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非現実の現実で僕らは戦う  作者: 沖野 深津
第二章 レベリング
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第七話

「……すみません。話し込んでしまいました」



やがて、ナナリーがそう口にしながらこちらに正対してきた。

女性の考えていることはわからないという議論から、紅魔の戦い方についての話に発展していた矢先のことだった。オレと青年は話を区切って、ちらりとナナリーとミシェリアの方を見た。ナナリーの表情からは何も読み取れないが、ミシェリアの表情からは何かしら決意のようなものが見える……気もする。


「で? 光の英雄様はどんなご高尚なお話をしていらっしゃったんですかと」

「……貴方に言われると癪に障りますね。まあいいですけど」

青年が空中でふんぞり返りながら問うと、ナナリーは若干眉をひそめた。ただそれ以上のアクションは起こす気がないらしい。もしかしたらお小言の一つでも飛んでくるのかと思ったが。

ナナリーはちらりとミシェリアを見下ろした後、オレへと話題を振ってきた。


「そういえばリィンベルさん。新たなジョブを得られたようですが、レベル上げはもうなされましたか?」

この世界の住人が発するような片言ではない、流ちょうなカタカナ語がナナリーから発せられる。やはり彼女も横の青年と同じく、オレたちと同じ世界を経験しているようだ。

オレはナナリーの問いに小さく首を振った。

「いえ。あの後装備の新調とかをしていたら、さっぱりそういう機会がなくて。あまりの大きな出来事の後で気力が持たず休んでいた……というのもあるんですけどね」


オレが肩をすぼめつつそういうと、ナナリーの代わりにミシェリアが食いついてきた。先ほどまでは気落ちしていた表情だったのだが、もうそこにはいつもの人懐っこい笑顔が張り付いている。

「ナナリーから聞いたんだけど。リンさん新しいじょぶが手にはいったんだったね! おめでとう! どんなじょぶなの?」

「あー……」

祝福とともに付随してきたミシェリアの疑問に対し、オレは言いよどむ。


……どんなジョブって言われてもなぁ。『なんと性転換しちゃうとんでもジョブなんだぜ!』って、ばらしてもいいものなんだろうか?


ミシェリアの視点からすれば、好きな異性が同い年かそれ以下の同性に早変わりするという、とんでもない珍事だ。仮にオレの場合を考えてみたらどうだろうか。


例えば好きな女の子がいたとして……そいつが急に同世代の野郎になったら? ……嫌すぎるな。


女性特有の滑らかな曲線が美しい骨格から、一転ムキムキなプロレスラーみたいな野郎に変化してしまった状況を考えたオレ。

曰く『私、強くなったのよ!(胸筋を動かしながら)』。

なんてアホな状況を考えやがったんだと、自身を殴り倒したくなる。喉元に気持ち悪さが発生してしまった。


「それが凄いんだぜミシェリア。こいつのジョブ、なんと変身しやがるんだ!」

「変身!? すごい」

「なっ、おま」

オレがどう対処しようか迷っているところで、青年がさも興味をあおるようなセリフを吐いて、外堀を埋めてきた。その顔には、面白そうだから煽りましたという色しか見えない。それを聞いてしまったミシェリアは、かえって目をキラキラさせ始めてしまった。絶対に見ないと納得しないぞ、という気概がうかがえる。


……あーもう。どうなっても知らんぞ!



「…………わかった。今から見せるよ」

観念して、オレはオレにしか見えないウィンドウを開く。「一応先に言っておくけど、オレだって予想してなかったものだから」と自身も被害者の側だということを強調しながら、スタイルチェンジのボタンを押した。例のごとく現れた目を閉じろという警告文を、一度恨めしそうに眺める。その後オレは意を決してばちっと瞼を閉じた。

外部の人間からは、オレが目を閉じた直後、オレ自体が大きく発光するとのことだった。その発光は比較的すぐ収まり、例の褐色の幼女が現れるという。


オレが目を閉じた直後、「おお!?」とミシェリアが驚く声がした。しかしすぐに反応がなくなる。感覚的にもう変身は終わっていることが自身でもわかったが、目を開ける勇気がわかない。しかし、さすがにずっとそのままでいるわけにもいかないだろう。


……ええい、ままよ!


オレは断腸の思いでゆっくりと目を開けた。深いエメラルド色の虹彩に囲まれた瞳が、あたりの様子をオレの意識へと伝え始める。


まず初めに覚えた違和感は、やはり大人と子供ほどもある身長差からくる視点の変化だった。すべてのものが大きくなったという感覚がある。実際にはオレが小さくなっただけなのだが。

そしてすぐ視界に入ってきたのは、ほぼ同じくらいの背丈なのだろう。ばっちりと目線のあったミシェリアの顔だった。その表情は、オレが光をまとったとき驚嘆の声を上げたときのままのようだ。大きく口が開いているのに、そこから音を出さずに固まっている。

……目はなんかせわしなく動いてるけどな。


全身を見られているんだろうなと思いながら、オレは腕を組んだ。男の時とは全然違う華奢さを自身でも感じる。加えてむき出しの両腕の肌触りは、きめ細かいのかすべすべしている。細いのに、柔らかい。


「……えっと。これが新しく手に入れたジョブの……まぁ、戦闘モードというか戦闘服というか。そんな感じなんだけど……」


若干顔をうつ向かせることで首元のマフラーに口をうずめながら、オレは窺うようにミシェリアを眺めた。


ちょっとどころじゃなく、軽装過ぎたかな……。


やんごとない身分の彼女のことだ。今のオレのような申し訳程度の胸元隠しとホットパンツ程度では、服を着ているとは言えないかもしれない。


いやでもあれだっ。褐色ロリだから。た、たぶんエロいというよりは健康的と見えるのでは……?


心の中で、自身の姿に対して正当化を行うオレ。ただいくらオレが納得したところで、目の前の彼女がどう感じるかは関係がない。すべては彼女の感性次第だ。

一体どのような反応が返ってくるだろうか。


緊張からかやたらにまばたきを増やしながら、オレはミシェリアの反応を待った。何か不都合なことを言われたら、すぐさま元の姿に戻ってやるからなと思いながら、彼女の沈黙が破られるのを待つ。


やがて先行して何か補足でもつけようかと、オレが画策し始めたところで。




「……可愛い!!」




そうミシェリアが目をきらめかせた。


「なにこれ、すごい!? もしかしてリンさん、女の子になってる?」

「え、あ、あぁ……」

言いながらミシェリアは、がっとオレに近づいてきた。元の姿の時は身長差のおかげで全然なのだが、同程度になった今彼女が非常に近く見える。


「へぇ、じょぶっていうのはこんな風に変わることもできるんだね。すごい、綺麗な髪……」

「ふ、普通はこんなことないらしいんだけどな」

「へぇー」とオレの周囲を回りながら、ミシェリアはオレを観察してくる。その中でも髪の毛が気になるようだ。触れてもいいかと聞かれ頷くと、喜々として手櫛をかけたりしてきた。

「さらさらだー。いいなぁ……」

「ミシェリアの髪だって、こんなもんじゃないのか?」

「全然違うよー。私の髪は、こんなに綺麗じゃないもん」

「そ、そうなのか」

正直オレからしたら、ミシェリアの髪の毛で十分綺麗なのではと思う。さらさらだし、神秘的な色合いも良いと思う。なのでオレ自身の髪を触ったところで、彼女がうらやむ理由がよくわからない。


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