液体のようにドロドロに溶け、巨大な体を飲み込んだ。
そして、首から下を埋めた状態で、一瞬にしてコンクリート以上の硬度で固まる。
「グオォ……(動けない!?)」
「大人しくしてて。後でそこ、道路にする予定だから」
僕は、伝説の魔獣を街灯の土台代わりに放置して、家へと入った。
「さて、明日は下水道の工事を始めようかな」
全属性適性ゼロ。
そう呼ばれた少年の、無自覚な世界改造が始まった。
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