表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結御礼】新説信長公記! ― シスコンお兄ちゃんが大好きなんだけど、モテすぎだしハラスメントな信長さまだから、織田家滅亡のお手伝いをするね! ―  作者: 香坂くらの
第五章 姉川合戦(ラブコメなのか?)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/125

67話 姉川⑩ 本陣の告白


 ― 妹・市 ―


 草むらに突っ伏したカオを上げる。わたし、馬から転がり落ちちゃったのだ。

 うへぇ、口の中ジャリジャリするぅ。土食べちゃダメでしょ、ベッ!


「だいじょうぶですか、市どの」

「音にびっくりしただけ。ゼンゼン平気だよ! それより今の爆発、何なの?!」


 遠藤喜右衛門(キエモン)さんに抱えられて起き上がり。


「織田が仕掛けた罠でしょう。味方はかなり動揺した様子」

磯野丹波(たんば)さんはまだ頑張ってるかな?」

「それは……分かりませぬ」


 ナガマサはだいぶ離れたところにいる。馬上の人になり、周囲に指示を出しまくってる。話し掛けれるのは、さすがに(はばか)られるな……。


「前進してみよう」

「いや、それはしかし」

「状況を確認するだけだよ」


 ちょっと間、黙ったキエモンさん。ため息交じりに手を伸ばし。


「それがし、嘘をつき申した。磯野丹波の奮戦もこのあたりが限界。お味方は著しく不利です。徳川に押された朝倉が瓦解するのももはや時間の問題。ここは早々に退き陣の手立てを講じるのが最善と勘考するところ。……じゃが」


 キエモンさんは、自分の馬に相乗りするよう、わたしに促した。


「それでも市どのにご覚悟がおありなら、共に」

「覚悟?」

「市どのには済まぬ話だが、ワシはとうにこの戦場が最期の華舞台と覚悟を決めており申した」


 ハッとしたわたし。ややパニック気味になって、ほっぺたの泥をワタワタと袖で拭った。そうしてからあらためて彼に手を伸ばした。


「織田信長を討ち申す。それでもよろしいか?」


 馬上に引き上げてもらう。

 周りの喧噪がまったくの無になった。キエモンさんの言葉だけが耳朶を打った。


 信長を討つ。つまり、お兄ちゃんを殺すって意味だよね。いまさら当たり前のことをわたしは心の中で反芻した。それでも同行しないっていう返事は思い浮かばなかった。


先陣(このさき)は更に地獄ですぞ?」

「もう覚悟したよ」

「ここにおられるだけでも大したお方だと思うが……。では参りましょう」



    ◇      ◇      ◇


 ここから先の記憶はあんまり正確じゃないの。

 切れ切れの、思い出せる映像を、断片的につなぎ合わせたみたいな語りになっちゃうかも。


 ……わたしは姉川を渡る直前から目を開けてられなくなった。


 そう。

 キエモンさんが言うように、そこはまさに地獄。織田の兵も浅井の兵もグチャグチャに入り混じって、真っ赤な死骸を積み上げていた。

 えぐれた土の上に無数の指や手や、足先、首なしの胴体が散らばり、折れた槍、血染めの刀、踏みにじられた旗が乱雑に、薄汚れて折り重なっていた。


 黒煙を上げ、激しく炎をくすぶり続けているのは、驚いたことに、イカスルメル製の乗用車だった。四輪駆動の……、あの人……お兄ちゃんの持ち物であるのは疑いようがなかった。


 戦闘はまだ続いている。近くでビュンビュン矢が飛んでいる。鉄砲弾だろう、ときどき宙を滑る擦過音も耳の脇を通り過ぎる。いつそれらが当たっても不思議じゃないけれど、恐怖心は生まれない。それよりわたしは別の感情が急激に膨らんでいた。


 下馬したキエモンさんが一個の死骸に近づき、おもむろに何かを拾い上げた。


 ――それは、首。

 知らないお侍さんの生首だった。


「市どの。どうされる?」

「このまま一緒に」


 わたしは懐深くにしまい込んだスマホを取り出した。画面を睨み指を滑らせる。


 ウーチューブに、姉川の戦場(いくさば)がパノラマでライブ中継されていた。織田軍の向背を守る安藤守就(あんどうしゃちょう)のしわざだ。地球人が殺し合いしてるところを母星(イカスルメル)の連中に視聴させてるんだ。きっと彼らは、この究極の不幸事に大興奮してるに違いない。「最高の娯楽だぜ」ってふうに驚喜して。


 とことんサイアクなヤツらだ。


 歯ぎしりしたわたしは、織田の本陣あたりに映っている松の林を確認した。それから周囲を眺め見る。右前方、そう遠くない場所に見える松の林。その陰、……あれは本陣の幔幕なのか。


「本陣の場所、分かったよ。キエモンさん」


 人差し指の先を見据えたキエモンさんの馬は、わたしを同乗させて、一直線に駆けた。


「無礼、まかり通る! 大将首を挙げましてござる! とくとご覧あれい!」


 織田の陣中に割入ったキエモンさんは、本陣手前でわたしを残したまま下馬すると、「浅井家臣、三田村左衛門が首を挙げてござる! ご検分あれ!」大声で幔幕の内に入ろうとした。あわてて付き従おうとしたら、突然幕が上がり、半兵衛ちゃんがカオを出し。


「あ、は、半兵衛、ちゃん……!」


 キエモンさんは「しまった!」という表情をしたけど、そのままズカズカと踏み込み、持っていた首をそばの床机に置いた。そしてわき目もふらず前へ。

 ほんの五メートルほど先に「あの人」がいた。


「と、殿っ、お逃げくださいっ! そのひと、えんどう……」


 半兵衛ちゃんが叫ぶ間にキエモンさんの刀が光った。


「ご免! 織田弾正忠(信長の事)どの、御覚悟!」


 そのとき横合いから刀が飛び出し、キエモンさんの首すじを一閃した。まるでマネキンの頭がもげるように胴から首が離れおちた。少し遅れて赤いしぶきが空中に噴いた。


「危ないところだったわねぇ。信長ちゃん」


 目付きの悪い女装の男の人が、あの人に言った。手にしている刀がギラギラ太陽に反射した。


「何、この小娘? コイツも後を追いかけさせてあげましょうね」


 あの人がわめいた。


「ヤメロ! ソイツは……!」

「ソイツは?」


 カッとしたわたしは、キーキーとなんか分からない声をだして、女装男に掴みかかった。いえ、掴みかかろうとして、蹴られてコケた。

 ダーッて立ち上がったわたし、あの人に訴えた。


「この、鬼! 悪魔! わたしの大事な人をよくも! サイテーだ、あなた、サイテーだよ! 人を使っていっぱい人を殺して、そんなにヒトゴロシが好きなの!?」

「い、市! 落ち着け」

「ひとりで不幸になろうって思わなかったの?! どうしようもないよ!」

「市、ボ、ボクは……!」

「声、もう聞きたくないよ」

「市……」


 手がヌルッとした。

 キエモンさんの返り血を浴びてたんだ。


「お兄ちゃん、あなたも、それとわたしも、もうどうしようもないくらい、サイテイなんだよ。どれだけ悪いことしたのか、もう見当もつかないくらい。……だからわたし、ここに死にに来たんだよ。お兄ちゃんと心中するつもりで、ここに来たんだよ?」

「な、なに言ってんだ」

「わたしさぁ、もうお兄ちゃんの考えてること、ちーっとも分かんないんだよね。だってさ、わたし、もうカオ、忘れちゃってたもん」


 お兄ちゃん、わたしに一歩、また一歩と近づいた。


「聞いてくれ。ボクはずっと悩んでた。ボクとオマエは実は血のつながらない兄妹だ。だから」

「わざわざ告白されなくてもそんなコト前から知ってたよ。おばあちゃんがこっそり教えてくれてたもの。だから、わたしから、おばあちゃんを遠ざけてたんでしょ」

「ボクはずっと、オマエが好きだった。でも、だからこそ、兄妹を貫かなきゃダメだって思ったんだ。だから」

「何、それ! いまさら何言ってるの! 遅いよ! 遅すぎるよ! それに、あまりにヒドすぎるよ……」


 スプーンでひとすくいするみたいに、軽々と持ち上げられたわたしは、ナガマサのふところに収まっていた。


「……探したぞ、市」


 まさか。

 あなたも死ぬ気なの!?


「な、ナガマサ。なんで、ここに」


 女装男がお兄ちゃんに指示を仰いだ。


「信長ちゃん。絶好のチャンスだわよ? どーすんの?」

「……捨て置け。ただの雑魚だ」

「そんなワケにはいかないわよね」


 ふたたび刀を振り上げようとしたので、お兄ちゃんが怒鳴った。


「ダンジョー! チョーシ乗ってんじゃねぇ。捨て置けと言っただろ!」

「あのねぇ……」

「テメエ。まだ何か言うか?」

「……はいはい。いいえ」


 女装男が刀を投げ出すのを見届けたナガマサは、馬を駆り、わたしを乗せて悠々とその場を去った。お兄ちゃんの声が遠くで響いた。


「徳川が横槍を突き、朝倉が崩れたった。このまま一気に踏みつぶせ! やがて浅井も力尽きよう。機会を捉え、肩をつけろ! 全軍、総攻撃!」


 そのころにはわたしは、ナガマサの腕の中でグッタリと気落ちし、眠り込んでしまってた、らしい……。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ