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非現実の現実で僕らは戦う  作者: 沖野 深津
第二章 レベリング
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第三十二話

おいおい、迎え撃つつもりかよ!


衝動に身を任せ、自身の体が無意識に動くのを感じながら、オレは内心冷や汗をかく。しかしこの衝動……恐らくリカ・リリエストの体に染みついた戦闘センスは、オレよりも遥かに高い。なので任せた方がいい戦果が挙げられることは分かっているのだが……。いかんせん何をしでかすのか分からないので、気が気じゃない。

じっと見つめる視界の先で、前方の魔物がどんどん近づいてくる。しかし体は一切動きを見せない。と思ったら、唐突に右手に持っていた剣を左手に持ち替えはじめた。


え? い、一体何をしでかすつもりだ?


自身の(体の)行動ながら意図が全くつかめないオレは、焦る。もう魔物は目と鼻の先……避けるのなら、ここまでぎりぎりまで待つ必要はないだろうというほどの距離。今すぐにでも飛び退けないと手遅れになる間合い。

そこまで接近を許したところで、ようやく己が体が動きを見せた。


なんとさらに一歩、斜め右前に足を踏み出したのだ。


嘘だろっ!? やばいぶつかる――


思わず目をつぶりたくなるが、無意識で動く体が言うことを聞かない。最早魔物は手を延ばせば触れられるほどの距離だ。小型自動車くらいはあるであろう魔物の荒い呼吸音がダイレクトに耳に響いてくる。受け止めようにも、剣は利き腕ではない左手に持ち替えており、うまく力を分散させることが出来る気がしない。


っ!?


これは衝突するかっ……と内心襲い掛かってくるであろう痛みへの備えをしていると。

不意に体が無意識に動き始める。


衝動が動かすオレの体は、すっと右手を延ばすと、むんずと魔物の口外を大きく突き出した牙を引っ掴んだ。そのまま強引に顔の向きを反らし、ギリギリ当たらない程度の角度に魔物の進行を調整すると、さらに力を籠め始める。腕だけではない、下半身もどっしりと構えた。



その姿は、まるで白球を投げようかとしている野球選手のよう。



……おいおい、まさか。



オレが内心そんなことが出来るのかと疑っている最中に。


オレの体は、魔物の突進の勢いを利用して魔物を後方へ投げ飛ばした。




「うっそだろ!?」


肩に疲労感を残しながらも不意に体の制御が戻り、オレは投げ飛ばした姿勢のまま驚きの声を上げた。

視線の先で見事に投げ飛ばされた魔物が、後方から迫っていた瀕死状態の同胞を下敷きにして背中から地面に激突する。踏みつぶされた魔物は、その衝撃でHPを全損させ黒い霧へと姿を変えた。投げ飛ばされた魔物も、苦し気な呻きと共にじたばたともがいている。そのHPは半分ほど減少していた。


「一体いくら体重差があると思ってんだよ……」

姿勢を戻しながら、オレは小さく呟く。自分の体が招いた事態ではあるが、余りに衝撃的な展開に、オレは茫然とするしかなかった。


とそこで地面にたたきつけられた魔物が、ひと際大きなうめき声をあげた。気合を入れて体を起こそうとしているのだろう。しかし内臓かどこかを痛めたのか、体を震えさせるばかりで立ち上がってこない。

その声で我に返ったオレは、小さく頭を振ってぼーっとしていた思考を動かす。


「いかんいかん。ぼーっとしてる暇はないんだった」

オレはすぐさま剣を右手に持ち替えて倒れ伏した魔物へと近づくと、楽にしてやるとばかりに剣を振り下ろした。HPを半減させていた魔物はその一撃に耐え切れず、黒い霧へと変化し霧散する。それを確認したオレは、後続が迫っていないか魔物の群れの方を振り返った。


矢継ぎ早に突進を仕掛けに来るのではないかと警戒はしていたのだが。予想に反して魔物たちはこちらに近づくようなことはせず、むしろ後ろの方から逃げかえっている最中だった。先の蹂躙を目の当たりにして敵わないことを悟ってしまったのかもしれない。

魔物たちの逃げ行く先には、新人騎士たちの戦場はなかった。



「……ふぅ」


オレは一応警戒しながらその様子を見守っていたが、やがて完全に戦闘が終わったとみるや小さく息をはいだ。

「取り敢えずこっちは片付いたな。さて、問題の本命の方はどうだろ?」


先ほどの勢いならば、残り数割といったところまでライトニングボアを追い詰めていても不思議ではない。そう思い遠くで戦う彼らの方を振り向いたところで。


「……え」

オレは小さく息を漏らした。


ライトニングボアの姿はない。この短時間で倒しきったとは思えないので、恐らく大穴の中にいるのだろう。後衛組にとっての最大の攻撃チャンスだ。


な、なのに何で倒れてるんだ……。


しかし、頼みの綱の魔法使いたちは大半が穴の周囲で倒れ伏していた。

一体何が起こったのだろうか。

その答えは、オレは急いで彼らの元へ駆けつけようと足を動かし始めた直後に知ることが出来た。


倒れ伏した魔法使いを救出しようと、一人の近接部隊の少年が近づく。なんとか背中に担ぎ込み、いざその場を離れようとした際のことである。突如として大穴から稲光が発生し、魔法使いを担ぐ少年へと襲い掛かった。声は届かなかったが、大きく口を開き苦しそうに腰を折った少年は、魔法使いもろともその場に崩れ落ちる。


成程、原因はあれか。


ライトニングボアの名前の由来になった、雷による攻撃だろう。体力が減ったことで、攻撃パターンが変わったのかもしれない。


飛び道具を持ってるんだったら、もう大穴への突き落とし戦法は使えないだろうな……。




「あ、旅人ちゃん丁度いいところに! こいつら運ぶの手伝ってくれ!」



オレが後衛部隊が負傷している現場に駆け寄ると、目敏く見つけた近接部隊の一人が声を張り上げた。

「分かりました!」

オレはそう答えると、すぐ近くで倒れていた先ほどの近接部隊の少年と魔法使いの少年に近寄る。全身がしびれて動けないのだろうが、幸いなことにしっかりと生きている。ただ、素人のオレでは、この状態で安静にすれば治るのか治療が必要なのか分からない。


「大丈夫ですか? 多少揺れるかもしれませんが、少し我慢してください」

オレは少年を背中に背負いこみ、少女の脇と足に腕を入れて持ち上げた。かなり動きづらいが、これでもなんとかこの場を離れることはできそうだ。見た目に反した筋力に感謝せねばなるまい。



「まずい、登ってくるぞ!」

「盾、構えろ!?」



よたよたと負傷者を担ぎ、回復役が待つエリアへと移動している最中。地響きと共に背後からそう焦った声が響いてきた。大穴から攻撃を仕掛けていたライトニングボアが、大穴から抜け出して直接攻勢に出ようとしているようだ。


「くっそ! 負傷者を全員運んだら加勢するから、その間持ちこたえてくれ!」


同じく声を聴いていた近接部隊の一人が、負傷した魔法使いに肩を貸しながら声を張り上げる。その後彼は、少し後ろを走るオレへと視線を向けてきた。


「すまん旅人ちゃん。そいつら運び終えたら、盾のやつらの加勢に行ってくれ。俺達が行くより、君の方が強いし役立てるはずだ。俺達は、倒れたやつらを先に避難させる」

「あ、はい!」



「負傷者はこちらへ運んでください!」



数人のローブを身に着けた少女たちが、声を上げながらこちらに手を振る光景が目に入る。オレと少年は、お互い頷きあうと少女たちが待つ一角へと急いだ。


回復役の少女たちのいた区画には、すでに数人の負傷者が運び込まれていた。中には結構な出血をしている者もいて、地面には至る所に多くの血痕が残されていた。


「……」

「こりゃ……ひでえな」


その光景を見たオレと少年は、一瞬固まってしまう。


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