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1-6 急所

本日連投中です。

「まずは急所を魔術で探します」


「………なんだその魔術は………」


 森の中。私は早速素材処理の技術継承の壁にぶち当たっていた。それはそうだ。私が使っているのは『前世の』魔術。みなさんが使ってるのはこの世界での魔術。割と似てるんだけどちょっと違う。故に困ったことになった……というのが今の状況だ。


「………大体仕組みはわかったが……こんな考え方で魔術を使うとは、枠組みそのものが違うぞ。お前はどうやってこれを開発した」


「…………………企業秘密です」


「なるほどな」


 テオさんはギラリとした目で私を見た。なんだろうか。今までで一番圧が強い。


「まぁいい。新しい魔術の開発は開発者のセンスだし、その技術を盗みたいのなら見て盗むしかないのが魔術師の世界だ。今日この機会で全て暴いてやる」


「あばいて……!?ま、まぁ……見て分かっていただけるのであれば助かりますが………」


 なんだろう。ものすごく闘志を燃やされてしまった。とりあえず、見て覚えてくれるなら話は早い。私はさっさと次の段階の説明へ移ることにした。


「で、ちょうどそこにいる魔獣の急所を分析しますよね?」


「……あぁ」


「そしてそこを突く!!」


 得意の風の魔法で一刀両断できればいいが、それでは商品価値が落ちる。だから風の魔法を駆使して身体のスピードを上げて、短剣で急所を一突きだ。……が、大概力が足りなくて事切れるまでに時間がかかり……手足を引っ掻かれたりすることが多い、ということだ。


 例によって腕を負傷しつつも、無事トドメを刺した私は、ふぅと一息ついて振り返った。


「こんな感じです」


「…………お前………………」


 呆気にとられたようなテオさんの怒りのゲージが、何故か上昇していくのが見えた気がした。


「え、えぇと?」


「そんな高度な魔術を使えるくせに防御も拘束もしないとかどう言うことだ!」


「防御………と、拘束?」


「罰金貰うからな」


 そうして血を垂れ流す私の腕に触れたテオさんは、さっさと回復魔術で私の腕を治してしまった。


 怒られてしまってしゅんとしつつも、とりあえずお礼を述べる。


「ありがとうございます………」


「礼はいい。で、まさか防御の魔術も拘束の魔術も使えないとか言うなよ?」


「…………使えません」


「嘘だろ?」


「ほんとですし………見たこともないです………」


「は…………」


 暫く後ろに控えていたユーリさんが、ドウドウと私達を落ち着かせながら間に入ってきてくれた。


「まぁまぁまぁ!ね、たぶんカサンドラちゃんは、我流?かなにかで?変わった魔術つかうんだよね?ほらテオド……テオさん、防御と拘束の魔術、見せてあげたら?」


「………拘束」


「グェ」


 間に入ったユーリさんが、光る魔術のロープで拘束されてしまった。すごい、一瞬だ。あと苦しそう。


「それから、これが普通の防御だ。殴ってみろ」


 テオさんの身体が淡く光り、包まれたようになる。ていうか、殴る!?


「っえ、な、殴るって………」


「攻撃されないと効果がわからないだろ」


「は、はい……」


 せっかくやってくれたのだしと、とりあえず出された手のひらをポコッと殴る。


「…………手に当たった感じがしません」


「そう、これが防御の魔術だ」


「なるほど………」


「もちろん万能ではないが、今お前が負ってる傷ぐらいは防ぐことはできる」


 テオさんはふぅと息を吐き出すと、私の顔をジロリと覗き込んだ。


「あれ程の身体強化の風の魔術を使えるんだ。これができないとは言わせない」


「っそ、そうですね……?」


「やってみろ」


「っこ、こうですか………?」


 見よう見まねでやってみる。しかし、なかなかうまくできない。腕が弱いとか胴が甘いとか、何度か繰り返すうちになんとかそれっぽくなった。


「まぁこんなもんだろう。次は拘束だが……かまって欲しい魔獣が来たようだから今回は俺が拘束する。防御の上、先程の分析の魔術をもう一度見せろ」


「はいっ」


 ハッとして振り返るとかなりの大型の魔獣だった。この毛並みはかなりのお値段になりそう!!私は嬉々として分析した。


「……見えた!行きます!」


「―――拘束」


 さっと光の輪で魔獣が拘束され、私は見よう見まねの防御の魔術を発動すると、さっと飛び出して短剣でトドメを刺した。


 かなり暴れたが、拘束と防御の魔術のおかげで全く怪我を負わなかった。


「なんて楽ちん!!」


「普通だ………」


 疲れたようなテオさんがまたため息を吐いて、自分の短剣を取り出す。


「で、ここからはどうする」


「はい。この魔獣は大型のオオカミなので、ここに沿ってこう切って、血抜きをして……皮をはいで乾燥の魔術で処理しながら肉を切り分けて」


「なんだその乾燥の魔術とやらは」


「えぇ!?生活魔術ですよ?」


「…………」


 そうして魔術を教えたり教わったりしながら、二匹の魔獣を処理する頃には、もうかなり日が高くなってきていた。


「………とにかく、大体のことは分かった。後はお前には拘束の魔術やら何やらを覚えてもらう必要があるが、それはまた次回だな」


「そうですね、そろそろ帰りましょう。……あとテオさん、俺の拘束外してください」


「なんだお前それぐらい抜け出せないと俺の付き人失格だぞ」


「えぇ………」


 そう言いながらもパンッと拘束を解いたテオさんは、処理した素材を持ち上げて全部ユーリさんに持たせると、私を振り返った。


「ほら立て、行くぞ」


「あ、はい………」


 実は慣れない魔術を使ってもうかなりヘトヘトだったのだが、みんな急いでるのかなと思って無理やり立ちあがる。が、フラリと視界がブレる。


「っおい!?」


「ご、めんなさい……ちょっと休んで帰りますから……」


「………魔力量見るぞ」


 そうして私の手を取って魔力量を確認したテオさんは、驚きで目を見開いた。


「…………お前、高位の魔術師レベルの技を持ってるくせに、魔力量はこれしかないのか?」


「すみません……」


「…………」


 元のカサンドラの身体であればもう少し魔力量は多かったのだが。エラは低栄養状態だったのもあるが、魔力量も体力も少ない。


 申し訳ない気持ちでいると、突然身体がふわりと宙に浮いた。


「!?」


「大人しくしろ」


 耳元でテオさんの声が聞こえてびっくりしてよくよく状況を確認したら、なんとテオさんに横抱きにされ運ばれていた。


「あ、あの……!」


「時間がない。黙って運ばれろ」


 思ったよりもがっしりしたテオさんの身体の感触が布越しに伝わってきて心臓が跳ねる。きっとテオさんには特別な意図はなくて、ただ歩けない私を運んでいるだけなんだろうけど。


 魔力が切れかけて、こんなに優しくしてもらったことなんて、あっただろうか。


 妙に胸の中が温かくなってきて、私はごまかすようにギュッと目を閉じた。


 そうしてズカズカと進んだ先にあったのは、ひっそりと停まっていた馬車だった。見た目は地味なのに、降ろされた座席の座り心地が妙にふわふわだ。


 そして同じ馬車に乗り込んできたテオさんは、何故か素材を持っていないユーリさんも同じ馬車に同席させると、少し考えた後、指示を飛ばした。


「素材はティアード商会で買い取り、肉等の取り扱いのないものはいつもどおり売却。売上金は全額カサンドラに渡せるように準備。それから、カサンドラはこのままティアード商会の客間に通して半日強制的に休ませろ。いいか、書類仕事させたりするなよ」


「えっえぇと、私は大丈夫「お前は少し反省しろ」


 ピシャリと言われて口を噤む。そんな怒らなくても……と少し恨みがましくテオさんを睨むと、テオさんは眉間にシワを寄せたまま、ちょっと心配そうな顔で、私の顔に手を伸ばした。


 頬に触れる、少しゴツゴツした手。それから、私の目の下をなぞる指。その優しい手の動きにもうどうしていいか分からなくて、呆然とテオさんを見つめる。


「お前、ちゃんと寝てないだろ」


「っへ、え、あ、いえ………」


「昨夜の就寝時刻と起床時刻を正確に答えろ」


「…………深夜2時に就寝、起床は4時半です」


「お前俺を舐めてんのか」


「え!?」


 ギラリと怒気を強めたテオさんは、イライラとした様子で腕組みをした。


「お前の毎日の仕事を全て棚卸ししろ。家のことも含め。今すぐにだ。朝から時系列で。」


「っえぇと、朝食準備、洗濯、掃除、皿あら「不十分だ。何人分の食事と洗濯物なのか、部屋の数は」


「………四人分の朝食準備、四人分の洗濯物、10部屋と階段と廊下と厨房の掃除、庭の掃除、素材集め、新規事業の計画作成と試行錯誤して実行、四人分の食材の買い出しと夕飯の仕込み、提供、四人分の皿洗い、お風呂の準備と清掃、経費精算、明日の予定整理と新規事業について思いを巡らせ、参考図書などを見てから就寝しています」


「…………休日は週何日だ」


「休日?」


「……………………ユーリ」


 テオさんは何だか地を這うような声でユーリさんを呼んだ。ユーリさんは苦笑いをしながら頷いた。


「とりあえず、お手伝いさんでも派遣しましょうか」


「人選できたら念の為俺にも報告しろ。ロナリコフ卿とも交渉が必要だ」


「っ待ってください!」


 まさかここでロナリコフ家の名前が出てくるとは。でも、間違いなくテオさんは貴族だ。それに、お忍び用の馬車を持ってるなんて、間違いなくかなり高位の貴族だろう。私の素性なんて、とっくの昔に調査済みなのだ。


 ………でも、でも。必死にテオさんに縋る。


「ご、ご当主様へお伝えするのは待ってください!私は勝手に色々と――」


「エラ」


 この身体の本当の名前を呼ばれて、ドキリとして身体が固まる。そう、私は『エラ』だった。カサンドラではなく、エラ。


 何故か、胸にグサリと刺さるものがあって、息を詰める。


 テオさんは、私の目を強い視線でじっと見つめながら、私に言い聞かせるように口を開いた。


「お前の成し遂げたい事は、何だ」


 その問いに、ハッとして胸に手を当てる。私が、成し遂げたい、こと。


「………真に、この国や世界のためになる事をしたいです。そのように、生きたいと思います」


 テオさんは少し驚いたように目を見開くと、今度は一転して、挑戦的な、でも少し優しい顔で笑った。


「なら、資本であるお前の身はもっと大切に扱え。倒れたらその志はそこで終了だ。時間も体力も無限ではない。過労になる前に、お前が成すべきことを見極めて、それ以外は他のものへ対価とともに渡せ。それもこの国や世界のためだ」


「それも……国や、世界のため……?」


「お前一人で頑張った世界は、お前がいなくなれば終わる。お前以外も尽力する者がいる世界は、お前が居なくなっても強いまま残る。それが国や世界のための人材育成だ」


 呆然とテオさんを見つめる。エラも――そして、カサンドラも、多くを求められ、それを必死でこなして生きてきた。頼れる者は少なかった。王子は、私を責めはするけれど、協力してはくれなかった。でも―――


「誰かを頼ることを、諦めなくても良いのですか」


「当たり前だ」


 テオさんの返答と共に馬車が止まり、ドアが開けられる。トーマスさんが心配そうな顔で出迎えてくれていた。


「いいか、何もせず、ぐっすり眠れ。仕事したら罰金だ」


「えぇ!?」


「いいな?」


「………はい」


「よし」


 テオさんは私が頷いたのを見て満足そうな顔になった。そして、私の頭をわしゃっと撫でると、ユーリさんと行ってしまった。呆けた顔でまだ感触の残る頭に手をやる。


 なんだか、心がほわほわと温かい。


 トーマスさんは困ったように笑いながら、私を客間へ案内してくれた。


「私も怒られてしまいますので。ちゃんと休んでくださいね?」


「はい………」


 商会にいたメイドさんに連れられて、客間のふかふかのベッドに寝かされる。休めって……こんな慣れない場所で、眠れないんじゃないかと思ったんだけど。


 こんなに何もしない時間って、いつぶりだろう。


 私は気付かないうちに、グッスリと眠りの世界へ落ちていった。


お読み頂いてありがとうございます。

少しでも楽しい時間をお過ごし頂けたら嬉しいです!!


頭ナデナデは永遠の胸キュンポイントであると確信しております。

「わかるー!撫でられたい!」と思ってくれた同志の方も、

「私はテオ様の横抱きがいい」と思った高みを目指す方も、

いいねブックマークご評価なんでもいいので応援頂けると嬉しいです☆彡

ぜひまた遊びに来てください!

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