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レベル0で最強の合気道家、いざ、異世界へ参る!  作者: 空地 大乃
第五章 ナガレとサトル編

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第二九三話 壱を知り満を知る

ここでいよいよナガレ登場です。

この回の最初の方はサトルに関しての概要に近い話となります。

これまでサトル編を読んでいないという方はここでわかるようにと思っていますが……

 帝国に嵌められたフリをしつつ、帝国についても色々調べて回るナガレ一行。


 その途中、ナガレ達は魔獣に襲われていたコモリを助ける。

 その後コモリから話を聞く一行であったが、コモリはなんと、修学旅行の途中にひとクラスまとめて帝国に召喚された生徒の一人であった。


 帝国の事を調べて回っていた一行は、丁度いい機会だということでコモリからこれまでの経緯を聞くことに。


 だが、彼から話された真実は、壮絶な虐めの実態であった。

 

 コモリの所属していたクラスでは、生徒会長でありクラス委員でもあり、絶対的なリーダーシップを誇る明智 正義という少年がいた。


 そして彼の提案により、クラスの男子からサトルという少年が、女子からはアイカという名の少女が選ばれ、毎日目も覆いたくなるような虐め、というのも憚られるほどの酷い目に合わされ続けた。しかも、クラスのほぼ全員がその虐めに加担していたという。


 そして、コモリが言うには、その内のサトルの方が、後からこの異世界にどういうわけかやってきて、復讐のためにクラスメートを次々と殺して回っているという。


 彼は言った、サトルは気が狂っているのだと。どうやらコモリが知っている限り、サトルという少年は突如自分と血の通った妹を乱暴した上で殺害し、警察に捕まり死刑を待つ身だったらしい。


 しかもサトルが警察に捕まってすぐに両親も自ら命を絶ったらしく、そのこともあって、サトルは精神がおかしくなっているのだとコモリは語った。


 そしてだからこそ自分と同じ境遇のはずのアイカもその手に掛けたのだと。このままではコモリとていつサトルに殺されるか判らない。


 だから、と彼はナガレ達に懇願する、サトルを殺してくれと。そして自分が好きだったアイカの仇も討って欲しいと――


 その話を聞いた時、ナガレには全てが判った。ナガレは壱を知り満を知る男だ。サトルという少年のこれまでも、これからも(・・・・・)一瞬にして脳裏を駆け抜ける。


 そして、当然このコモリという少年の言っていることの全てが真実ではないことも一瞬にして見抜いてしまう。


 やはりこの説明は彼にとって都合のいいものだ。彼の話していたことで正しかったものは、クラスで虐めが行われていたという事。


 しかもそれは虐めというにはあまりに酷い想像を絶する行為。アイカは勿論サトルとて彼らから受けた傷は重く、そしてその心さえも汚し、平気で踏み潰された。


 特にサトルに関して言えば、自分だけではなく家族にまで被害が及んだのが大きいだろう。


 サトルたちを虐めていた中で特にその行為が顕著であった問題児三人。

 陸 獅王(りく ししお)、海島 鮫ニ(うみしま さめじ)、空飛 鴉(そらとび からす)、通称二年A組の陸海空。


 この三人の手によってサトルの愛妹は乱暴され、穢され、そして――殺された。


 しかしそれらの行為は、サトルにとって全ての元凶であり尤も深い恨みを抱くこととなった明智 正義の手によって、いや正確に言えばその両親である警視総監の父、検事長の母、このふたりの手によって事実は隠蔽され、また一家揃って共謀し、全ての罪はサトルに押し付けられた。


 証拠の捏造も平気で行い、無実を訴える両親さえも殺害し、そして本来ありえない死刑という判決までいいわたし、サトルさえも闇に葬り去ろうとしたのだ。


 そういった経緯から、サトルの恨みは特に深く根強い。だからこそ、裁判の途中で異世界に召喚されることになって早々に悪魔の書と出会い、自らの寿命の半分や、死後一生苦しみ続ける事を条件とし契約を結び悪魔の力を手に入れた。


 そしてコモリが言っていたように、手にした悪魔の力でクラスメート達へ次々と復讐を果たしていったのである。


 サトルの力は強大になりつつある。一つ恨みを晴らす毎にサトルのレベルは大きく上昇し、今や一つの町さえも殲滅出来るほどだ。


 それはナガレがあの獣人たちを助けた町の有り様を見れば判る。


 そして教師も含め殆どの生徒に復讐を果たしたサトルが最後に目指す地はアケチや陸海空が攻略に向かった古代の四大迷宮が一つ、英雄の城塁(キャッスルヒロイック)――


 だが、ナガレは知っている。サトルの目指した先にあるのは、漆黒の闇でしかないことを。

 そして、その結果多くの犠牲を生み、その事がサトル自身を苦しめることになることを。


 そしてそれらのサトルの行動全てが、諸悪の根源たるアケチの手によって掌握され更に利用されつつあるという事も。


 ナガレは止めなければいけない。サトルの暴走を。そして救わなければいけない、本来犠牲になる必要のない命を――


「話は全て判りました」

「ほ、本当に? じゃ、じゃあ! 僕を助けてくれるんだね! あのサトルを倒して仇をとってくれるんだね!」


 全ての話を聞き届けた後の、ナガレの言葉にコモリはその顔を綻ばせた。これでもう安心だとでも思っているのかもしれない。


「ですが、残念ながら貴方の話を全て鵜呑みにするわけにはいきませんね」

「え!? ど、どうして! 僕は嘘なんていっていない! あのサトルは狂ってる! このままじゃ僕はあいつに殺される! それにあいつは何の罪もない、それどころか自分と同じように虐められ続けていたアイカもその手に掛けたんだ!」

「……なあ、俺一つ疑問に思うんだけどよ」


 右手を大きく振りながら、抗議するように訴えるコモリ。その話を神妙に聞いていたのはピーチやローザ、ビッチェといった女性陣。


 やはり彼の語った壮絶な内容に関しては、彼女たちも思うところがあったのだろう。カイルでさえ、いつもの軽い雰囲気はほぼ見られない。


 だが、そんな中、フレムだけは思っていることをそのままズバリとコモリにぶつけた。


「なんでお前は、惚れていたっていうアイカを助けてあげなかったんだ? サトルの手にかかったという時もそうだ、お前は近くで見ていたんだろ?」

「え、あ、いや、それは――」


 コモリが視線を逸らす。目が泳ぐ。困ったことがあるとこういった態度を取るのは気の弱いコモリの特徴の一つである。


「おい、なんで答えないんだよ?」

「か、関係ないじゃないか」

「あん?」

「だ、だからそんなこと関係ないだろ? 今重要なのは、僕がサトルに狙われているって事。だからサトルは危険なんだ!」

「貴方は、先程からサトルくんのことしか言いませんね」

 

 そこでナガレが問うようにして口を出した。

 え? とコモリが眉をしかめる。


「正直、今の話を聞いていると、アケチや陸海空といった三人のほうがたちが悪そうに思えます。ですが、貴方は既に死んでしまったカラスという少年はともかく、他の三人については最初に少し話しただけで殆ど触れようとしない。その代わりサトルの事ばかり持ち出している。しかも酷く自分にいいように解釈をしてです」

「し、仕方ないだろ! 僕はそこまであの三人やアケチについて詳しいわけじゃないんだ! でもサトルは違う、僕はあいつの事を見ていたから! アイカが殺される瞬間も!」

「それは逆に言えば、見ていただけで何もしなかったということですよね?」

「あ、いや、だから――」


 再びどもりだす。そんなコモリを終始にらみ続けているフレムだが。


「……ナガレ、もしかして何か判っている?」

「――そうですね、本当はあまりこういったことは私の口から申し上げにくいのですが……コモリくん、貴方は好きだったというアイカという少女が何をされていたかについても随分と詳しかったですよね。それこそまるで近くで見ていたかのように」

「だ、だから、そ、それは」

「ね、ねぇ、ナガレ、それってどういう意味?」


 どうにも口が重いコモリをよそに聞いていたピーチがナガレに尋ねる。

 

「……つまり、やはり貴方は当時もその様子も見ていたという事ですよ。貴方は恐らくですがアイカさんがそういった目に合わされている時、陸海空という三人に命じられ、見張りにでも立たされていたのではないですか? だからこそ、現場に居合わせたかのように仔細に状況を知っていた」

「な、なんでそれを! ハッ!?」


 ナガレの指摘に、思わず声を上げるコモリ。しまったと口を両手で塞ぐが、吐き出してしまった言葉はもう戻せない。


「……テメェ、これはどういうことだコラ! 散々サトルの事を言っておいて、テメェだって最低の事をしてるんだろうが!」


 フレムがコモリの襟首を掴まえて怒鳴り上げた。ビクリと彼の肩が震える。

 だが、目を逸らしたまま、コモリは答える。


「だ、だって、仕方がないじゃないか! 確かにアイカちゃんの事は好きだったけど、だからって僕に何が出来る! 僕に彼女を助ける力なんてなかった! そのうえあの凶暴な三人に命じられたら、僕だって従うしかないよ! おまけにあの三人はあのアケチの取り巻きでもあったんだ! あんな権力者に逆らったら僕なんかじゃどうしようもない! 僕はサトルみたいな目にあうなんてまっぴらゴメンだった! だから従うしかないだろ! こんなの僕だけじゃない、誰だってそ、グブォッ!」


 フレムの拳がコモリの顔面を捉えた。勢いに任せて数メートル程吹き飛んでいき、樹木にあたって地面に落ちる。


 そのまま鼻を押さえてコモリが転げ回るが、フレムはまだ気がすまないのか、コモリに近づき、襟首を掴んで、立てコラァ! と怒鳴りつけた。


「ひ、ひぃ! こ、殺さないで! た、助けてーーーー!」

「うるせぇ! 俺はテメェみたいな奴が一番嫌いなんだよ! 歯食いしばれコラッ!」


 ぼたぼたと鼻血を垂れ流しながら、涙を流して悲鳴を上げるコモリ。

 しかし怒りに任せてフレムが拳を振り上げる。


「もうそこまでにしておきなさいフレム」 


 だが、ナガレの声がそれを制した。拳を振り上げた状態で固めたまま、フレムがナガレを振り返る。


「で、でも先生」

「彼を殴ったところで何が変わるわけではありませんよ。それに、彼の言うことにも一理あります。世の中、全員が全員正しいと思うことを実行出来るわけではありませんからね。どの世界も一緒だと思いますが、彼のように判っていても何も出来ず、強い力には抗えないという事は往々にしてあるものです」


 ナガレが諭すように述べると、フンッ、と鼻をならしつつ、フレムがコモリを地べたに放り投げる。


「先生に感謝するんだな」


 そして震えるコモリに吐き捨てるように言った。


「でもナガレっち、これからどうするの?」


 すると、カイルが思い出したようにナガレに問いかけた。コモリから色々話を聞いたが、帝国とのこともある。当初の予定ではアケチについても気になる点が多かったはずだが。


「はい、私達もアケチやサトルの後を追います。何せこのままでは無駄に不幸が重なるだけです。サトルくんにとってもです。それはなんとしても食い止めなければいけません」

「……ナガレ様には、何か私たちにはみえていない物が、はっきりと視えているのですね」

「……でも、ナガレが言うなら間違いない。なら、急ごう」


 そうですね、とナガレが頷くが。


「ちょ、ちょっと待ってくれよ! 僕のことはこのままにしていくつもりなの? 冗談じゃないよ! さ、サトルなんてイカれた男よりも、僕を先ず助けてよ!」


 後ろからコモリが懇願する。それはあまりに最低な物言いであった。


「こいつ、まだこんな事を……」


 半ばあきれたような目で口にするフレム。するとナガレが彼に近づき語った。


「貴方は本当に自分の事ばかりですね」

「な、なんだよ、仕方ないだろう。それに、今のサトルはあいつらと変わらないよ、もうどうしようもないよ。救いなんてないんだよあいつは」

「そうでしょうか? 少なくとも彼によって救われた命だってあります。正直今の貴方よりはよほど救いようがあると思いますけどね」

「な、なんだよそれ! 僕よりあの気狂いを取るのかよ!」

「……先程も申し上げましたが、私は貴方の事を否定はしませんよ。そうやって我が身可愛さに流される生き方しか出来ないのも仕方のない事です。ですが――それならそれで構いませんので、必要な事以外、せめてその口を閉じておいた方がいいでしょう。正直貴方にサトルくんの事をとやかく言う資格などないと私は思いますよ」


 そこまで言うと、コモリもうつむき加減に、うぅ、と唸る。


 そんな彼に、それでは、と告げ去ろうとするナガレであったが。


「ま、待ってよ! せめて僕をどこか安全な場所に送り届けてからにしてくれよ! こんなところに取り残されたら、僕死んじゃうよ!」


「だったら死ねよ」

「ちょ、フレム!」

「あは、手厳しいねフレムっちは」

 

 泣き言を言い出すコモリ。

 すると吐き捨てるようにフレムが返し、ローザが声を上げ、カイルが苦笑する。

 

「……ここから南西に言った先に小さな村があります。暫くそこに身を置くといいでしょう。貴方の力ももうかなり戻っているはずでしょうし、それであればなんとか自力でたどり着けるでしょうからね」


「……ナガレ優しい、私なら、切り刻む」

「いや、流石に切り刻むのはどうかと思うけど……」


 そんなコモリに一つだけナガレが助言した。その姿に感心しつつ毒舌を吐くビッチェと目を細めるピーチであるが――


「だ、だから! そこまで言うならどうせなら僕を送り届けてよ! この森だってかなり広いし! あんな魔獣と戦う力は僕にはないんだ! 君たち強いだろ! こういう時正義の味方はか弱い僕みたいな人間を放っては置かないはずだよ!」

「こ、こいつは、どこまで――」


 コモリの訴えに眉をピクピクさせるフレムであったが、ナガレは改めてコモリを振り返り口を開く。


「何故ですか? 私たちにそこまでする義理はありませんよ」

「な、なんだよそれ! 欲しい情報は上げただろ! それにさっきも言ったけどこういう時は――」

「貴方の知っているヒーローは確かにどんな相手であろうと分け隔てなく手を差し伸べ助ける存在だったのかもしれませんが、残念ながら私は正義の味方などではありません」


 抗議の声を上げ続けるコモリの持論を、ナガレはバッサリと切り捨てた。


「そもそも貴方は、目の前に助けを求める人がどれだけいようと、決して手を差し伸べることなく、目を逸らし続けて生きてきたではありませんか。そのような人が、自分が困っているときにだけは助けて欲しい、手を差し伸べて欲しいなどと願うのは虫が良すぎでしょう。残念ながら私はそこまで甘くはありませんので」


 そう言い捨てると、いよいよコモリも観念したのかがっくりと項垂れる。


「ま、このあたりはあんな魔獣がウヨウヨいるから、精々食われないように頑張るんだな」


 そしてフレムもコモリに向けてそういい捨て、ナガレと共に歩みを再開させる。


 ナガレの目は既に次の目的地に向いていた。


 そうサトルの運命を――変えるために。

と……いうわけでナガレとサトル編わりとここからが本番だったりします!

これからは通常更新に戻りますがナガレが関わってからの結末を見届けて頂けると嬉しく思いますm(_ _)m


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