さようなら
衿菜?
後ろを向くと能面の顔をした女性が立っていた。
「さようなら」
「なっどしたのあんた」
さっそうと歩いていく
待って 待って
でも目の前の病院のほうが先だ
「春海!?春海いいい」
担架に乗っているのは確かに春海だった
小さい鼻 小柄な体
いつも笑っている口は苦しそうに固まっている
何がっ何があったんですか
手あたりかまわず白衣をつかむ
バス スリップ 運悪く 駅の近く
単語で言わないでよ
単語しか認識できないよ
「衿菜あああああ」
誰かそばに来て
治療室の前ですわり込む
あーあ あーあ
止まんないな これ
こすっても 拭いても ぽろぽろ
あした~から~はなみだおろぼでもお
あの歌頭から消えろ
「終わりました」
なにが
「春海さんは」
なに
「運が良かったですね」
うん 運?
「腕の骨折と軽い脳震盪で済みましたよ」
そっか
「春海ぃぃぃ!!!」
「なっ何、瑠菜!?」
百回ビンタしてやろうかああ
「あほ、あほう・・」
「ごめんなさい、ふふ」
あ やっぱ似てる
衿菜 あんた似てる
「バスが目の前にグワーって来たの。でも平気だった」
「何がよ」
「新幹線が頭上を通って見上げた途端に気付けたから、避けれた」
ふっすごいね
「あーあ買い物」
「命あってよかったじゃん」
「生きるが華だもんね」
だれのことばだっけ それ
あ あたしが去年言った言葉か
「ん?煙い」
あたしの服から匂うタバコだろう
二人、いや三人にすわれたもんな
「お・く・じょおおおお」
「はしゃぎすぎ」
「だって病院の屋上ってマンガチックじゃない!?」
「じゃない」
「ふふ」
夕焼け夕焼け 星 星座
何であんたはあんな冷たく帰ったの
何でよ衿菜
「あしたさあ」
「ん?」
春海を巻き込んでいいのかな
「明日、また駅行かない?」
「包帯してけばいっか」
春海は腕を振る やめとけ
「いっつ・・」
お前な
あ 似てる
さっきからそればっかだな
あたし恋してるわけじゃねえのに
ま いっか
「雪雪雪だああ、何で積ってんのおお」
「なんでか・ね」
「つめたああ、反撃」
はずれ はずれ
「下手だねあんたら」
「ら?」




