1.袋の中の耳(13)
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サークル室に戻ると二人の刑事は黙り込んでいた。
ぎすぎすした雰囲気。
僕のいない間に、彼らはやり合ったらしい。
二人のやり取りを見ていると、息が合っているとはお世辞にも言えない。
お互いに相手のことを馬鹿にしているのは明白だ。
きっと、相手のいない場所では、それぞれに相棒の悪口を言ったり愚痴をこぼしたりしているのだろう。
「彼女を送っていくんですか」
「はい」
「では、手っ取り早く片付けてしまいましょう」
縹刑事は、学生課の応接室で僕がした説明を一つ一つ確認していった。
どこに座っていたとか、何時の電車に乗ってきたかとか、僕が話さなかった細かい点まで、彼は訊いてきた。
蒸し風呂のような部屋で彼の質問に答え続けるのは、拷問とさえ言えた。
「こんなことが役に立つんですか」
「役に立つ情報もあれば、そうでないものもあります。
ただ、今の段階ではどれがそうなのだとは言えません。
だから、今思いつくことはすべて聞いておきたいんですね」
「先ほどから聞いていると、刑事さんは判断を保留してばかりだ」
縹刑事は口唇の端を歪めて笑った。
「現時点ではね、確かにおっしゃるとおりです」
質問が終わったときには、二時間目の授業時間も残り少なくなっていた。
ようやく解放されると息をついたら、村上刑事が名簿のことを持ち出した。
〈パブロフの猿〉のサークル員の名簿はないか、と言う。
それらしきものはある。
きちんとしたものではないが、連絡ノートの初めに住所録のようなものを作ってある。
だが、それを警察に渡すのはためらわれた。
「個人情報ですからね、メンバーの中には嫌がる者もいます。
それに、僕は会長でもなんでもないので、リストを渡していいかどうか判断できる立場にありませんし」
「なんだ、君も判断保留の口じゃないか」
村上刑事は手を叩いて笑った。
「だれなら判断できるの?」
僕は首を振った。
〈パブロフ〉は強いて言うなら集団合議制をとっており、会長や幹事といった存在がなかった。
学校側に提出する書類には代表者として堀井歳の名前を出していた。
しかし、彼はあくまで書類上の代表者であるにすぎなかった。
「君の責任で提出すればどう?」
「僕の責任ってどういうことですか」
「みんなに怒られるのを覚悟しろってことかな」
村上刑事は手を擦りあわせた。
「君は耳しか見ていない」
「はあ?」
「僕らは耳より、その耳がついていた人間の方が気にかかる。
考えてみなよ。
耳は柿の実じゃないんだから、熟して自然に落ちるなんてことはないんだよ。
だれかが切り落とさない限り、死ぬまで頭の横にくっついているもんだ。
だれかが切ったから、ここには耳がある」
村上刑事は机に置いてあった紙袋の折り返した口を指で弾いた。
「だれが切ったんだろう?
それはわからない。
でも、耳と耳を切った人間との関係には二通りしかないんだ。
自分で切ったか、だれかに切られたか。
自分で切ったならここへ持ってきたのもおそらく自分だろう。
それならいい。
大した問題じゃない。
少なくとも警察にとってはね。
しかし、だれか別の人間に切り取られたとしたらどうだ?」




