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【完結御礼】新説信長公記! ― シスコンお兄ちゃんが大好きなんだけど、モテすぎだしハラスメントな信長さまだから、織田家滅亡のお手伝いをするね! ―  作者: 香坂くらの
第五章 姉川合戦(ラブコメなのか?)

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69話 姉川⑫結 お市、再始動


 ― 妹・市 ―


 おでこがヒンヤリしたので目を開けた。暗い部屋の中で、行灯がゆらゆらと消えかけている。冷気をまとった陽が掛け布団のあしもと近くに鋭く差し込んでいた。

 明暗がくっきりした寝屋、横になったわたしの枕元に、あぐらをかいたナガマサが腕組みで大きないびきをかいていた。その腕に触れてユサユサする。「ふんが?」なんて、返事ともつかない茫々とした寝ぼけ声を発して大人しくなった。


「……熱、下がったみたいだな」

「わたし、寝てた。……ここ、小谷のお城?」

「ああ。……スマンな。オレも寝ちまってた」


 顔だけを動かし周囲を確認する。板張りの壁ぞいに大きめのナップサックと紙袋が置いてあるだけの簡素な部屋。確かに間違いなく《お市ルーム》だ。


「いま、何時?」

「何時……というか、《あれから》丸三日経った」

「三日!」

「ああ。正確には二日と半日だ」

浅井(わたしたち)、負けちゃったの?」

「……勝っちゃあいねえな。そうとう嬉しくない気分だぜ」

「まぁた、そんなヘンな言い方。……そっかー、勝てなかったんだね」

「気にすんな。まだまだ巻き返せるさ」


 その優しさがダメなんだって。

 イヤでも心が痛くなるじゃん。わたしは両腕でカオを隠した。

 だって止まんないよ、涙。


「ごべんね。あだじとお兄ぢゃんのぜいで。いっばい人が死んじゃって。浅井の人だち、があり恨んでるんだどうね?」

「恨んじゃいねぇさ。戦国の習いさ。それによ、浅井(オレら)はむしろ、市に感謝してんだぜ」

「どーゆー思考回路したらぞーなるのおー?」

「だってよ、《あの》織田に、あれだけの戦いが出来たんだぜ? 一泡も二泡も吹かせてやれた。天下に浅井の名がとどろいた」


 ガバリ! 起きたわたしは、ナガマサのやたらとぶっとい首っ子を絞め上げた。ちっとも手が回んなかったけど気持ちはそんな感じ。涙が引っ込み、怒りに交代した。


「アンタねぇ! 浅井は大負けしちゃったし、メチャクチャな人数の味方が、織田によって殺されたんだよ?! なのにヘーキでよくもそんな『頑張りました、へへっ! 』みたいな発言できるね?!」

「おかしいか?」

「おかしい! とってもオカシイ!」


 うーん。と困ったカオのナガマサ。


「あ、そうそう。でもよ、オマエの兄貴、届けてくれたぞ?」

「……なにをよっ?」


 首を絞められてるってゆーのに、ちーっとも堪えてなくって。しかも、織田へのうらみをぶつけたら反対にまるでそれを弁護するかのように《良い事探し》を始めたナガマサ。なんてコト?!


「届けてくれたのは、キエモンの首だ」


 オカシイ、オカシイ、オカシイッ!

 いったん止まった涙がまたもや垂れ流しになったじゃないのっ!

 ……でも、これが地球人たちの、戦国人たちの感覚なんだな。


 イカスルメル星人とはまた違ったタイプの異常さだ。あるイミ、イカスルメル人の性格の方がまだ理解できるよ。根本的にはたぶん同じなんだけども。


「お線香、あげてくる」

「ああ。そうしてやってくれ」


 ふすま戸を引くと、晴れだと思ってた空はどんよりと曇っていた。今日は雨かも知れない。


「ナガマサ」

「なんだ?」

「武士は生きるために生きるんじゃなくて、死ぬために生きてるの?」

「……難解極まりない問い掛けだな。なにを聞かれてんのか、ちっとも分からん」

「わたしさ、姉川でお兄ちゃんと一緒に死のうと思ったの。だって、もうこれ以上、この世界の人たちにメーワク掛けられないって思ったし。……それに。……あ、ま、それはいい。……とにかく心中しようと思ったんだよ。……でもね」

「でも?」

「ぐっすり寝たら、ちょびっと考えが変わった。死ぬのを考えながら生きるより、生きたいように生きる方がより人生楽しいのかな? って」

「はぁ」


 もう。ゼンゼン張り合いない人。


「ナガマサ、わたしオナカ減った。ブ〇タ女、再来だよ? 一緒に朝ごはん食べよう!」

「……市は〇タ女じゃねぇ」

「じゃあ、なんなの?」


 ぼわっと彼のカオが赤くなった。

 ま、ま、ま、待ってよ。わたしもヤバくなるよ!


「市……」


 寄せて来たカオに抗う理由もないわたし。精一杯つま先立ちになって応えた。

 無言の高揚の後、唇を引いたわたしは、彼にくっついたまま訊いた。


「わたしの故郷で暮らさない?」

「ああ。浅井の殿さま辞めた後にな」


 それはなかなかムズカシイな。じゃあとっておきの言葉、いっぺん言ってみようか。『わたしと浅井家、どっちが大事なの?』

 そんなの、言うわけないよね。

 そーだ、これはこの人がキライになった時に言うとしよう。イジワルしたくなったら言おう。独りになりたくなったら言おう。もうあきらめた時に言おう。


 ――だから、ゼッタイに言わない。


「……好き。ナガマサ、好き」

「なんだよ、急に」

「どうなのさ、ナガマサはっ?」

「バカヤロー。……好きだ。オレもだ」


 これから浅井家は大変だ。

 今日の天気みたいに下り坂。未来は、あの黒雲のようにドヨドヨとよどんでる。


 けどね。

 暗くなっても仕方ないし。明るく元気な《お市》を取り戻すことにするよ。そんで浅井をキラキラ状態に復活させるんだ! ナガマサとふたりでね。


「朝ごはん食べたらわたしさ、朝倉義景さんにご挨拶に出かけてくる」

「オレもついて行こう」

「あなたはさきに足利将軍にアポとって会うの」

「どうやって?!」

「うーんと。そーだなー。まずはスマホ買って送ろう!」



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