表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/10

新たな仲間!匙さんとエミリー!

ゴミ入れの中で息を殺して隠れている一人の男。

やせ型で眼鏡をかけた彼は参加者の一人である。狩人から逃走している最中、偶然に見つけたゴミ入れの中へと飛び込んだのだ。

金属製の巨大な箱には上から蓋がかぶせられている。彼は、獰猛ではあるが知能の低い狩人ならば見つかるはずがないと高をくくっていたが、蓋が開けられそこから覗く顔に彼は顔を青くする。

残忍な光を宿した黄色の瞳、真っ赤な鱗、緑色の背びれの生えたトカゲの頭部。それこそ彼を探していた狩人の顔であった。


「みぃつけたぁ」


長いピンク色の舌をペロペロと出し入れし、鋭い牙を剥き出しにして微笑む狩人。彼はすぐさま男の頭を掴んでゴミ入れから引き抜くと、乱暴な手つきで地面に転がす。


「う……わあああああああっ」


恐怖に駆られた男は四つん這いでその場から逃走するが、狩人はそれよりも素早い動きで回り込み、腰を屈めて口を開いた。


「諦めろ。お前は俺から逃げられない。スペックが違うんだよ」

「た、頼む! い、命だけはお助けを!」


手を合わせて神に懇願するかのような態度を見せた男に対し、狩人は。


「能なしの一号とは違って俺は知性が高いから、喋ることができる。

お前の懇願に免じて、クイズに挑戦させてやろう」

「クイズ?」

「そうだ。俺の出題するクイズに正解したら、お前を見逃してやろう。不正解であれば殺す。少なくともこのまま殺められるよりはマシだと思うが、どうするかね」

「う、受けます! ぜひやらせてください」

「よしよし。良い態度だ」


狩人は殆ど優しいといった力で男の頭を撫でると、更に顔を近づけ。


「では、問題だ。俺の名前は何だ」

「名前……」


男は難解な数式や雑学が来るものだと踏んでいたので、名前が出たことに少なからぬ動揺が生まれた。そもそも、狩人に名前なんてあるのだろうか。いや、先ほどこの怪物は先日倒されたとされる狩人を一号と呼んでいた。でればこの狩人の名前は。

思案していると、狩人は腰の鞘から柳葉刀を抜くとその刃先を舌で舐めている。


「どうした。答えないのなら殺してもいいか」

「待て! お、お前の名前は二号! 二号だ!」

「……本当にそれでいいんだな」


狩人の瞳が妖しく輝く。


「そうだ」

「不正解だッ!」


刀を振り下ろすと見せかけ、口から業火を拭き、男を丸焼きにする。

男は七転八倒していたが、やがて動かなくなり、最後には灰と化してしまった。


残り 14人


狩人は踵を返し、口から煙を噴出する。


「男は腹の足しにはならねぇ。やはり女でなけりゃあな。

女の……それも若いやつの肉はとびきり柔らかくて旨い。最高の喰いものだからなぁ!」


口から涎を垂れ流し、狩人は近くにあった木を刀で一閃。

一刀両断にされた大木を横目で見つつ、狩人は苛立つ。


「残り二日しかねぇってのに、俺の前にはどいつもこいつも男ばかりしか現れやしねぇ! 俺は女が喰いてぇ。出てこい、女の参加者!骨まで食ってやるからよォ!」


刀を振り回し、自暴自棄になりかけるが、やがてその動きを止めた。


「待てよ。参加者は残り一四人。一号が女を殺した報告はねぇから、まだ女の参加者は残っているってことだ。ってことは、残ったやつを片っ端から殺っていけば、いずれは女に会える」


舌でペロペロと己の顔を舐め、思考をまとめた狩人は武器を鞘に納め。


「それなら話が早い。残った男共を全員暇潰しがてらに殺めるとするか。軽い運動をしたあとの食事は最高だとも言うしな」


彼にとって参加者を追いかけることは軽く汗を流す運動と同義である。男は虫けら、女は喰い物。

狩人には人間はその程度の価値しか持たぬものだった。


「では、狩りの再開と行くか」


駆け出した彼は、優れた視力で一キロ先を行く参加者を発見。

速度を上げて追いつくと、背後から刀で一突きする。

気配を全く感じさせない早業に参加者の青年は対応できず、そのまま胸まで貫かれ絶命する。


残り 13人

掌から冷気を放出して青年の遺体を凍らせると、拳で粉砕する。

砕かれた遺体は氷の粒となり、空へと舞い上がっていく。


「これで本日二人目。隠れても無駄だ、参加者共。男は俺の空腹を刺激する運動器具になり、女は餌となればいい。それが俺たちよりはるかに劣るお前ら人間に相応しい末路だ!」



車内で通知を受けたナツは戦慄した。


「トリー、ディッキー! ちょっとヤバいことになってる! カードを見てみて」


着信音と共に通知が来たので二人がカードを見てみると、そこには参加者が残り八名と記されていた。


「この二時間のうちに、七名もの命が犠牲になったとは。狩人め、許せぬ!」

「ハヤクサンカシャヲミツケネェトナ。ダガ、ドコニイルカワカラネェ」

「アレ見て!」


景色を見ていたナツが指を差すと、そこにはベンチに腰掛けた老人と少女の姿があるのが確認できた。


「もしかして、あの人たち参加者なんじゃない」

「そうだろうな。協力を仰いでみよう。もはや、一刻の猶予もない状態だ。ディック、車を停めてくれ。彼らの元に行ってみたい」


ナツとトリニティはディックを車に待たせ、老人と少女の元へと行ってみることにした。


残り 8人


小鳥のさえずりで起床したエミリーは、まだ眠たい目を擦りながらも、辺りを見渡した。けれど右を見ても左を見ても、昨日出会った匙老人の姿は見当たらなかった。彼はどこにいったのかしらと思い、ベンチから腰を上げる。ゲームが始まってからというもの、ずっと孤独で寂しい思いをしていた。いつ狩人に命を奪われるかわからない未来への恐怖に怯えていた。夜の寒さに震え、夜の闇に飲み込まれそうになった先日。そんな彼女の心に平常心を取り戻させたのが匙だった。彼が上に浮かべてくれた謎のエネルギーの塊から注がれる温かい光があったからこそ、自分は今日という日をどうにか生きて迎えることができた。彼には感謝してもしきれない気がする。狩人は怖い。

ここを離れればいつ襲われ逃げることになるかはわからない。いや、もしかすると狩人は自分を狙って、その残忍な目で遠くから行動を観察しているかもしれない。それでも、と彼女は呟き、胸を張って新しい一歩を踏み出した。殺されるかもしれない、今度は逃げ切れないかもしれない。けれども自分は歩み出さなければならない。何故なら。


「匙さんにまだありがとうとお礼を伝えていませんから」


微かに震えが残っている両腕。それを振り払うがの如く大きく息を吸い込み、深呼吸をした。新鮮な空気が入ってきたからであろうか、エミリーは白い靄がかかって見えなかった視界がクリアになったような感覚を覚えた。


「よし!」


前を見据えて拳を握る。最初は躊躇いを覚えた足が、次第に速度を増していき、ついに彼女は駆け出し、モールの外へと飛び出した。

エミリーの目的はひとつしかない。

賞金? 確かに興味はある。五十億もの大金があれがプロの歌手デビューも間違いない。けれども今はそれは横に置く。

無事に生きのびる? 命は惜しい。できることならこのゲームを最後まで生き残り、無事に家族のもとに帰りたい。けれども体力的にも運動神経的にも他の参加者より劣る自分が生き残るのは難しい。

だから、賞金も生き延びることも今は考えない。

自分がすべきことはただ一つ。匙さんを探して、お礼を言う。

それだけだ。


「匙さん、どこにいるんですか! 匙さーん!」


普段は小さな声を大にして、黄色く可愛らしい声で恩人の名を呼ぶ。

メイド服のロングスカートを翻し、彼女は大通りに出た。

何度も何度も声を限りに名を叫ぶ。

会えないかもしれない。狩人の犠牲になっているかもしれない。

でも、たとえ可能性は低くとも彼の名を呼ぶ。自分はここにいると発信し続ければ、もしかすると彼がひょっこり顔を出してくれるかもしれないから。

暫く歩くと先方に人の姿が見えた。近づいてみると、その人物は匙老人ではないことがわかった。

緑色の背びれに全身を覆う赤い鱗。振り向いた時に妖しく光る黄色の瞳、耳まで裂けた大きな口からは何本もの牙が並ぶ。胴体を覆う銀色の甲冑――それはエミリーが今最も会いたくない者――狩人だった。


「やっと見つけたぜえぇ。女ァ~~~~ッ!」


口から涎を吐き出しながら、狩人二号は猛然とエミリーに襲いかかる。彼女は恐怖で足がすくんで動けない。両肩を掴まれ、足をかけられ強引に押し倒されると、その長い舌で顔をペロペロと舐められる。

怪物の唾液が顔にへばりつく気色悪さに表情に不快感を出すと、ビンタが飛んできた。一発、もう一発。左右の頬を張られ、痛さに思わず頬を摩ると、狩人は彼女の細い首を絞め始めた。


「女ァ、俺はずっと待っていたぜ。女を甚振った後に思う存分喰う、この楽しいひと時をなァ!」


エミリーは苦しさのあまり相手の腕を引き離そうと手をかけるものの、力の差が圧倒的過ぎるので狩人の手は一ミリも動かない。

そのままネックハンギングツリーの体勢で、狩人は立ち上がり、力でもってエミリーの体を宙に浮かび上がらせる。彼女の顔は顔面蒼白となり、徐々に呼吸が荒くなる。


「痛いか? 苦しいか。いいねぇ、その顔。流れ出る汗。人間の汗というのは適度に塩気があって旨いんだよなァ」


額から零れ落ちる汗を舐めまくる狩人に彼女の心は折れかけた。

自分は匙と再会することは叶わず、この化け物に甚振り尽くされ、最後は餌となってしまうのか。悔しい。けれど、自分には抗う術がない。


「何だァ、テメェ泣いているのかよォ」


首を傾げ訊ねる狩人。エミリーは顔を震わせ唇を噛みしめ、涙を流していた。恐怖と悔しさの入り混じった涙だ。それを見た二号は嘲笑する。


「俺みたいな者に甚振られ、心身共に打ちのめされて最後には泣く。

いいねぇ、その涙。最高だよ! なぁ、テメェの絶望に染まった顔、もっと近くで見せてみな」


狩人は言葉を話さないと思っていたエミリーにとって二号が人語を介することが衝撃だった。しかし、これほどまでに煽られ罵倒されるぐらいなら唸り声を発するだけの狩人に命を奪われたほうがましとさえ思えた。

首を締めあげつつ、空いた右腕でエミリーの腹を殴る。

悲鳴さえ上げられないほどの激痛を腹部に受けた彼女は衝撃のあまり、口から嘔吐する。しかし昨日から何も食べていなかったので、吐き出されるのは唾ばかり。


「つまらねぇなぁ。何か喰っているのを盛大にどばーっと吐き出してもらわねぇと盛り上がりに欠けるだろうがっ!」


首から手を放し、前のめりになった彼女の腹に蹴りを打ちこむ。

そのまま倒れた彼女の背を、敢えて弱い力で踏みつける。


「簡単に絶命されちゃいままでの努力が水の泡だ。テメェには俺が満足するまで、楽しませてもらうとするぜ!」


エミリーの外ハネのショートヘアに顔を近づけ、それを一舐め。


「いい! いいよォ、この滑らかな髪質、俺好みだぜぇ! さあ、次はどこを舐めてやろうか――」


じっくりと吟味しつつ、四肢を撫でるように見つめる狩人二号。

今でさえ十分過ぎるほどの屈辱を与えられているというのに、彼はこれ以上私を甚振るつもりなのか。まだ苦しみが続くぐらいなら、いっそのことすぐに命を絶って欲しい――

彼女の瞳から光が消え、虚ろになったそのとき。


「お前さん悪趣味だな」


背後からの聞き覚えのある声に、エミリーの指がピクリと反応した。

しわがれたその声は紛れもなく。


「ジィさん。俺の楽しみにケチを付けようってのか!?」


振り返った二号が凄むが相手は動じない。楽しみを邪魔されたと苛立つ二号は排除すべく、鋭い爪の腕を振るった。

だが相手はその右腕を巧みにキャッチし、華麗な一本背負いで狩人を宙に舞い上がらせたかと思うと、十分な速度でアスファルトの地面へ叩きつけた。地面に亀裂が走る威力と予想外の反撃に戸惑い、狩人は数瞬動きを停止する。その隙にエミリーに近づくと、皺だらけの手を差し出した。


「遅れてすまんかった。立てるかね」

「はいっ!」


失いつつあった生きる希望。会いたいと願い続けた人物に再び巡り合えた奇跡。それにより、エミリーの心に再び温かな光が灯る。

差し出された手をとり引き起こされると、真っ向から狩人を睨み、強い口調で言い放つ。


「女の子の体を、心を弄ぼうとするなんて、あなたは地球上のすべての雄の中で最低です!!」


その言葉にゆっくり立ち上がった二号は、瞳をギラギラと輝かせ殺意を全開にする。


「このアマァ、人が手加減していたら調子に乗りやがって。ジジィもろとも、この場でブチ殺してくれるッ!」


両腕を大きく引くと、そこから炎と氷の波状攻撃を放つ。

匙老人はエミリーの前に立つと、掌から円型の光の盾を出現させた。

盾は燃え盛る炎と突き刺さる氷を前に亀裂の一つも入らない。


「ジジィ、テメェ、魔法が使えるのか。だが、盾如きで俺の攻撃を防げると思ったら随分と見くびられたものだ。そんな脆弱な盾など、俺の攻撃の前には無力!」


更に勢いを強め炎と氷を連射するものの、盾の背後にいる匙とエミリーは無傷だ。盾は前面にしかないので優れた運動神経で跳躍し、彼らの背後に回って攻撃を仕掛ける手もあるのだが、快楽を中断された怒りが彼の冷静さを失わせていた。


「こんなもんッ! こんなものおおおッ!」


目を血走らせ、舌を垂らし、凄まじい形相で攻撃を連発してくる狩人。

けれど匙は涼しい顔で告げた。


「やめたほうがいいぞ」

「うるせぇ。俺の攻撃が効かねぇなんて、あるはずがねぇんだ!」


頭に血が上った二号は小細工なしで盾に向かうと、その拳で盾を穿つ。刹那、盾が眩い光を放ち、凄まじい衝撃波で二号を吹き飛ばす。

地面を抉り、両腕のガードも崩し、衝撃の波は勢いを増すばかり。


「おのれジジィ、何をしやがった!」

「全部お前さんの自業自得だ」

「ぐ……おおおおおおおおおおおおおッ!?」


衝撃波に圧倒され宙に舞い上がった二号は、そのまま大きく弧を描いて遠くへ落下した。


「わしの盾は攻撃を吸収し、相手に跳ね返す性質を持つ。盾を攻撃したのは失敗だったな」


匙は盾を解除し、エミリーに向き直る。


「大丈夫かね」


エミリーは頷き、ぺこりとお辞儀をして。


「二回も助けてくださって、ありがとうございます!」


ついに本人の前でお礼の言葉を口にすることができた。

諦めないで本当に良かった。彼女は自分の胸に手をあてると、じんわりと暖かくなっていくのを感じた。


「それでは、まずは昨日の場所に戻るとしよう。それから返事は聞かせておくれ」


匙と一緒にショッピングモールのベンチへ戻ることができたエミリーは、さっそく昨日の件の答えを口にした。


「私でよければお願いします!」

「ありがとう。その返事を待っていたよ」


探し回っている間、エミリーは答えを決めていた。

今度彼と再会できたら、そのときはパートナーになろうと。

そして共にこのゲームを生き抜こうと。

決意させたのは彼に少しでも恩を返したいという一心からだった。

しかし相棒になったのはいいが、どうしたら恩を返せるのかがわからない。ニコニコとした笑みを浮かべる匙の隣で思案していると、モールの入り口付近に一台の車が停車した。

その黒色のワンボックスカーから一人の男性と少女が降りてきて、自分たちに近づいていてくる。敵か味方か、詳細は不明だが警戒するに越したことはないだろう。相手の出方を注意深く伺っていると、茶色のロングヘアの少女が切り出した。


「あたしは天野ナツ。こっちはトリニティ。アンタたち、参加者でしょ。良かったらあたしたちと一緒に行動しない?」


思わぬ申し出に反応できず、エミリーは眼鏡の奥の瞳をぱちくりとさせることしかできなかった。


「おいしいっ!」

「アンタ、それ何杯目?」

「一二杯目だよ。だけど久しぶりなんだもん。いくらでも食べられちゃうよ」

「どんな胃袋の構造をしているのか気になるんだけど……」

「はむはむっ!」


ナツの提案に乗り、匙とエミリーは同行することにした。

二人でも不安な時は五人なら安心感も得られるはずという匙の言葉からだ。自己紹介をしても尚緊張していたエミリーだったが、どこから取り出したのだろうか、匙がカレーライスを入れた皿を差し出してからというもの、彼女の食欲が爆発。同時に持ち前の明るさを見せるようになってきた。特にナツとは同性ということもあってか親近感が沸いたようで「ナツちゃん」と呼んで彼女と積極的に会話をしている。匙はそんな彼女たちをホクホク顔で眺めていたが、やがてトリニティと話をするようになった。


「なるほど。お前さんは奥さんのためにこのゲームに参加したのか」

「無謀は承知の上ですが、妻を助けるために懸けてみたいのです」

「そうか」

「あなたは、なぜ参加したのです?」

「忘れものを探しに来たんだよ」

「その忘れ物とは?」

「とても大事なものだ。アレが悪人の手に渡ると大変なことになる。

だが、生き残ったお前さんたちを見ると少しは安心したぞ」

「何の話でしょうか」

「いずれわかる時がくる」

「わかりました。では、あなたの探し物の正体はその時に明らかになるということですね」

「そういうことだ。ところで、そろそろ気を引き締めた方がいいかもしれん」


匙から笑顔が消え、上を指さす。


「皆、狩人が襲ってくる。気をつけるといい」

「えっ?」

「ふぇ?」


ナツとエミリーが反応するとディックはガハハと笑い。


「シンパイイラネェ。カリウドナンカニハカイサレルホド、コノクルマハモロクハネェヤ」

「だといいが」


匙が嘆息した途端。上から強い着地音が聞こえた。


「何だ!?」


トリニティが真上を見上げたと同時に、前ガラスに上からぬっと狩人二号の頭が登場した。


「ウオッ!?」


いきなりの化け物顔に驚いたディックがハンドルを大きく回してしまったので、車体が大きく揺れる。

車の上から前ガラスに降りてきた狩人二号は、両足を広げて滑り止めの代わりにすると、その黄色い爪でガンガンとガラスを叩く。

何やらわめいているがガラス越しなので、彼の声は届かない。

何度目かの殴打の際に、遂に強固なはずのガラスにヒビが入り、次の一撃で完全に砕け散った。


「ヒハハハハハハハハハハハ! 女! ここにいる女二名をよこしやがれーっ!」


半狂乱で襲いかかろうとする二号に、トリニティが座席の下からショットガンを取り出し、発砲する。胸や腹に命中して緑色の血を噴き出し怯むものの決定打にはならず。手を広げて中へと侵入しようとした。


「ジジィ、先ほどの借りを返してもらうぜ!」

「狩人だけに、か」

「黙りやがれ!」

「お前さん、そんなに口が悪いと女子から嫌われるぞ」

「知ったことか!」


口論を続ける狩人と匙。敵が他に気を取られている隙にトリニティは、運転手であるディックに命中しないように注意しながら、モールで入手した包丁を投げつける。腹部に数本の包丁が刺さっても、まだ動ける相手に業を煮やしたディックはいきなりアクセルを思い切り、踏む。バンパーに立っていた狩人はバランスを崩し、大きくのけ反る。

そしてその姿はフッと皆の前から姿を消した。

だが、彼は消えたわけではなくサーチライト部分に両足両手を精一杯に伸ばしてしがみついていた。


「俺は諦めねぇぞ。そこにいる女どもの肉をたらふく喰うまではな」

「シツコイゾ」


ディックは乗員の安全を無視して、迷うことなく車を岩壁に激突させる。車と岩に挟まれサンドイッチ状態になった狩人だが、それでも手足は吸盤のように離れない。


「クライヤガレ!」


大きくバックして、二度、三度と車が凹むのも承知で岩へ激突させる。

その様子は恐竜の頭突きの如し。五度目にしてようやく手足が離れたところで、ダメ押しとして狩人を轢き、その場を去っていく。

車は前ガラスが割れ、ドアや屋根などが損傷したものの、まだ走ることは可能な様子だった。

武器である包丁を全て失い、ショットガンも弾切れ。かといってショッピングモールまで行くにしてもガソリンは持ちそうにない。

八方塞がりの状況を打破する策は一つしかない。


「皆、私に命を預けてほしい!」

「ナニヲスルキダ」

「Xタワーに強行突入し、X氏を倒す!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ