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「おや、奥様。そんな慌てていかがされました?」
スリールを呼び止めたのはツードの近くにいたワンスだった。
このワンスという男の厄介さは知っている。
下手に動けば怪しまれる。スリールは二秒で画策した。
「ああ、いえ………主人が無理をしていないか心配で。ほら、普段から無理をするような生活でしょう? そろそろ寝ませなければなりませんし。ワンスさん。なにか得策はないものかしら?」
あくまで婦人として、夫の心配を装う。これなら当然の主張ゆえ怪しまれることはない。
一方でワンスは五秒の沈黙のうち、二秒ほどスリールを観察して以降は視線をツードへ向けた。
「………酒で麻痺したか、精神が高ぶっているかのどちらかでしょう。で、あるならば」
「あるならば?」
「限界を超えるほど疲れさせるのはいかがかと」
「疲れさせる?」
「はい。例えばダンスなど。なるべく激しいものがいい。なぜかは存じませんが、ツードさんは散歩ができるほど元気な様子。しかしダンスならすぐには疑われることもなく、そして消耗する体力も大きい」
「それだっ………ですわ」
「うん?」
「………失礼。それよりもダンスでしたわね。それもアップテンポ………よし」
スリールはすべての計算を脳内で終えて、質問をしたがるワンスを押し退けるようにして前に立つ。
道中で悶着を起こしていたセブンヌとシックサの姿は確認済み。多少の強引さは、酒を飲んでしまったという設定で押し通す。
過去の自分を思い出す。スリールは女優だった。舞台女優として名を馳せるだけでなく、プライベートから周囲を操るためにいくつもの顔を持っていた。
スッ───と意識が前のめりとなる。氷の上を滑るように。これまでの自分を過去という時のなかに置き去りにして、新たな自分を誕生させる。
「おほほほ! ああ、おかしい。あなたもそう思いませんこと?」
「………スリール。私は今、厳然とした問題に直面して………」
「もう。妻を前にして、他のことを考えるなどナンセンスですわ。それよりもあなた。私は今、とても気分がいいの。踊りましょう?」
「は? お前なに言って………オ゛ッ!?」
うつけを装ってツードに組み付くと、スリールは力の限り夫をぶん回す。
男と女では筋肉の量と体力は差が出るものだが、ツードは酒を追加された上に歩き続けて疲れが出たのか、なかなかスリールを振り解けない。
「シックサ!」
「は、はっ。ここに。なにか御用でしょうか、奥様」
スリールはセブンヌといがみ合っていたシックサを召喚。そして無理難題を告げるのだった。




