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4-2 

「氷ですよ」


「氷?」


「ええ。主人がいつも使いますので」


「………ああ、お酒ですか」


 スリールはガラス製の容器を提げていた。氷と聞いて、それがアイスペールだと理解する。


 彼女もまた、旦那に尽くすタイプの女だと、ナイアは自慢げに語った。結婚して子供を持っても、その愛情は色褪せたことがないと。


「主人は蒸留酒に氷を入れて飲むのが好きなので」


「でも………あれ? ナイアさん。その格好、冷凍ができる倉庫にいたんですよね? 氷くらい、いくらでもあるのでは?」


「あー、それがですねえ。奥様が自ら仕入れられた特別な氷なんですよ」


「特別な、氷?」


 そんな氷があるなんて知らない。そもそも、氷は高級品だ。その季節ではないならなおのこと。ワンスは最近になって、やっと手が出せるくらいになったゆえ、さらに特別製な氷があるとは知るはずがない。


「ええ。硬い氷です」


「硬いと、なにかあるんですか?」


「溶けにくいんですよ。純水を使いまして。しかも大きい。それなりの数を用意していたのに、なぜかすべて無くなってしまっていたんです」


「それは………残念ですね。でも、なんで」


「困ったことです。主人のために用意したのに。ワンスさん。見かけたら注意して下さいませんこと? 主人以外は絶対に飲むな、と」


「承知しました。では、失礼します」


 溶けにくい氷とは興味深い。


 新たな知識のページを更新したワンスは、キッチンから出る。スリールの愛は本物だ。この屋敷で使う者がいるとするとテンガくらいだろう。


「………待てよ? 確かテンガは………酒瓶に直接口をつけて飲んでいたな。氷を使う必要、ないはずだよな」


 ではいったい誰が氷を使うというのか。






 一方で、ワンスとスリールのやり取りを物陰から見ている存在がいた。


 息を殺してワンスがキッチンから遠ざかるのを待つ。ワンスが出るとスリードも憤慨した様子で飛び出した。


 そして機が熟すと、物陰から出て、近くの壁の窓をわずかに開けた。


 途端に強風が舞い込むも、その者は凶悪な笑みを浮かべ、片腕を窓の隙間から外に出す。


 地下倉庫に収納していた、スリールが用意していた革袋の口を下に向けて。



「ククク………やらせるかよ。ババァが」



 ほくそ笑みながら革袋に収納していた氷をすべて外に排出する。


 それが終わると窓を閉め、キッチンを覗いてナイアが倉庫にいることを確認しつつ、ゴミ箱の奥底に革袋を突っ込んでから去った。

疑心暗鬼というよりも、陰謀渦巻くカオス領域といったところでしょうか。


こいつぁ酷ぇや。


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