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ツードを追って、なんとか寝室に戻るよう下衆めいた思考で行動するワンスは、足早に移動していた。
だがなかなか発見できない。この館は広すぎる。ツードの年齢と、体調を考えればそう遠くへは行っていないが、一階と二階があるゆえにひとりでは探しきれる距離ではない。
ついに走り出すこと数分。
ワンスは勘を働かせて移動していると、いつしかキッチンの近くに足を運んでいたことに気付いた。
なぜかキッチンが気になった。
そういえば、キッチンでとある証拠を掴んだのだ。犯人は物的証拠を隠蔽したつもりで疎かだったのだが、もし燃やされていた場合も鑑みて二段構えを講じていた。結局は無駄になったが。
「………なぜ………もしかして、誰かが持ちだした………?」
ロビーから飛び出した時点で未知の領域だ。もう前回の記憶と参照はできない。
キッチンのなかで聞こえたのは女の声。ワンスはひょこりと顔を出して、声をかけた。
「あれ? 奥様ではありませんか。いかがなさいましたか?」
「ぎゃっ!? あ、ああ………これはこれは。ワンスさんでしたか。あー………これはですねぇ」
奥歯に物が挟まったような言動。ワンスは笑みを浮かべつつも双眸をより細めた。
大企業の会長婦人がキッチンに出入りする必要はない。この別荘には執事だけでなくメイドもいる。メイドに申し伝えれば働くはずだ。
それがなぜ婦人自ら、ドレスの裾が汚れるにも関わらず、こんなところにいるのか。かなり気になる。
「奥様ぁ! 言われたものは無かったですが………お、おおっと。ワンスさん。どうしました? あ、もしかして夜食が必要でしたか? 体力勝負のお仕事ですものね。いいですよ。あとでなにか作って持っていきますよ」
キッチンの奥のは複数の倉庫がある。用途によって使い分けられ、さらにいえば地下にまで倉庫を構えている。と前回の聴取でナイアは自慢げに語っていたのを思い出す。
その倉庫のひとつから出現したシェフのナイアは、かなり冷えている様子だった。
鼻から垂れる汁の度合いから見るに、最大の冷気を誇る地下の倉庫にいたに違いない。冬に大量の雪を集めて移動させ冷気を閉じ込め、そこに食品を置いて保存することで腐敗を防ぐ仕組みだ。地下から湧出する冷気によって段階を設けている。
つまり地下の雪の塊に近ければ水も氷る。それほどの場所にいたのだろう。
「いえ、夜食は結構です。奥様をお見かけしたもので。なにをしていらっしゃるのか気になって声をかけてしまったのですよ。ナイアさんはここでなにを? 明日の朝食の仕込みですか?」
「ええ。それもあるんですがね。奥様に言われて倉庫を探していたんですよ」
「差支えなければ、なにを探していたのかお尋ねしても?」
まだ探偵の真似事をするには時期尚早かもしれないが、スリールのお使いの内容が気になってしまい、余計だとは理解しているものの深く踏み込んでしまった。
ということで新章に突入。
ここから疑心暗鬼カルテットの始まりです。
誰が敵で、誰が味方なのか。それはまだ誰にもわからないことです。秘密を抱えているなら、なおのこと。




