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非現実の現実で僕らは戦う  作者: 沖野 深津
第二章 レベリング
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第三十話

シシリーの加勢により苦戦したいた左翼側の戦況が好転し、順調と言える戦いが繰り広げられている。最初こそ緊張があったのか硬い動きだった新人騎士たちも、時間が経つにつれその動きにキレが戻っているようだった。いつまでこの乱戦が続くのか分からないが、現状維持が出来れば騎士たちの勝利で終わるのは明らかである。


そんな中。遂に本命が姿を見せた。




「左方に敵影! ライトニングボアです!!」

魔法で作り上げたのか、土製の足場に上り辺りを俯瞰していた騎士の一人が声を張り上げた。それを受けて、オレを含めライトニングボアを担当する一団が、そっくり同じ方向を向く。


どれくらい離れているのかよくわからない。だがひと際大きなイノシシ型の魔物が、多くの取り巻きを引き連れて猛然と向かってくる様子が見て取れた。取り巻き一匹が人ひとりくらいの大きさだとするなら、大型トラックも格やというサイズではなかろうか。取り巻きですら大きいと感じたのに、明らかにオレの知るイノシシとは違うスケールである。


「……来たか」

青年騎士が鼻を鳴らしながら、ゆったりとした口調でつぶやく。

「場所を移すぞ。この戦場に突っ込ませれば収拾がつかなくなる」

騎士の言葉に従い、オレたちは駆け足であらかじめ設けられていた戦場の隙間を突っ切る。恐らくライトニングボア本体と交戦するこのチームは精鋭部隊なのだろう。その足取りには、おそれや恐怖という様子は感じられない。ただはやる気持ちは感じるが。



「止まれ。……後衛、準備しろ。合図をしたら魔法を放て」

やがて戦場を突っ切って迫りくる本体と相対する位置で立ち止まる。そして指揮する前に全員が陣形を組んだ。まず後衛部隊が先頭に立ち、青年騎士の言葉とともに一斉に魔法を詠唱する。

「対象は本体に連れられている雑魚どもだ。ただ、本体を巻き込めるのなら積極的に攻めろ。お前らの役目は、接敵する前に殲滅することだ」

そう言うと青年騎士も何やら口元で詠唱を開始し始めた。詠唱を進めるにつれ、彼の周りに赤色の靄のようなものが浮かび始める。


「……これでどんだけ取り巻きが殲滅できるかだよな」

「数匹なら盾も余ってるけど、あんまり多いとこっちも人出が足りないからな」

後衛が魔法を詠唱し待機している後ろで、大盾を手にした少年たちが近づきつつある集団を見据えながらそう口にした。ちなみにオレが配属された近接部隊は彼らのすぐ後ろにいる。


「そうなっても問題ねぇよ。むしろ余っててくれた方が助かるってもんだ。いい準備運動になる」

「その心意気はいいけどさ、俺たち盾の前に出るなよ?」

「わーってるよ」

血の気の多い近接部隊の一人が楽しそうに獰猛な笑みを浮かべる。一応盾を持つ一人が諫めはしたが、正直通じているかはわからない。


何処にもいるのな、こういう血の気の多いヤクザみたいなやつ……。


オレは呆れ半分と言った様子でちらりと件の少年騎士を眺める。すると丁度彼もこちらを振り向いたところだった。


「で? 旅人のガキは大丈夫か? 怖くて小便漏らしてたりしねーよな?」


何を言うかと思えば、彼は馬鹿にした様子でオレを見下した言葉を吐く。彼は恐らくオレの戦闘場面を見たことも聞いたこともないのだろう。よく見たら、ここにいる全員が本当にオレが戦えるのか、少なからず疑問に思っていそうな表情を浮かべている。


はぁん? 確かに見た目からじゃ分かんないよな。非力そうな幼女だし。剣持たせても、形だけに見えるかもしれない。


けれど、彼らは知らないからそんな言葉が出るというだけだ。ステータスを比較すれば、オレの方が強靭であることがわかるだろう。……旅人ではない彼らのステータスは見ることができないが。

つまり、知らない彼らには説明をする必要があるというわけだ。馬鹿にしているようだが、オレは見た目通りの強さではないぞと。見た目は幼い少女であろうとも、中身はとっくに成人。彼らよりも数歳は年上だ。ここはひとつ、年上らしい口上で説得するしかあるまい。


盾と近接部隊の視線を浴びながら、オレは腰に手を当てつつ彼らを見上げて口を開く。




「怖い? 何言ってんの。あんたらよりもわたしのほうがよっぽど強いっての」




え、ちょな、なに吐いてんのオレ!?


オレは慌てて口を押える。完全に無意識のうちに口から言葉が出てきたのだ。


確かにちょっとイラっとしてたから、なんか言ってやろうとは思ったけどさ。え、何で勝手に。


まるで戦闘中に感じる、衝動に身を任せたかのような感覚。改めて振り返ると、あれと似たようなものを覚えた気がする。


……もしかしたら、あれがリカの本来の口調なんだろうか。


幼いながらも自信に満ちた、ちょっと荒っぽい口調。本来のオレなら……男の時ならわからないが……口にしない言動だ。それが戦闘時に感じる衝動のように無意識に出たとなると……恐らく、生前のリカ・リリエスト当人はあのように話していたのだろう。


「はぁん? 言うじゃねえか」

しかし生前のリカの口調なんて、そんな考察を悠長にしている場合ではなかった。無意識とはいえぽろっとこぼしてしまった言葉が、今まさにいらない火種を生み炎上させ始めている。


やべ、面倒なことになった……。


先ほどまでは肩越しに話していた少年が、オレの言葉を受けて体ごとこちらを振り向いた。その口元は一応笑みが浮かんでいるが、眉は不機嫌そうにひそめられている。完全にガン飛ばされている状態だ。何時つかみ掛かられてもおかしくない。……今更発言を訂正しても遅そう。


「あ、えっと――」

オレは基本的に小心者だ。下手に荒波は立てたくない主義であり、そのポリシーからすると今の状況は非常に精神的によろしくない。取り敢えず場の空気を正そうと思い、オレは口を開きかけた。

その直後である。




「放て!」




青年騎士の鋭い掛け声が響き渡った。


青年の声を受けて、彼の横に並ぶ後衛部隊が一斉に眼前に魔方陣を形成させた。ずらっと一列に展開した魔方陣から、総勢数十個に及ぶ火の塊が生成される。


『吹き飛ばせ!』


十人もの魔法使いが、一斉に叫ぶ。その言葉に呼応して、宙に浮かんだ火の塊が弾丸のように迫りくる魔物へと突進し始めた。


「おい、始まったぞ! そのくらいにしとけ!」

魔物や地面に着弾した火の塊が爆発を伴いながらはじけ飛び、数瞬遅れて爆音が辺りを支配する。その音に負けじと一人の騎士が、オレをにらみつける騎士へと怒鳴った。いさめられた騎士は大きく舌打ちをする。その後何やら口を動かしたが、爆音にかき消され何を言ったのかはわからなかった。


い、一応話は終わったか……。


密かに安堵の息を漏らしたオレは、改めて迫りくる魔物の方へ注意を向ける。

近づく前に極力敵の数を減らす算段なのだろう、魔法は絶えず詠唱されどんどん魔物へと着弾していく。しかし、敵の動きは止まらない。周りで仲間が吹き飛ばされていようとも、ライトニングボアを筆頭に猛然と迫ってきていた。


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