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「は………?」
ツードは耳を疑った。
愛した妻の口から出た言葉は、とても信じ難いものだ。
きっと、相当酔っているのだろう。どうせ「寝てください。あなた」に似た体調を気遣う発言に違いない。
そう信じることにしたツードに、スリードは無慈悲に続ける。
「その氷は、私の恋人のひとりが作ったものですの。自信作だそうですのよ」
「え………ッア!?」
「あら、遅効薬とは言っていませんでしたが、予想よりも早かったですわね」
ツードはロックアイスが詰まったグラスを床に落とし、急に襲い掛かった苦悶に床に四肢を突く。
その様を、スリードは死ぬ間際に足掻く無様な虫でも見るような目で俯瞰した。
夫が死にかけているのに、冷静に、そして当然であるかのような瞳にツードは戦慄する。
「まさか………毒………っ」
「まぁ、そうでしょうね。ではあなた。安心してお死にあそばせ。ああ、後のことはご心配なさらずに。私と恋人たちで舵を取ります。みな若くして優秀なんですのよ? きっと私にとってより良い未来へと発展していくことでしょう」
薄ら笑いを浮かべるスリードは、ついにツードの前から去った。足音が遠ざかる。
「クソッ………死ねるか。こんなところで。………許さん。絶対に許さんぞスリード。まさか浮気をしていたとは………しかも、恋人たちと言っていたな。あやつ、複数人と交際しておったとは………ッ!」
ツードは震える足に力を込めて立ち上がる。
まずはシックサを呼んで解毒薬を用意させる。体調が戻り次第スリードを追い詰め、断罪を決意した。
ところが体のコントロールが働かず、三歩ほど後退したところでなにかに躓いた。
「むおっ!?」
自慢のソファだった。海外から取り寄せた逸品だ。
そこに深く腰掛けた。倒れるよりまだマシだと思った刹那、ボフンと聞きなれない音を立てて、ソファの両サイドからなにかが飛び出す。
「ゴッファッ!? ごふ、ゲフッ………なんだこれは………むん?」
驚いてソファから転げ落ちる。
ソファの両サイドから吹き上げるのは白い粉で、座った衝撃で飛び出したふいごを押す仕組みになっていた。それが白い粉を巻き上げている。室内に充満するのに時間はかからなかった。
そして、ふいごの近くになにかが飛び出ていた。カードだった。毟るように掴み取ると、内容を見て愕然とする。
『さよならクソ親父。死ねバーカ』
ソファの下にセットしたふいごの上に座ると、収縮したそれが風を送り、仕込まれていた白い粉を巻き上げるという仕組みです。
でもごめんねツードさん。
悲劇はまだこんなもんじゃないんだ。まだまだ、あるんだよ。




