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非現実の現実で僕らは戦う  作者: 沖野 深津
第二章 レベリング
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第九話

「皆の者、整列! これより野外演習を執り行う」


重厚な鎧を身にまとい一般人とは一線を画した空気をまとう中年の男性。彼は風魔法による拡声を使わず、町の外の草原に集まった百人前後の新人たちへと声を降らせていた。

「なおこの演習の総監督は、騎士団長である私……バイスが務める。加えて近衛騎士筆頭のエリス殿、他隊長位五人が君たちの支援に協力してくれることになった。皆の者、彼らに敬礼を!」


『ありがとうございます!!』


百人規模の大合唱が、集団の前に立つ数人の騎士にとびかかる。新人といえども教育が行き届いているのか、誰一人としてタイミングをずらすことなく胸元に手を当てて声を張り上げていた。その大音量に思わずオレは眉をひそめる。耳に手を当てたかったが、ぴくりと腕を動かすだけで行動には移らなかった。オレの横にいるシシリーとオーレンも同様に声量に驚かされたよう。シシリーは思わず後ずさり、オーレンに至っては耳をふさいでいた。


「さらに今回は、ミシェリア第二王女もお前たちと一緒に訓練していただくことになっている。姫のご友人であるという旅人も同じくこの演習に参加する」

そこで少しだけ場がざわついた。無理もない。まさか新人騎士程度の演習に、姫様が参加するとは露も思わなかったはずだ。この場にいらっしゃるのは慰問のためだと、誰もが思っていただろう。


「姫に無様な姿は見せられないぞ。お前たち、騎士団の誇りをもってこの演習に臨むように!」

『はい!!』

再び大音量が響き渡る。気合が違うのか、先ほどのものよりもほんの少し力強い声量だと感じた。

「私の言葉は以上だ! この後は各々告知した団で集合し、担当の隊長の指示を仰ぐように」

騎士団長バイスの演説が終了すると、新人騎士たちはてきぱきと動き始めた。それを見た隊長数人が、演説用に設けられたひな壇から降りてくるバイスに一礼すると、担当する集団の方へと駆けて行った。



「……さて、ミシェリア姫の今後の動きですが」

しっかりと複数のコロニーを作り隊長の指示を仰いでいる新人騎士たちを一瞥した後、バイスがミシェリアの前に来た。

「姫の護衛を、私とエリスで務めさせていただきます。姫は魔法の訓練をしたいというお話でしたが、最初は新人たちの魔法部隊の動きを見学していただこうと考えています。どの機会にどのような魔法を打ち込むのか……実際の現場を見ていただいて学んでいただきたいです」

「なるほど! わかりました!」

快く返事をする彼女に対して、バイスは慇懃な礼を返した。その様子をミシェリアの横で見ていたオレは少し目を見張った。


さすがに幹部ってことろなのかな。文官じゃないのに、かなり対応が洗練されてるわ。


ミシェリアへの言伝が終わると、今度はオレたち旅人三人へと目を向けるバイス。

「君たち三人は姫のご友人と聞いているが、旅人ということで戦闘の心得があると思う。なので、人数の少ない団へ追加で入ってもらおうと考えている。……すまないが、赤髪の君が剣士なのはわかるが、君たちの得物がなにか教えてもらえないだろうか?」

バイスは得体のしれない旅人であるオレたちに対しても、ちゃんとした対応をしてくれるようだ。恐らく、ミシェリアが全幅の信頼を寄せている様子を見せているからだと思うが、旅人だからってにらみつけてきたエリスとはえらい差だ。

まあ彼女の場合、ミシェリアの身辺警備という大役があるからでもあるが。

ただその彼も初めて会った人間を信用しきるのは問題と感じているのか、旅人とミシェリアとは離すつもりのようだ。


「あ、は、はいっ。えっと……私は銃を使います。近接も出来なくはないですが、どちらかというと遊撃に近い立ち位置です」

「えと、僕は精霊術を使います。バリバリの後衛ですかね」

「……なるほど。さすがは旅人、私たちとは異なる次元の戦い方をするようだな」

シシリーとオーレンが、見知らぬ年上におっかなびっくりといった様子で答える。一方のバイスは、彼らの返答に興味深げな雰囲気をみせた。

騎士団は基本的に剣や槍などといった近接武器と、魔法や弓といった遠距離攻撃を生業とするのが大多数だそう。銃使いも精霊使いもいないのだろう。


「わかった。君たちはまだ転職して日が浅いという話を聞いている。今回の演習で存分に戦い方を研究してくれ。恐らくそれが、新人たちにもいい刺激になるだろうからな」

ふっと口元に笑みを浮かべるバイス。その後ちらりと新人たちの集団を一瞥すると、オレたちにどのグループと行動するのか指をさして指示する。オレたちが合流先を把握して頷くと、彼は頷き返しエリスの方へと足を運んで行った。




「なかなか、緊張してきました……」

旅人三人が残されたところで、ふとシシリーが小さく深呼吸しながらつぶやく。それにオレは「たぶん大丈夫だろ」と言いつつ彼女を見上げた。褐色幼女の状態だと、仲間内で一番背が低いシシリーにでさえ身長で勝てない。


「こと戦闘面では、サブ職の恩恵がでかいシシリーに敵うやつはいないと思うぞ。普通に高レベルのオーレンはいうに及ばずだし。……オレはもう少し怪しいけどな」

オレは肩をすぼめてそう愚痴る。それに対し、オーレンが「えぇー」と声を上げた。

「そのレベルであれだけ強ければ十分な気もするけどなー。ちょっとレベル上げただけで、このあたりの弱い敵なら相手にならないくらいになったじゃん」

「……あれはわざわざ一対一の状況に持ってった場合だし。そもそもミヤビのバフがついてたからなぁ。そうはいってもステータス面ではいいかもしれないけど、こと戦い方に関してはまだまださっぱりわからんし」

オレの言い分に「そっかぁ、確かに」と納得気に頷いたオーレン。その後彼は自信ありげにトンと自らの胸をたたいた。


「まー何かあったら僕がフォローするよ。なんて言ったって、今日の僕は『保護者』だからね!」


今までシシリーと合わせて年下という認定を受けていたオーレンが、今この場では一番頼りになる存在だ。加えてオレが幼い紅魔の状態でもあるし、周りの騎士団も彼と同年代かそれより少し上がほとんどだ。頼られる存在というのは、彼にとって普段あまり遭遇しない場面だろう。気合十分といった様子だ。


「……やれやれ。頼りにしてますよ、おにーさま」

オレは楽し気に歩くオーレンに苦笑を漏らした。


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