最終決戦開始!あたしも皆に負けてられないっ!
途中でエンジンが切れた車を捨て、五人は徒歩でXタワーへと向かう。幸いなことに向かう道中で狩人に襲われることはなかった。
Xタワーは四階建てのビルディングであり、Xタウンの中でもひときわ目立つ巨大な建造物だった。
「この建物にXさんがいるわけ?」
「大きなビルだね。人がいっぱいいそう……」
「イルノハカリウドドモカモシレネェゼ」
「だろうな」
ここで四人は無言を貫くトリニティに視線を集める。
彼は手袋をじっと見つめていたが、やがてそれを脱ぐ。
するとそこからは鷲のようなかぎ爪が出てきた。更に力を込めると、服の背中部分が破れ、中から純白の鳥の翼が現れる。
「トウトウコノスガタニナリヤガッタカ」
葉巻を咥えながらもニヤッと笑うディックに頷き、ナツの方を向く。
「君にはこの姿を見られたくなかった」
「アンタの飛行能力が本物ってことは証明されたけど、まさか奥さんもその姿なの?」
「いや、妻は普通の人間だ。私は後天的にこの姿を手に入れた」
「そっか。でも、あたしにとってトリーはどんな姿でもトリーだからさ。でもさすがに奥さんもそんなだったらどう声をかけていいかわからなかったけど」
頭をかくナツをトリニティは優しく抱きしめ。
「私を信じ、ここまでついてきてくれてありがとう」
そしてもう一度、四人の仲間の顔を見て。
「私は君たちのような友に巡り合うことができて幸せだ。そして願いが叶うのならば、必ず全員生きて、再会しよう」
トリニティの手にグローブのように太いディックの手が、続いてナツ、エミリー、そして匙の手が重なった。
「オレハタフガイダ。コレグライデハシナネェ」
「再会できるに決まってるじゃん」
「怖いけど、頑張ります」
「行き先は決まったな」
全員でXタワーの扉を見つめ、一斉に駆け込んでいく。
目指すはX氏のいる四階だ。
Xタワーの内部は広々とした造りになっていた。
壁は岩造りで天井にはシャンデリアが吊り下げられており、床には赤い絨毯が敷かれている。奥には二階へと通じる階段があった。
だが、左右の観音開きの扉が開き、大量の狩人たちがなだれ込んできた。その数はおよそ百。いずれも姿は一号と同タイプのものだ。
甲冑にカギ爪姿の狩人たちは袋のネズミとばかりに数でもってトリニティたちへと襲い掛かってくる。彼らを突破しない限り、二階へと先を進むのは難しいだろう。
トリニティが翼の羽毛の一本を引き抜き、長剣にすると、神速の抜刀で狩人の一人を切り伏せた。斬撃を受けた狩人は光の粒となり昇華していく。二人、三人とトリニティは繰り出されるカギ爪を防ぎ、鋭い一撃を加えていく。彼の手により倒されていく狩人たちだが、その数は減る気配を見せない。ディックがハンマーパンチで打ちのめすものの、すぐに狩人たちは起き上がってくる。
「ちょっと、マズくない!?」
「私たちも力になれればいいんだけど……」
ここで、匙は一歩前に踏み出し。
「ここはわしが引き受ける」
「しかし――」
引き留めようとするトリニティを手で制し。
「お前さんたちならわしの忘れ物――魔法の指輪をXから奪い返せると信じているぞ」
匙は数十年前に空腹を助けてもらったお礼として、X氏を富豪にさせ、魔法の指輪を渡した人物だったのだ。
「だが、彼が金にものを言わせおごり高ぶり今回の狼藉を起こすと知って、少しでも被害を食い止めようと指輪を取り戻すべく参戦したが、わしの取り越し苦労に終わりそうだ。若く優しい心を持つお前さんたちなら、必ずや指輪を取り戻し、正しい道に使ってくれると信じておる。だからお前さんたちの活路を開くのは、わしの役目!」
手を一振りすると彼の着物の袖から怪光線が放たれ、二階へ通じる道を塞いでいた狩人たちは跡形もなく消滅した。
「今のうちに早くいくのがいい」
「匙さぁん!」
涙を零し、振り返るエミリーの肩をそっとナツが触れ、先を促す。
彼女は悲しみの別れを振り払いながらも、皆と共に二階へと駆け上がっていった。
「これで悔いなし。あとはお前さんたちの相手をするだけじゃな」
「ルオオオオオオオオオッ」
「グルルルルルルルルルッ」
「フシュ~」
口々に叫び唸る怪物たちを相手に、匙は格闘の構えをとる。
「懐かしい。こうして実戦を行うのは何年振りか。魔法ばかり使ってはいたが、私の真の力は格闘にある。それを諸君らで教えて進ぜよう」
二階へと繋がる出口に立ち塞がり、そこを通さぬと覚悟を決める匙。
対するは人工生命体の狩人、その数八十五体だ。
「かかってこい。哀れな狩人たちよ」
「参加者が残り六人ってのはヤバイね」
黄金カードの通知を受け、ナツが冷や汗を流した。彼女たちがXタワーに侵攻を続けている間にも犠牲者は増えていたのである。
「我々以外では生存者は残り一人ってことか」
「カリウドドモヲタオシテオイタカラニゲヤスカッタンダロウゼ」
「そうとも言い切れないと思います。まだ狩人は一人残っているみたいですし」
「最後の狩人って誰なんだろう」
「わからん。だが、その狩人に会うにせよ会わないにせよ、今のわれらに大切なのは階下で戦ってくれている匙老人の想いに応えることだ」
「そうですね」
ナツ、トリニティ、ディック、エミリーの四人は想いを一つに階段を上がっていく。二階も一階と同様の造りになっていたが、部屋の中央にリングが備え付けられているところだけが異なっていた。そしてリングのコーナーに佇む一人の影。それは――
「あなたは!」
「会いたかったぜぇ。女共よぉ」
二階で彼らを待ち構えていたのは、先ほど倒したはずの二号だった。
モールで入手したはずの包丁を全て突き刺し、ショットガンで狙撃し、車で幾度も衝突させたはずの二号の体にはただの一つの掠り傷さえついていない。
「お前らの攻撃で倒されるような生温い男ではないということさ。この俺はな」
「オモシレェ。ツギハオレガイッテヤル」
拳をポキポキと鳴らしたディックを制止したのはナツだ。
「アンタはトリーと一緒に上の階に行って! ここはあたしが引き受ける」
「オジョウサン……」
「待ってください! 私もここに残ります! 一人より二人とも言いますし。必ず、ナツさんの力になってみせます!」
「アンタ……」
まだ出会って数時間の交流しかないが、彼女が臆病で戦闘向きの性格ではないことはナツにもわかる。だが、そんな彼女が自分からここに残ると申し出たのだ。彼女の意思を尊重し、ナツは異議を唱えなかった。残る二人は互いに顔を合わせると、踵を返して上の階へと走り出す。その様子を見た二号はクックと喉の奥から笑い声を発した。
「いいのかい、四人で挑めば俺に勝利することもできたかもしれないのに。愚かな選択によって、お前らは完全に勝ちを失った! お前たちに待っているのは、俺の手により惨殺され、喰われる未来だけだァ!」
「そんなのやってみなきゃわかんないじゃん。アンタ、女子を舐めすぎだから、あたしたちが教えてあげる」
「女の子の底力を!」
二人で宣言し、キッと二号を睨みつける。彼は舌をペロペロして。
「度胸だけは買ってやろう。リングへ上がってくるがいい、二対一のハンディキャップマッチの開催だ!!」
三階へと向かう階段を昇りながら、ディックは言った。
「キミョウナエンダ。オマエトナレアウツモリハナカッタノニ、コウシテキョウトウスルトハナ」
「人生、わからないものだ。君とは修業時代から何度も張り合い、犬猿の仲だというのに」
「ヨクシショウニトガメラレタモノダ、モットナカヨクシロト……」
ディックとトリニティは同じ師の元で修行をした仲である。
道場を卒業したのちは袂を分かってしまったが、運命に導かれるように再会をしてしまった。ディックは賞金五十億を狙う好敵手として、トリニティと協力するつもりは全くなかった。けれど、強者を求めて彷徨ううちに、彼らと共に行動することになってしまった。
生意気な小娘と犬猿の仲の好敵手。彼らと共に過ごした時間はディックにとって。
無言でしかめっ面のトリニティの顔を見て、ディックは葉巻に火をつけ、豪快に煙を吐き出す。
三階に到着した彼らを待っていたのはレイだった。
「乏しい戦力でよくここまでこれたものだ。
どちらにせよ、返り討ちにして終いだが、私と再戦するのはどちらだ」
「オレニキマッテイルダロウ。コウスイクサイケンポーカサンヨ」
「減らず口だけは達者なゴリラが相手か」
するとディックはソーセージのように太い指を突き出して。
「オマエガ、ロクニンメノサンカシャダロウ」
「……ほう。何故、そう思うのか聞かせてほしいものだ」
目を細めて訊ねるレイにディックは己の推理を披露した。
彼はゲームが始まる前、参加者が全員集まった時にレイの姿があったことを語り、何らかの理由があって自分たちを裏切ったと語る。
するとレイは高笑いをして。
「いかにも私がお前たち以外で生き残った参加者の最後の一人だ」
「ヤハリ」
「こうして参加者同士で殺し合いをせねばならぬとは哀しき定め。
しかし私は成し遂げなければならぬ。己の目的のために」
「ヤレルモンナラヤッテミロ」
「先の戦いで私は自分にできる限界まで手加減をしてやった。
だが、此度の戦いに情けはない。本気で倒すつもりで戦ってやろう」
「ソレハタノシミナコトデ……」
静かなる戦いの炎を燃やす両者。トリニティはディックに告げた。
「君が約束を守ることを信じている」
「マカセテオケ」
二人は短く言葉を交わし、別れる。
トリニティはたった一人で黒幕の待つ四階へと急ぐ。
皆が繋いでくれた希望をけして無駄にしないために。
そして五人全員で幸せな明日を掴むために。
「X氏! 貴様の下らぬゲームは私と、私の仲間が潰す! 首を洗って待っていろッ!」




