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「旦那様………どうしたんだか。普段はあんなに怒鳴るひとじゃないのに」
小声で呟いたのはシェフのナイアだ。ワンスの背後にいたのですべて聞こえた。
ワンスはこの時、チャンスを確信した。
なにもかも変貌しつつある展開で、展望を拡張させるか、あるいは核心に迫ってみるか。
数秒悩んだ末、選択したのは後者だった。
「ナイアさん。今日はご馳走さまでした。とてもおいしいお料理でした。私は普段、雑な料理しか食べないもので。こんなお料理をいただけて感激しております。いやぁ、世界が広がった気がしますよ」
「おっ………そ、それはそれは! お気に召していただけたなら幸いです! 世界が広がるだなんて、まぁ………お世辞がお上手ですなぁ!」
ナイアは自分の料理の腕にこだわりとプライドを持っている。
そしてツードはナイアの料理の腕をとても気に入っていて、どれだけ疲れていようが絶対に口にして絶賛する。聞けばナイアは、そんなツードの言葉を聞くために毎日腕を振るっているだとか。
ワンスのような卑しい身分だった者の言葉が届くのか、響くのかが不安だったのは、刺殺される前の話。ナイアの性格は知っている。それが誰だろうが絶賛すれば数秒で心を開くチョロい性格をしていた。
今だってワンスが褒めちぎると、頬を紅潮させ、母親に褒められた子供のように照れている。つまり思惑どおりの駒となる。
「そういえば、今日はピッツァとパスタが多かったですな。小麦粉も相当量を仕入れられたのでしょう?」
「ええ。もちろん。良質なものを私の目で選び、お料理に用いました。なによりこのふたつはツード様の大好物ですので」
「それはそれは。でもこれだけの量を作るのも苦労なされるでしょう。初日から豪華絢爛で驚きました」
「いやっ、いやいや。そんなぁ………豪華絢爛だなんてぇ………褒め過ぎですよぉ。まぁ事実なんですけどねぇ」
クネクネと妙なダンスを踊るナイア。なんだか見てて気持ち悪い。
「これだけの量を出したら、翌日の在庫が心配になるのですが………大丈夫なんですか? かなり減ったでしょう?」
「いえいえ。この別荘の倉庫は並ではありませんよっ。明日明後日も十分足ります。………とはいえ、予想外なことがありましてねぇ」
「予想外? 聞かせていただいても?」
「いやぁ。業者が間違えたんだと思うんですけどね。小麦粉の袋が、計算より二袋少ないんですよ。贔屓にしている会社だけあって、残念でなりません」
「ほう………それはそれは」
ワンスは視線を横へと移す。酩酊していたツードは聞こえてはいなかったが、他の人間にはふたりの会話が聞こえている。
その犯人は、ビクリと肩を震わせたのをワンスは見逃さなかった。
ツードを殺したのは、誰なのやら。
次回から3に移ります。




