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狼狽───いや、警戒を示すツードは、妻と娘の手を振り払う。
すると傍に控えていた、執事のシックサが動いた。
確かシックサは「では私が寝室までお運び致します」と言って、主人を支えて歩行を補助していた。
ところが、
「ご主人様。確か、秘蔵のワインがあったはず。記念すべきご家族のパーティーなれば、ここで開栓してしまうのがよろしいかと」
「お、おお! そうだな! よし、持って参れ!」
「かしこまりました」
シックサは飲みすぎている主人の体調も考えず、新たな酒を開ける提案をする。途端に安堵したツードは上機嫌となって、空になっていたグラスを手に取る。シックサは足早にホールを出た。
ワンスはツードの援助を得てから数ヶ月の月日が過ぎている。直接会う日も指を折って数えられる回数ではない。その面会には必ずシックサが同行していたので、この執事がどういう男なのかもある程度なら知っていた。
実直にして勤勉で、ワンスのような底辺の出自であっても偏見もなく、主人と同等のもてなしをしてくれるプロだと認識した。そして主人のためなら命も差し出せるような忠誠も感じた。
だがシックサのあの行動はなんだ。違和感だけが目立つ。と心が告げた。
「旦那様………酒は控えるようにと医師から診断されたばかりでしょう? これ以上の飲酒はお控えなさるべきです………」
「黙れセブンヌ! 庭師の分際で私に意見するかっ」
「め、滅相もございません………」
「ならば黙っていろ! いや、目障りだ。消え失せぃ!」
「ッ………」
ツードの怒号に、暴飲を止めるべく諫言した庭師のセブンヌは萎縮する。
違和感はここにもある。なぜツードの生誕祭において、この別荘の外見を整える仕事を任されている庭師までパーティーに参加しているのだろうかと。もちろん従業員の側ではあるが。
気になることといえば、セブンヌの立ち振る舞い。もし庭師の姿ではなく漆黒の燕尾服を身に纏っていたのなら、それこそシックサ以上の、往年にして一流の執事然としていたかもしれない。
「いいや………セブンヌの言うとおりだぜ。兄さん」
「………テンガ。なにが言いたい?」
「飲みすぎだって、全員から言われたろ。兄さんは俺みたく、飲み慣れてるわけじゃねぇ。酒を水だと勘違いしてる馬鹿みてぇな飲み方だったぜ? そんなの、失業して酒に逃げるしかねぇ犬どもがすることだ。自粛しな」
「………貴様。ナンバーズ家の人間でありながら、粗暴な言葉を選ぶなど………恥を知れっ」
「そいつは失礼仕りまして候。ってか? まぁ、なんだ? シックサの野郎が持ってきたワインは俺が飲んでおいてやるからよ。部屋で休めって。顔が真っ赤だぜ? それこそ、初めて恋を知った生娘みてぇにな」
マフィアと繋がりがあるだとか、良い噂を聞かないテンガは、ツードから言わせれば悩みの種らしい。
子供の頃から手が付けられないほどやんちゃだったとか。
それが兄を心配し、気遣うのなら、それはそれで喜ばしいことなのだが。
ちょいと1000文字超えました。
なぜか、みんなが敵のように思えるような会話になってきましたなぁ。