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第二九二話 明智家の野望

ここから本編の再開です。

と書きましたがまだナガレは登場しません(汗)

ひとまず明智家の話です。

「貴方、正義の行方はまだわからないのですか? あれからこんなに時間が経っているのに!」


 妻のキンキン声に正義の父である明智 公明(あけち こうめい)は眉をひそめた。


 普段は警察のトップに立つ総監という立場にある彼だが、家ではこんな顔を見せることもある。

 尤もいつも仕事では難しい顔を四六時中みせたりもしているが。


「そうあわてるな。あいつはきっと無事だよ。私達の息子を信頼してあげなさい」

「貴方はまたそんな事を言って。全く、だからあのような下流の学校に通わせるのは嫌だったのです。あんな蛆虫以下の汚物しかいないような高校、正義にはふさわしくなかったのよ」


 そんな妻の言動に辟易とするコウメイである。ただ、彼女の言うことも判る。本来ならあのような下民しかいない低レベルの高校は息子には相応しくない。


「とにかく! 他の下劣な生徒の命などはどうなっても構いませんから、正義だけでも早く見つけ出してください。貴方はそれでも警視総監なのですから!」

「ああ、判った判った。それじゃあ、私は色々やることがあって部屋にこもるから、暫く放っておいてくれ」


 全くと怒りの収まらない様子の妻を宥め、コウメイは部屋へと向かった。


 そして鍵を閉じ、やれやれと息をつく。まるで重役室のような荘厳な部屋の、随分と立派な樫の木で出来た机に座り、革張りの椅子に腰を沈めた。


 そして改めて、ふぅ、と嘆息する。妻が心配する理由はよく判る。


 だが、コウメイは息子の事を探すつもりはなかった。当然警察内でも敢えてその事は大事にせず内々で処理するよう述べている。

 

 だからこそ、バスに乗っていた一クラス分の生徒たちが教師も含めて全員その場から消え失せたという異常事態にも関わらず、その事件は一切報道されていないのだ。


 しかしなぜ、父である彼はそのことに無関心ともいえる対応をしているのか? 息子のことが心配ではないのか?


 違う、そうではない。そして今となってはコウメイは、息子をあの高校に通わせて正解だったと確信している。


 なぜなら――


『随分とお疲れのようですねお父様』

「ああ、正義。またお前のことで、あいつがうるさくてかなわんのだ」


 机の上に突如それが浮かび上がった。それは二十インチ程度のモニターのようでもあった。


 だが、違う。物理的なものでは決してない。SF映画のホログラムのような、そこに存在しているようであり、しかし実際は触れることも出来ない不確かなもの。


 だが、その画面の奥から語りかけてくるのは、紛うことなき人物、明智 正義、彼の実の息子である。


「それにしても、いつみても信じられんよ。今でも夢じゃないかと思えて仕方ない」

『ですが現実ですよお父様。貴方が見ているのは今も異世界で頑張っている貴方の息子です』


 異世界ね、と背もたれにもたれ掛かる。冷静に考えたならあまりに突拍子もないことだが、目の前で繰り広げられている光景を見れば信じる他ない。


 息子である正義が最初に異世界からコンタクトを掛けてきたのは、あの修学旅行の失踪事件があったその日の夜の事だ。


 当初は、流石にこの父も息子の安否(母親と同じく他の生徒に関してはどうでも良いと思っていたが)を気遣っていたが、突然私室に現れたこのモニターと息子の姿に随分と驚いたものだ。


 勿論当初は、何かのトリックか? とも疑ってかかったが、息子と話を続けて三十分もすればそれが真実と納得せざるを得なかった。


 なぜなら息子が話して聞かせた事は、彼でなければ知り得ない情報だったから。

 特にサトルという生贄候補や、その妹や自分の立場も弁えず、勝手に街頭で署名活動をした愚かな家族の情報など、知っているのはごくわずかな人間でしかない。ましてや画面の奥で微笑む息子はあの屑の家族の末路も知っていた。


 だからこそコウメイは彼が、息子が本物だと確信し、事件にするのも控えたのだ。


 そして同時に、そのことがあって異世界というものが本当に存在することも認識した。


「それで、そっちの方はどうなんだ正義」

『はい、計画は順調に進んでますよ。恐らく、そちらからもあの生贄は姿を消しましたよね?』

「ああ、突然のことで担当検事も刑事も驚きを隠せない様子だったが、お前に言われたとおりそれ以上の捜査は不要と厳命しておいた。しかし、その様子だとそっちの件も上手く言っているのだな?」

『はい、上手く育っていますよ。何人か殺害し随分と力もつけているようです。このままいけばいい具合に仕上がってくれると思いますよ』


 そうか、とほくそ笑む。最初息子である正義の考えを聞いた時は、あまりに突拍子がなく、現実離れしていると思ったものだが、徐々に形になっていくにつれて、未来への期待感も膨らんでいった。


 そして同時に、改めて自分の息子ながらとんでもない事を思いつくものだと空恐ろしくもなる。


 そう、画面の奥でにこやかに語りかけてくる息子は最初こう言ったのだ、今いる異世界で魔王を生み出しそれを自分が倒して英雄となる、と――その上で、異世界を正義の手に治め、更に次の蒼月の夜に地球との間に巨大な門を開かせると。

 

 そこからは――聞くまでもない。ようはこの計画、明智家による異世界と地球の征服計画なのである。


『ところで地球の様子はどうですかお父様?』

「ふむ、こちらも首尾は上々、といいたいところなのだが、少々手間取っているらしい島が一つあってな。あの連中を動かしたんだが、何者かに邪魔されたらしい」

『珍しいですね、お父様が失敗されるなんて』

「茶化すんじゃない」


 笑顔でそう語りかける息子に、少々ムスッとした口調でコウメイが返す。


「まあ、とは言えそっちもそのうち片がつくだろう。いろいろ調べてみると神薙家というのが代々根を生やしているような地でもあるようだが、そんなものはどうとでもなる」

『……神薙、ですか』

「何だ知っているのか?」

『いや、以前、戯言として色々な道場を見て(・・)回っていた時に、その名前を耳にしたことがあったもので。尤も調べてみたら随分と胡散臭い連中のようだったので気にもとめませんでしたが』


 その言葉に、ふむ、とコウメイが頷き。

 

「ま、恐らくそれは間違いないだろう。だから、そっちもそう時間もかからず片がつくさ」

『そうですか。流石お父様ですね。今後のために下地を作っておいて頂けると助かります』

 

 任せておけ、とコウメイは頷くが。


「しかし、ずっと思っていたのだが、地球にはお前たちの世界にある魔素というものがない。それだと魔法は使えないのではないか?」


 コウメイが尋ねる。これは冷静に考えれば当然の疑問だ。そして魔法が使えなければ異世界からアケチが戻ってきたとしてもその力は半減することだろう。


『その心配はほぼ解消されてます。前も話しましたが、こっちの世界には魔物がいて、その魔物からは魔核が採取出来るのです。お父様も知っての通り手駒として飼っていた三人がいますが、ふたりは正直イマイチですが、一人はかなり頭も切れる男でその本体(・・)に色々動いてもらい情報を集めている最中でもあります。その情報を下に色々試してますが、どうやら魔核や素材を組み合わせることで、たとえ魔素のない世界でも魔法が行使できそうなのですよ』

「なんと本当か! それは凄い!」


 コウメイがいい年でありながら興奮した口調で話した。そこはやはり彼も男だ。魔法がつかえるといった夢のようなことが実現するとなれば興奮もする。


『はい、しかもこれを上手く研究すれば、地球で魔素を作り出すことも可能かもしれません。尤も、流石にそれを実験するとなると地球での研究は不可欠と思いますが』

「それならば安心しろ。お前の計画が成功した暁には、この地球上で我が明智家に逆らえるものなど、誰ひとりとしていなくなるだろうからな」


 そこまで話し、高笑いを決め込む。その姿に、喜んでもらえて光栄ですよお父様、と息子が述べ、それでは本日はこの辺で、と別れの言葉を述べる。


 そして画面が消え、息子の姿は見えなくなった。しかしその後もコウメイの笑いは止まらない。


「ふふっ、まさか私の代でこの世界を掌握する日がこようとはな。正義、期待しているぞ、お前ならきっと上手くやれる。何せお前には私の、いや、この崇高な明智家の血が流れているのだからな!」

連続更新もいよいよ次で最後本日15時頃です!


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