1-5 罰金
本日5話目の投稿です。
「これです!!こういうの求めてたんです!!!」
ティアード商会の商談室。私はついに素晴らしい素材を手にして小躍りしている。
乾きやすく、動きやすく、暖かい素材。そして肌触りの良さ。完璧だ。
「いやはや……こんなに開発が大変だったことなんてないよ。カサンドラちゃんの要求高いからねぇ」
布関連を扱っているマルクスさんが苦笑いをしている。それもそのはず、もっと伸びる生地がいい!とか、もっと温かく!とか、ひたすら要求しまくったのだもの。でもさすがティアード商会。ついに念願の品質を備えた布を手に入れて小躍りする。……傍から見たら、ただの黒い布なのだけれど。
「早速試作品を作ります!」
「あぁ、がんばってなー」
私は嬉々として針と糸を手に持ち………そしてその日のうちに試作品を完成させた。
「………お前、働きすぎなんじゃないか?」
「ビジネスはスピード勝負ですわ!」
ニコニコしながら、ちょうどやって来ていたテオさんに服をあてがう。本当にシンプルな、普段着る服の下に着る暖かい肌着のようなものだ。見た目はただの黒い服。
「……ここまでシンプルだと似合う似合わないは無さそうですし、着心地のほうが気になるんですが……もしよかったら着てみてくれませんか?」
「あ、俺ちゃん着ますよ?」
ユーリさんがニコニコと寄ってきてくれた……が、テオさんが先に試作品を手にすると、着てくると言って衝立の向こうに行ってしまった。着たかったのかな?
ユーリさんはそんなテオさんを訝しげな表情で見送ると、私の顔を覗き込んだ。……ちょっと距離が近くて少し身を引く。
「カサンドラちゃん、今日あの生地手に入れたんでしょ?ほんと早いよね」
「あんまり刺繍は得意じゃないんですが、真っ直ぐ縫うぐらいなら」
テオさんが着て出てくるのを心待ちにしながらそう答える。ユーリさんは不思議そうに首を傾けた。
「……刺繍も裁縫も両方やったことあるんだね?」
「はい。あ!テオさん……っ!」
シンプルな黒の長袖を着て出てきたテオさんは、細身なのに、思っていたよりしっかりとした筋肉がついていた。そこまで厚くない服だから、造形の美しさが丸わかりだ。あまり直接目にしたことのない男らしさに、ちょっと目のやり場に困る。
そんな私の心の乱れなど気にせず、テオさんは着た姿を私に見せてきた。
「着心地はかなりいい。しっとりと暖かい感じがする。冬場の肌着には丁度いいし、男なら別に普通の服として着て出歩くやつもいそうだ」
「そ、そうですか」
こんな造形美があちこち歩き回っていたら目のやり場に困りまくるのだが。ぷるぷるしていると、テオさんは腕を差し出した。
「でも、俺が着るなら袖がちょっと長い。できれば外からは見えないようにしたい」
「なるほど……」
「俺ちゃんは長いのも欲しいなー。手首って結構寒いじゃん」
「………2タイプで販売してみましょうか……」
男の人でも色々違うんだな、と思いつつメジャーを取り出す。
「テオさん、ちょっと腕の長さ測らせてくださいね」
ドキドキしつつも造形美なテオさんの腕にメジャーをあてた。脇から手首までメジャーを添わせ、少し考える。
「袖、この辺りであればどうでしょう?」
「……もう少し短く」
「このぐらいでしょうか?」
「そうだな」
「七分丈ぐらいですね」
そう言ってテオさんを見上げると、テオさんはまた顰めっ面をしていた。
「………どこまで生傷を増やせば気が済むんだお前は」
「あー……すみません、先日大物を仕留めまして」
特に防具を纏っている訳でもなく、抵抗されるとそれなりに怪我をする。まぁ、大怪我をするほどの事はないし、大丈夫なんだけど。
「お前、今日は足もやられてるじゃないか」
「ちょっとやんちゃな魔獣だったんですよ」
「………座れ」
そう言うと、テオさんは私を椅子に座らせ、跪くと回復魔術をかけた。傷口が白く光り、滑らかな肌になっていく。なんだかこの造形美が恭しく跪く光景が眩しくて、目に毒だ。生足にテオさんの手が触れている。恥ずかしい。心臓がうるさい。そして申し訳ない。
「……いつもすみません」
「次回から金取るからな」
「え!!?」
「当然だ。労働の対価は支払ってもらう」
「じ、じゃあ治療しなくていいです!」
「駄目に決まってるだろう」
「ぇ、えぇーー」
テオさんが私の足元でギラリとした目で私を見上げている。
「金を取られるのが嫌なら傷を負わない対策をしろ。それぐらいできるだろう」
「………う、うぅん……」
テオさんは、はぁとため息をつくと立ち上がった。
「お前の素材入手の技術の継承について、ゆっくりでいいと思っていたが、今すぐやる。素材は素晴らしいが毎度傷だらけになるアホにやらせておけない」
「っあ、アホって!!流石に暴言ではありませんかテオさん!!」
「うるさい。何度言っても傷だらけのお前に反論の余地はない。技術料はしっかり支払うし専属契約料の月ごとの支払いもする。技術継承は明日からやるぞ。いいな」
「っえぇ!?そんな急に……」
「技術料はこのぐらいでどうだ」
「っっ高っ!!え、流石に貰いすぎじゃ!?王都に小さなお家買えちゃいますよ!?」
「高いと思うなら誠心誠意技術伝承に努めろ。じゃあ明日の朝イチで森の前集合だ。それでいいか」
「わ、分かりました………」
押し切られて頷く。怒られてしゅんとしたまま周りを見ると、みんな絶妙な顔でこちらを見ていた。
「なんだ」
「いや……テオさん、それ無自覚ですか?」
「何がだ」
「ナンデモアリマセン」
ユーリさんはテオさんにジロリと睨まれて黙った。何なんだ。
とにかく、明日は素材のとり方を皆さんに教えることになった。私はどのように教えたら効率的に間違いなくお伝えできるだろうか……と考えながら、夕飯の支度をしに急いで家に戻った。
お読み頂いてありがとうございます。
早速応援してくださった方ありがとうございます!
見てくださる方がいてとても嬉しいです!!
まだ無自覚なテオさんですが、カサンドラはちょっとドキドキしてきたでしょうか……
ぐふふとマスクの中でニヤけた読者様も、
「私もテオ様に跪いてもらって生足治療されたい」と思った尊いセンスをお持ちの方も、
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