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第二七一話 コモリとサトル

後書きにて今後の更新について触れさせて頂いております。

「い、一体僕に何を期待してるんだよ。そんな力があったら、わざわざこの国から逃げ出そうなんて思わないよ!」


 そして思わず出たと思われるその発言を、一様に注目する。


「逃げるって、貴方帝国から出たいの?」


 そしてピーチが問うと、しまったといった表情でコモリが口を手で塞いだ。


「そ、その、その――」


 そして言い淀む。言ってはいけないことを口にしてしまったかもしれないといった不安が強いのだろう。


 もしかしたら帝都あたりに連れ戻されるのではないかと、そういった不安も窺える。


「――もし、帝国に知らせに行くと思っているのならそこは心配しなくても大丈夫ですよ。私たちはそもそも帝国の人間ではありませんので」

「え!?」


 目を丸め、驚嘆するコモリである。だが、ナガレは一旦コモリを他所に不機嫌そうなフレムに語りかけた。


「フレム、例え召喚者であっても全員が全員ステータスやスキルが強いわけではありませんよ。待機組とされた方々は皆さんステータスは低かったようですし」

「う、それはそうです、ね……」

「それに、私の見立てでも確かに彼の能力は戦闘向けではないようです。特殊なスキルであることは確かだと思いますけどね」

「え、え~と、もしかして君は索敵系のスキルとか、鑑定系のスキルとか持っているの? そ、それに待機組って、もしかしてうちのクラスの待機組?」


 突如矢継ぎ早に質問を重ねてくるコモリである。ナガレが自分のスキルを見抜いている気がしたのだろう。それに、ここから乗合馬車の様子がわかるのも普通に考えればありえない。


 つまり、索敵系のスキルに頼っているのではないか? と、そう考えるのも不思議ではないが。


「スキルなどではないですね。むしろ私はそういったものを一切持っていませんので」

「……へ? いやだって――」

「……それより、私からも質問。今、待機組に反応した。つまり、やはりお前もアケチと一緒に召喚されてきたのか?」


 怪訝な顔を見せるコモリだが、その疑問を途中で塞ぐようにしてビッチェが質問する。

 

「あ、あの、さっきから気になったのだけど、帝国の人間でもないのに随分と詳しいですよね? 一体あなた達は何者なのですか? それに君は一体だれに召喚されてここに? 帝国以外に地球から異世界に召喚するような相手がいるものなの?」

「そうですね。帝国のように大規模な召喚はなくても、もう少し小規模のであれば他国でも行われていることもあるようです。それと私は召喚されたわけではありません。自分からやってきました」

「自分から? はい?」


 ポカーンとした表情で口にする。かなり理解の範疇をこえているといった様相だが、構わずナガレは話を続けた。


「それと私達が事情にある程度詳しいのは、この国で行われた大規模な召喚魔法に関しても調べているからです。それは本来であれば禁忌とされているものですから、ここにいるビッチェはそういった不穏な動きを調査する特別な冒険者――地球で言えば公安みたいなものだと思っていただければ良いと思います」

「へ、こ、公安!?」


 ナガレは出来るだけわかりやすいようにと考え説明する。尤も実際はかなりの違いがあるのだが、映画や漫画での印象が強い彼のようなタイプはそういっておいたほうが伝わりやすく、また深刻に受け止めてくれるだろう。


「そして私たちは今ビッチェに協力しているバール王国の冒険者です」

「ば、バール王国、ほ、本当に?」


 ビッチェの説明を聞いて少々緊張している感のあるコモリであったが、バール王国の名前を聞くと安堵した表情を見せ始めた。


「そ、それなら僕をバール王国まで連れて行ってよ!」


 そして藁にもすがるといった様相で、そう頼み込んでくる。


「なんだお前? 王国に行きたかったのか?」


 その事に真っ先の反応したのはフレムだ。怪訝そうに眉を顰めている。


「う、うん、帝国にはちょっといたくなくて」


 はっきりしない物言いでもあったが、フレムが更に何か言いたげな顔を見せたところでビッチェが口を挟んだ。


「……とりあえず王国の件は話しを聞いてから」

「は、話ですか?」


 どこか戸惑った様子の感じられるコモリである。ただ、ビッチェの姿はやはり刺激が強すぎるのか、あまり目を合わせようとしない。


 すると、ナガレがビッチェにあることを耳打ちした。


「……コホン、それでは、これより事情聴取を始める、しっかり答えないと、た、逮捕しちゃうぞ?」

「はい! なんでも聞いてください!」

  

 ビッチェは自分の言っている意味がいまいち理解できていないようだが、唐突にコモリがシャキンっと背筋を伸ばしやる気を見せた。どうやら何か琴線に触れるものがあったようである。


「な、なんで急に様子が変わったのかしら?」

「そうですね、彼の持っているイメージにぴたりと嵌ったというところですかね。例えばピーチの場合であれば、あのダンショクの真似をしてみるとやはり食いつくと思いますよ」

「え? あの真似を? ……異世界の男って良くわからないところあるわね――」


 呆れたように目を細めるピーチである。ちなみにビッチェの場合は女刑事といったイメージがぴったりと嵌ったようだ。


「……それで、アケチ達と一緒にこの世界に召喚されたのは間違いない?」

「あ、はい。確かにその通りです」


 そしてビッチェは召喚されてからの大体の経緯を彼より聞き出した。それによるとかなり早い段階で待機組と攻略組という形に分かれ、コモリは一応は攻略組として帝国での訓練を積んだそうだ。


 彼の能力が斥候として役立つと判断されたからだろう。ただ、ステータスの伸びが悪く、段々と扱いは悪くなっていたようだ。


 逆にアケチに関しては、勇者の称号を持っていた影響もあるのか、瞬く間にメキメキと頭角を現していき、クラスの中だけではなく、帝国内でも発言権を強めていったようだ。


「こんなことなら僕も待機組に混じればよかったな、とも思うんですが、あ、あの、ビッチェさんは待機組ともお会いしているのですか?」


 完全に年上のお姉さまを相手にしているような態度を見せるコモリであり、終始顔が紅い。話している途中で鼻血をこぼしたりもしていたぐらいで、その妖艶さにかなり参っているようでもある。


「……会ったといえば会った。ただし、死体として」


 特に遠慮する様子も見せずはっきりと伝える。それを聞き目を丸くさせるコモリだが。


「し、死体、ということは死んだということですか? でも、皇帝の話だと危険の少ない平和な町だと聞いてたんだけど」

「……それは判らないけど、町ごと壊滅してる。少なくとも人族は全て死んだ」

「ふぇ! そ、そうだったんだ。それならやっぱり待機組と一緒じゃなくてよかったかな」

「おい、ちょっと待てよ。お前、そいつらとは曲がりなりにも仲間だったんだろ? そのわりには全然悲しそうじゃないな」


 フレムの横やりが入る。仲間意識の高い彼だ。ゆえにコモリの口ぶりが気に入らなかったのだろう。

 

 確かに今のコモリからは、待機組が殺されたことに対する驚きは感じられたが、仲間が死んだことに対する悲哀は見られなかった。


「……そう言われても、別にそこまで待機組の皆と仲が良かったわけじゃないし、現場も見てないから、ただ死んだと言われても実感わかないよ」


 コモリがその眉を寄せ、返す。どうやら彼の話では召喚されたのは全員修学旅行途中のクラスメートだったようだが、だからといって特別全員仲が良いというわけでもないらしい。


「……今そのことを責めても仕方がない。彼らの関係はこちらからは判らない。それよりもまだ聞きたいことはある。アケチの事とかまだ知ってる情報があったら教えて欲しい」

「あ、いえ、そう言われても、彼は僕なんかはほとんど相手にはしてなかったし、それに訓練が終わってからは何人かでパーティーを組まされて別行動になったりもしたから――」

「つまり貴方も誰かとパーティーを組んで行動していたのですか?」

「え、あ、いや、それは――」


 どこか言いづらそうに言葉に詰まるコモリ。それを見て、ナガレは洞窟で見つけたソレを取り出し彼に見せた。


「これは先程山中の洞窟で見つけたものです。おそらくは貴方の通っている高等学校の生徒手帳だと思われますが、持ち主に見覚えはありますか?」


 ナガレが提示した生徒手帳を受け取り、コモリが中身を確認する。そして明らかにぎょっとしてみせた。


「これ、犬好さん……」

「……知っているのか?」

「は、はい。実はさっき僕が言ったパーティーを組まされる可能性のあったのが彼女たち(・・・・)です」

「たちということは他にもいたということですね?」

「う、うん。犬好 杉瑠、花愛 瑠乃、姫岸 菜乃花、僕はこの三人と本当は組む予定だったんだ」

「それなのに、なんでお前だけ単独行動なんだよ? まさか、そこでも逃げ出したのか?」

「まさか!? 違うよ、何か僕、彼女たちにあまり良く思われてなかったみたいで、いつの間にか置いてけぼりを喰らってしまったんだ」

「はあ? 置いてけぼり? 男のくせにか? チッ、情けねぇ」


 フレムのコモリに対する態度は中々に辛辣だ。彼もグッと歯を食いしばるが。


「……否定はしないよ。あの三人は元々クラスの中では人気もあって、特に姫岸は女子の中では中心人物でもあったからね。三人共見た目もスタイルもいいし、それでいてこっちにきてからのステータスやスキルなんかも戦闘向きのかなり強力なのが揃ってたんだ。僕なんかが一緒にいたって何の役にも立たないだろうしね」

「そ、そんな卑屈にならなくても――」


 どこか自分を卑下する様子のコモリにローザが言う。確かに彼はどこか自分に自信がないようでもあり、そして――どこか諦めているようでもあった。


「ところで、この生徒手帳があるってことはやっぱりこの三人はどこか近くにいたりするの?」

「……近いといえるかは別にしても三人一緒にいたのは確か。ただし、この三人も既に死んでる」

「え!? 彼女たちも? そ、それってどうして?」

「……殺された」

「ころ――」


 絶句する。相変わらず三人の死を悼んでる様子は全くないが、そういえばあの時カラスが――と、呟いているあたり何か死に関して思い当たるフシがありそうだ。


「あ、あの、もしかして待機組が死んだ理由も同じですか? 同じ相手が殺しに関わっているのですか?」

「……恐らくそうだと思っている」

「それなら、他にも誰か、誰か僕と同じように召喚されて殺されたのはいるのですか?」

 

 そして更にコモリの質問は続いた。ビッチェは怪訝そうに眉を顰めるが、その後を引き継ぐようにナガレが答える。


「他に三人の少年が殺されたという話は聞いております。特徴は――」


 アンから聞いていた三人の特徴をコモリに伝える。黒髪黒目は当然として口調などに特徴があったためか、コモリにもすぐに検討がついたようだ。


「太ったロリコンに、ボソボソ根暗、そしてござる眼鏡――それ間違いなく、中野、秋葉、大宮の三ヲタですよ!」

「何かそこはかとなく酷いことを言ってる気がするわね……」


 ピーチが呆れたようにその薄紅色の瞳を細める。ナガレはそこまで酷いことを言ったわけではないのだが、彼の中での三人はそういった相手だったのだろう。


 そしてピーチの言葉に、あ、そういうわけでは――と頭を擦るコモリであるが、でも、と続け。


「あの三人もステータスやスキルは結構強かった筈――それを殺すなんて、いや、でも、それが全てサトルなら……」


 親指を口に添えながらぶつぶつと呟くコモリ。その時に漏れたサトルという言葉を誰もが聞き逃さなかった。


「やはり貴方はサトルくんの事を知っているのですね?」

「え、あ、いや」

「……今確かに私も聞いた。サトルについては私達も情報を集めてる。知っていることがあればそれも教えて」


 ナガレに訊かれ狼狽えるコモリ。するとビッチェが彼の顔をじっと見つめながらサトルについて尋ねる。深い谷間が近づいたことで、コモリの興奮度はかなり高まっているようでもあり。


「……教えてくれないと、逮捕しちゃうぞ?」

「は、はい! 勿論教えます! か、隠しておくことでもありませんし!」

「だったらさっさと言えよ」

 

 チッと舌打ちしながらフレムが悪態をつく。それを、まあまあ、と宥めるカイルである。


「で、でも一つお願いがあるんです」

「お願いですか? さて、何でしょう?」


 コモリの問いかけにナガレが反応する。


「う、うん。見たところ君でさえその小さな体であれだけ強いんだし、他の皆さんも相当な実力者なんだと思いますが――」

「おい、ふざけんなよ! 先生はな!」

「フレム、いいのですよ。それで、実力があるとして何が?」


 フレムが烈火の如く怒り出すが、ナガレはそれを窘める。コモリの中ではナガレでさえ(・・・)これだけ強いのならば、他の面々は更にとんでもない強さなのだろうと、そういう考えなようだ。ただ、それならそれで構わないとナガレはコモリに先を促したのである。


「だ、だから、サトルを、サトルを殺して欲しいんだ!」

「……それはまた、穏やかではありませんね。何故、そのような事を?」


 だが、コモリから出た発言にナガレは眉を顰めつつ、更に理由を尋ねた。


「それは、サトルが既に狂っていて、もうどうしようもないから。あいつクラスの仲間を全員殺すつもりなんだ! だから、あんなのがいたら僕だっていつ殺されるかわかったものじゃない」


 コモリが堰を切ったように語りだす。その話しぶりにビッチェが問いを投げかけた。


「……その口ぶり、もしかして、サトルに会ってる?」

「……会ってるというか、チラッとみたんです。そしたらあいつ、アイカちゃんにまで手をかけて! それも許せない! だからアイカちゃんの無念を晴らすためにも!」


 コモリはどうやらついでの(・・・・)理由として敵討ちを上げているようだ。


「……一つお聞きしたいのですが、サトルくんは何の理由もなくクラスの皆を殺そうとしているのですか?」

「それは、そうだよ。だってあいつ本当なら死刑になる予定だったし。そんな男だよ。それぐらいしたっておかしくない」


 コモリの口ぶりは随分と一方的に感じられるものだ。ただ、彼の言っていることが本来ありえないことであることをナガレはよく理解している。


「え? 死刑に? そんな悪いことをしてたの?」

「…………」


 そして案の定、ピーチの問いかけに対してコモリは一瞬口を噤んでしまう。


「どちらにせよおかしな話ですね。どのような形であれ、貴方と同い年であるなら、死刑などありえませんが」

「そ、それは――」


 ナガレから鋭い指摘、コモリは戸惑う。この世界とは違いサトルは日本という国においてはまだ未成年である。故に死刑は本来ありえない。


 ただ、コモリの様相を見るに死刑そのものがデタラメというわけでもなさそうだ。つまりそれがクラス全員を殺害しようと考える程の恨みを宿す理由につながってるのかもしれない、とナガレは考える。


「それに、私達が集めた情報では、サトルくんは何か強い恨みを持って今のような行動に移しているようです。もし可能性があるとするならば、貴方のクラスで何かがあったのでは? とそう思うのですが、違いますか?」


 なので、ナガレがはっきりと自分たちがある程度情報を掴んでることを伝え、嘘も誤魔化しも無駄であることを示唆した上で、改めて真実を問いただす。


「……そう、そこまで判ってるなら、仕方ないよね。そう、サトルはクラスの皆を恨んでいるんだ。サトルを虐め続けた、クラスの皆をね――」

「……どうやらその話について、もう少し詳しく聞く必要がありそうですね――」


 すると、観念したようにコモリが項垂れ口にした。


 そしてナガレ達は聞くこととなる、彼の口から、サトルの壮絶な過去を――

皆様ここまでお読み頂きありがとうございます。ようやくここまでこれました……そして本編では次の話から場面は代わりいよいよサトルの登場! なのですが、ここで一旦本編は次の更新まで間を置くこととなります。とはいっても更新する気力がなくなったなどといったわけではなく、色々考えた結果、ここから先の話は書き溜めた上で、一気に放出したほうがいいと判断したからです。なので間は空きますがその分更新再開の時には一気に投稿を進めていくこととなるとおもいます。また、本編は滞りますが、その間に番外編的なものは掲載していくかもしれません。長くなりましたが出来るだけ早く本編再開できるよう頑張りたいと思います! どうぞ宜しくお願い致しますm(_ _)m

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