第一四九話 目指すは偉大な冒険者?
ここからナガレ登場!
「もう疲れたよ~」
ブルーが大地にへたり込んで泣き言を言い出した。
その手には何種類かの草が摘まれている。
「おいおい、わざわざ先生が助手としてついてくるのを認めてくれたのに、もうダウンかよ」
やれやれ、と呆れたようにフレムが言った。
そのすぐ後ろではカイルとローザが苦笑いを浮かべている。
「だってずっと薬草とか魔草とか、草ばかりじゃん! こんなの冒険者の仕事じゃないよ!」
「冒険者の仕事じゃないって、私暫くそればかりやってたんだけどな……」
眉を顰めてピーチが言う。だが直後、ナガレを振り返り、
「でもちょっと懐かしいねナガレ!」
と思い出したように声を掛ける。
「そうですね。ピーチと最初に出会ったのもこの森でしたから」
ナガレも空を見上げこの世界に初めて足を踏み入れた時の事を思い出す。
ここはハンマの街から西へ進んだ先にある森だ。冒険者の脚なら徒歩で三〇分ほどの距離なためDランクやCランクの冒険者が先ず訪れる場所としてよく知られている。
理由はこの辺りに群生する薬草や魔草の採取が良く依頼として冒険者ギルドに貼りだされるからだ。それにこの場所に現れる魔物もステータス的に低いものが多く、それらを狩って生計を立てているものもいる。
かつてナガレがこの森でピーチと出会った時、彼女は変異種の影響で大量発生したゴブリンに襲われていたが、その時ナガレが彼女を助け、更に襲ってきたゴブリンやその変異種であるグレイトゴブリンも殲滅した。
その為か、この森の危険度は更に減っており、今も初心者冒険者の狩場として有効活用されている。実戦経験のない冒険者が先輩冒険者に連れられてくるのも大体ここだ。
だからこそマリーンの頼みを引き受けた後、ナガレ達は薬草と魔草採取の依頼を請け、ブルーを連れてこの森にやってきたのである。
「大体なんで一つ一つ摘む草を確認しないといけないのさ。全部摘んじゃえばいいじゃん!」
ブルーが周囲に群生する種々を恨めしそうに眺めながら、そんなことを言った。
それにやれやれとナガレも肩を竦めてみせる。
「ブルー、薬草にしろ魔草にしろ無限でもなければすぐに生えてくるものではありません。種が撒かれ時間を掛けて育っていくのです。それらをもし際限なく刈っていたら何れ全て採り尽くされてしまいます。だからこそギルドはその時の状況に応じて採取出来る薬草や魔草の種類を変えているのです」
薬草も当然だが魔草にも種類がある。以前ピーチがエルミールの依頼で採取していたのは基本とも言えるマジックポーションの材料となるものだが、それ以外にも魔法の威力を高める効果があったり、魔法耐性を高める薬の材料となるものもある。
そういった数多くの野草が群生しているのがこの森の魅力でもあるが、しかしナガレの言うように冒険者がこぞって採っていては森が荒れる一方である。だからこそギルドは依頼以外の薬草や魔草を採取することを禁止し、依頼者が必要としている分だけを請け負い依頼として冒険者に提供しているのである。
「うぅ~でもだったら薬草にしろ魔草にしろ人の手で栽培してしまえばいいんじゃないの? そしたらこんな面倒なことしなくてもいいじゃん」
「いや、お前それ冒険者にとっても身も蓋もない話だぞ?」
フレムが眉を顰め言った。確かにそれが出来るのであればわざわざ冒険者に依頼する必要がなくなってしまう。
「う~ん、でも確かに言われてみればそのとおりね……なんでしないのかな?」
ピーチが小首を傾げ誰にともなく口にする。
「それは薬草にしろ魔草にしろ人の手で栽培するのが難しいからですよ。実際試した方もいるようですが、薬草に関しては人の手で作られたものはどうしても野生の物より効力が落ち、魔草に関してはどうやっても人の手では栽培出来なかったそうですからね」
実際ナガレのいた世界でも薬草の栽培は難しいとされていた。薬草として利用される種々は繊細な種類が多く、ちょっとした環境の変化で効果が激減してしまう。
それに加え異世界には魔素が存在する。この魔素が薬草に与える影響も大きく、ある程度魔素が循環していないと良いものが育たない。特に魔草はそれが顕著だ。
ちなみに薬草と魔草の違いに関しては植物自身が魔力を帯びているかどうかによって判断される。
しかし植物が自ら魔力を発する可能性はかなり低い為、魔草の方が依頼料も高めである(ただしその分採取量の制限も大きい)。
「う~んなるほど。流石先生は博識ですね!」
フレムがナガレを持ち上げる横で、ブルーが冷ややかな目を見せていた。
ナガレは見た目にはブルーより少し年が上程度である為、本当にそんなに凄いのか? と未だに疑っている部分もあるのかもしれない。
「でもナガレっちならいくら難しい栽培でも簡単にやってのけそだよね~」
「う~ん、確かにナガレ様なら出来そうな気もしますね……」
ふたりの話を聞き、ははっ、とナガレは軽く笑みを浮かべる程度に止めた。
否定はしていない。なぜなら合気があればやってやれないことはないからだ。
ただそれはナガレにしか出来ないことである。ナガレは自分にしか出来ないことを広めることを好ましく思わない。
特にこういった人々の暮らしに影響を及ぼすものである場合は殊更だ。
ナガレもハンマの街に永住すると決まっているわけでもなく、合気による栽培など当然ナガレにしか出来ない。
にも関わらず街にいる間だけ薬草や魔草を栽培し、いざ街を出るときになって、はいそれまでよ、では無責任が過ぎるというものだ。
だからナガレは例え出来てもそういった類の事に手を出すつもりはないのである。
「さてブルー、休憩はもう宜しいですか? 採取を続けますよ。しっかり種類を見極めてください」
「うぅ、わかったよ。え~とこれだよね?」
「それは毒草ですよ。よく見てください表面にギザギザがないでしょ?」
「え、と、じゃあこれ……」
「それはこの時期の採取は認められてません。先程も言った通り――」
「あ~~~~! もう、うるさいうるさいうるさいうるさい~~~~!」
ブルーが切れた。
「大体僕はこんなことやるために冒険者目指してるじゃないやい! 僕は偉大な冒険者を目指してるんだ! それにナガレだって僕の実力を見るため一緒にきてくれたんだろ! だったらもっと狩りとか――」
ブルーがナガレを指さし文句をいう。すると言下にフレムのゲンコツが飛んだ。
「いた! 何するのさ!」
「うるせぇ! 先生がわざわざお前の為に時間を割いてくれているのにその態度はなんだ! あと先生だ! ナガレせ・ん・せ・い。お前はあくまで先生の手伝いで来てるんだからな、呼び捨てなんて一〇〇年早い!」
これに関してはナガレも訂正しなかった。先生というのは少々大げさな気もするのだが、フレムがそう呼んでくれているということもあるしケジメはしっかりつけなければいけない。
「……なんだよ暴力振るって。姉ちゃんに言いつけてやる」
「あ?」
思わずフレムの声が尖った。するとナガレが横から口を挟む。
「別に言うのは構いませんが、ご自分が叱られるだけかとは思いますよ」
「そうよ、それにそんな態度じゃマリーンは貴方が冒険者になること絶対認めてくれないと思うわよ」
ふたりの言葉に、う!? とブルーが口籠る。今回ナガレにブルーの事を頼んできたのはそのマリーンなのである。
それなのにそのようなことを彼女に言っては寧ろ藪蛇というものだろ。
「ねぇブルー君。あのね? 冒険者ってね、決して華やかな仕事ばかりじゃないのよ? ううん、寧ろ地味で退屈な仕事の方が下手したら多いぐらいなの。でも英雄と呼ばれるような誉れ高い人だって最初はそうやって地道に頑張ってきていたの。だからブルーくんももう少し頑張ってみない?」
するとローザがブルーの傍により、優しく諭して聞かせた。フレムとは随分と対象的な教え方だが、これがブルーには効果的だったようだ。
「う、うん、お姉ちゃんがそういうなら……」
頬を染めてそんな事を言う。それに、チッ、ませてやがんな、とフレムが悪態をついた。
「判ってくれたなら良かったです。それに地味とは言いますが薬草採取でも依頼があるだけ良いということもあるのですよ。日によっては全く依頼がないということだってありえますし、そういった時は雑事をこなして生活費を稼ぐという冒険者も多いのです」
「そうよ、大体ナガレだって最初はお弁当を届けるっていう仕事から始めたのよ。みんなそうやって小さな仕事からこつこつやってるんだからね」
ナガレがブルーに向かって言うと、ピーチもそれに追従するように続けた。
尤もナガレの場合、弁当を届けたついでにベアグリーを退治してしまったりと中々規格外な働きをしているわけだが。
「もう判ったよ。でも折角剣も持ってきたんだし、魔物も狩ってみたいかなって……」
「――そうですか、ではそこまで言うなら一つ試してみましょうか。丁度良く魔物が一匹やってきたようですし」
ナガレの言葉に、え? とブルーが目を丸くさせた。そしてその直後ガサゴソと藪が揺れ、脇からホーンラビットが飛び出してきたのだった――
魔物は匹や体で数えてます。
そして実は私事ではありますが明日引っ越しを致します。
ネットも引越し先に切り替える必要がありその為明日明後日は更新が難しいかもしれません。
ご了承頂ければ幸いですm(_ _)m




