70話 兄・信長包囲網① 帰蝶参陣
― 兄・信長 ―
「パパさまぁー! オカエリなさーい!」
「お帰りなさいませ。パパさま」
「お帰りなさい。旦那さま」
岐阜に戻り家族に囲まれると、ようやく家に帰った気がする。特にキツノン(=吉乃)が、嬉しそうに、優しく迎えてくれるとこの上なく嬉しくなってホッとするぜ。長男の《奇妙》と、次男の茶筅にまとわりつかれ、つい口元が緩む。
「最近カゼひいてたって聞いたんだが、具合大丈夫なのか?」
「はい、おかげさまでこの通り。すっかり良くなりましたわ」
ニッコリとした彼女の、大きなオナカをさする。
「次は女の子がいいなー。ま、とにかく元気ならどっちでもいいか」
「もう。じゃあ、頑張って今度は元気な女の子を生むとします」
「オレが好き勝手に口走っただけだから。そんな真に受けるなよ」
「……アラ?」
「? どーした?」
「……いま、《オレ》っておっしゃいました?」
「言ったっけ?」
「ええ」
ん? ヘンだったかな?
「それがどーした?」
「……あ、いえ、別にいいんです。何でもありません」
彼女のいぶかしげな様子にやや鼻白んだが、まぁいいや。
「お食事なさいます? それともお風呂……」
「あー、これから家来たちと会議なんだ。三好ってのがちょっかい仕掛けてきやがったってさ、将軍が報せて来た。その善後策を練る」
「え……! 帰って来たばかりなのに?!」
ああ。そーなんだ。でもしょーがないんだよ。
「たぶん、そのまま出陣準備に入ると思う。ごめんな。……あ、そーだ。今度の出張先は大坂だから、たこ焼きかお好み焼きを土産に買って帰ってやろう」
「わーい! タノシミー! パパさまぁ。たこ焼きってなーに?」
「茶筅。知らんと嬉しがったのか? えーと、丸い焼き球の中に、切断されたオクトパスの残骸が入ってるヘンな食べ物だ」
キモチワルイ。と奇妙がごく小さな声で言った。だろ? オレもそー思うぞ? まぁ、こっちもわざとそー思わすように言ったんだがな。
「とにかくお身体に充分注意してくださいね?」
「ああ。分かってるよ。キツノン」
家族に見送られ奥を後にする。
廊下で帰蝶が待っていた。桶狭間以前からの腐れ縁をキープしてる、コイツもあるイミ家族の一員だ。おそらくだいぶ長い時間そこに居たんだろう、使っていたのであろうイグサのお座布の上に、コーラとマンガ本が乗っかっていた。
「よー、信長よー。今度はどこに行くんじゃ?」
「出たなぁ。ロリババア」
「もうそーゆーの、いいから。それよりもな、今回からワシも連れて行けよ。これは懇願ではなく、要請じゃ」
「フーン。妖精がどーしたって?」
「文字でないと理解できんようなボケをかますな。ワシゃの、いい加減、内勤しているのがツラクなってきたんじゃ。なんかムショーに暴れたいってのかの、とにかく外界にテイクオフしたいんじゃ」
……よく動く口だなぁ。それに、ちんまい身体のクセに、まだ武将気質持ってんのか。けなげに訴えてくる仕草にホロホロうなづきそうになるが。承知するのはどーかな。
「帰蝶……。今度の戦いにオマエの息子が参戦するかもってウワサ、聞いたからだな?」
「へへ。……まぁ、な。龍興のヤツ、ホントーに往生際の悪い。このワシがじきじき成敗してやろうか……との。なんとなくそー思ったんじゃよ」
「フーン。……それって本心?」
「ノブ公よ。オマエ最近ますます疑り深い性格になったのう。大事な妹に裏切られたせいか? ……おっと、これは禁句じゃったっけの?」
松永弾正に同じコト言われたらムショーにムカつくんだが、帰蝶は別にそんな気、起こらん。コイツが女だからか? カワイイからか? たまにデレてくれるからか?
「……ヤレヤレ。いいぜ。連れてってやるよ? その代わり、お馬廻に加わってもらうぞ?」
「アリガトー。お兄ちゃん、ダイスキー!」
……ちょっとキレていいかな?
その夜、オレは会議の後、帰蝶以下主だった親衛隊を連れ、岐阜を発った。夜陰に乗じて近江路を抜けるためである。一刻も早く京都に着きたかったのである。最近何かと反抗的な態度をとる将軍ヤローにサプライズしてやりたい一心なのだ。それにより、オレの神出鬼没ぶりを見せつけ、恐ろしいヤツだと思わせたかった。
姉川の戦いで失ったジープに代わり、新しく買い直したスーパーカーは最高だ。いや、実際はスーパーカーと言ってもただのSUVだが。オレは財力に物を言わせて岐阜・京都間に幹線道路を整備し、デァルエンジン搭載の新車で一気に都にナイトドライブでGO! を満喫した。
なお岐阜後発の面々は通常の足軽、騎馬部隊。これらは軍容を整え、オレの影武者と共にエッチラオッチラ押っ取り刀で上洛する段取りだ。とにかく待ってるぞ、早く来いよ!




