第一二〇話 凱旋と再会
「ナガレ~~~~!」
「先生ーーーー!」
ハンマの街門をくぐるなり、ピーチとフレムが出迎えたナガレに駆け寄った。
笑顔で、お疲れ様でした、と接するナガレに、ふたりは笑顔を綻ばす。
その後に、ローザやカイル、聖なる男姫の面々が続いた。
そして鉱山の件が解決した事を報告するが。
「それにしても先生、やはり大変な事になっていたんですね」
「そうね。なんか平原の一部も凄いことになってたし」
ピーチが言っているのはメルルの使用した魔法によって生まれたマグマ溜まりの跡地の事であろう。
マグマはすっかり固まり、火成岩と化している。
ただ、魔物を数多く飲み込んだ事で、一部はいずれ炎晶石という名の魔鉱石に変化するようである。
景観は多少損なわれているが、悪いことばかりでもないという事だろう。
寧ろ街の危機を乗り越えた証として、観光スポットとして役立てようという話もあるぐらいだ。
この街の住人は中々に逞しい。
「でも、戦いの跡はなんとなく感じられますが、魔物の姿はありませんね」
「そうだね~一体どれぐらいだったのかな? ナガレっちは当然その戦いに関わってるんだよね~?」
ローザとカイルが不思議そうに尋ねる。
確かに街の外側には一時一万を超える魔物の遺骸が積み重なっていたものだが、鉱山から皆が戻ってきた頃には全てキレイに片付けられていた。
「はい。そうですね。魔物は全て片付けはしましたが、街の外側で魔物の数は一万二千程度。その内の八割が変異種といったところですね」
ニコニコとなんでもないように語るナガレだが、それを聞いた面々は一様に驚き絶句した。
ちなみに数に関して実際は、ナガレが片付けるついでに瞬時に数えてギルドにも報告している。
「それ、とんでもないわね……」
「流石の俺でも、そんな数の魔物見たことないわね」
「しかも殆どが変異種だなんてもうびっくりよん」
カマオ、モーホ、ダンショクが信じられないといった様子で口にする。
ダンショクとモーホはそんな中でもナガレに熱い視線を送り続けているが。
「まさか、そんな事になってたなんてな……でも流石ロウだな。それだけの魔物や変異種を相手しても見たところ元気そうだし」
「……嫌味かバットウ? 噛みちぎるぞ!」
「はあ!? いや! なんでそうなるんだよ!」
ナガレ達とは別に、少し離れた位置で立っていたロウに駆け寄る鋼の狼牙団の面々。
そしてロウを労うバットウであったが、何故か彼の逆鱗に触れてしまう。
「……ふん。確かに俺も多少は変異種を倒しはしたが、結局最後はあそこにいるナガレに救われた。全く――信じられない強さだよアレは」
「それは本当かロウ?」
「た、確かにあのフ、フレムも先生と慕ってはいたけどね」
「いや、でもありえねえぜ! あの野郎はレベル0だと噂の男なんだぜ? 確かに街が危険だからとかいって先に鉱山から出てはいったけどよぉ……」
クリスティーナはフレムをチラチラと気にしながら頬を紅くし、ゴーリキとバットウに関してはやはり得心がいかないといった様相である。
特にバットウは訝しそうにし、眉を顰めてもいるが。
「……レベル0か、なるほどな。でも判る気がする。正直あそこまで強ければ、あまり知られたくないものなのだろう」
そうロウは評した。つまり、ナガレはなんらかの方法で敢えてレベル0に見えるようにしていると考えているわけだ。
「ふ~ん、つまり隠蔽のスキル持ちの可能性もあるという事ね」
「なるほどな。それなら可能性はあるか」
「いや、それにしたってレベル0に隠蔽するなんて聞いたことないがな俺は――」
バットウに関しては、ロウから話を聞いてもいまいち信じきれていない様子。
ただ、ナガレがこの街を救ったという事実が確かなのはロウの説明からも明らかなので、その強さに関しては認めるほかないといったところであろう。
鋼の狼牙団がそんな会話をしている中、ビッチェが瞑目し感慨深そうに口にする。
「……ナガレのおかげでこの街は救われた。今回の事件を引き起こしたインキという魔物使いも、ナガレに倒され捕まった」
「え? それってつまり、魔物たちをけしかけていたのがいるって事?」
ピーチの質問にビッチェがコクコクと頷く。
すると、いえいえ、とナガレが手を振り。
「確かにインキを相手しましたが、私が駆けつける前に皆様が奮闘していたからこそこの街は救われたのでしょう。ビッチェもメルルもロウだって、それに市街でもスチールやエルミール、宿のバーダンやビル、その子供たちの力も大きかったわけですし、皆さんが一致団結したからこその成果ですよ」
「……でも、市街の敵を討つことが出来たのは、ナガレの助言があったからとも聞く」
「え!? 街の中にも敵がいたの?」
「ええ、ピーチ。それに関してはギルドからも話は出るとは思いますが、魔物ではなくオークが人間に変装して住人に紛れ込んでいたようです」
「……変装といっても、かなり怪しい格好だったが――」
「へえ~でもオークがなんてびっくりだね」
「でも先生オークが変装してもあの体型じゃすぐにバレるんじゃないですか?」
「……そこが少し問題。捕らえられたオークは全員痩せていた」
「え? それってもしかして――」
ビッチェの返しにローザが不安な顔を見せ。
「まさか!? あの森のオークが街を襲ったの!」
ピーチが目を見張って叫びあげる。
しかしナガレは首を横に振った。
「いえ、イベリッコとは違いますよ。全く関係がない上、恐らくですが以前聞いていたオーク盗賊団の一味である可能性が高いです」
その発言に再びピーチが驚きを見せた。
「ちょっと待ってよナガレ。だってそのオーク盗賊団って前に宿であったあのアレスとかいう男が――」
「はい。殲滅させたという話でしたね。ただ、メルルによるとなんらかの形であのアレスが今回の件に関与してる可能性が高そうでもあります。証拠がないのでギルドもすぐ動けるかは微妙そうですが、ただオークが痩せることであの姿になることを他に知っている者がいたのも確かです」
なるほどね――と、ピーチ。
「あ、それでメルルは?」
「……メルルは魔導具や魔法で破損した建物の修繕に協力している」
「全く被害が出なかったというわけではないですからね。ただ街の住人は全員無事ですし、そこまで酷い状態ではないようです」
ナガレとビッチェの話で全員が安堵する。
しかし、これだけの大事件に発展しながらも、大きな被害に見舞われることがなかったのは、やはりナガレの力によるところが大きいのだろう、とほぼ全員が理解していた。
「あの、ナガレ様――」
するとニューハが前に出て、ナガレに声を掛けた。眉を落とし、神妙な顔つきである。
「鉱山でお話した――」
「ああ、はい。エルガなら無事ですよ。ただ、確かに中々無茶な方ではあるようですね」
ニューハの言いたいことを察したナガレが彼女の疑問に応えた。
ほっと胸を撫で下ろす。その所作も実に女性っぽい。
「それにしても私達のリーダーは一体どうしてるのかしらね」
すると、ふとカマオがキョロキョロと瞳を動かしながら、誰にともなく口にした。
ナガレは、それなら、と口にし。
「今冒険者ギルドで色々と話をしているところですね。ゲイも街にいましたので」
ナガレはここでは敢えて言及を避けた。事前に聖なる男姫のメンバーには自分の口から説明すると聞いていたからである。
そしてゲイが話をしているのは、インキに操られるに至った経緯を報告するためだ。
「そうですかリーダーも……」
「はい。どちらにしてもこのまま冒険者ギルドには向かいますよね。私達も皆様を出迎えてからギルドに顔を出すという話にはなってますので――」
ナガレがそう告げ、早速全員でギルドに戻る事となった。そしてギルドの扉を抜けると。
「あらん、ナガレ、お・か・え・り」
ゲイが腰をクネクネさせながら一行を出迎えた。
そして何故かその格好はTバック系のパンツ一丁である。
この歓迎に意気揚々と凱旋した男(聖なる男姫とナガレを除く)の顔つきが一瞬にしてげっそりしたものに変わった。
「ゲイ! 良かった無事だったのですね」
「リーダーも流石ね。相変わらずの見事な体つき……」
「俺も負けてられないわ! 脱ぐわよ!」
「うふん、じゃあ私はリーダーとの再会を祝して舞うわ~ヒラヒラ~」
ゲイに合わせてビキニパンツ1丁になり、煌めく頭を隣り合わせポージングを次々に決めていくモーホ。
そしてくるくるとバレリーナのように踊り、見たくもないパンチラを披露するダンショク。
何故かカマオはフレムに擦り寄り、クリスティーナが注意し、肝心のフレムの顔が引き攣り、その様子をナガレとニューハはニコニコと楽しそうに見続けていた。
なんとも悍まし愉快な状況になりつつあるギルドではあるが――
「……一体皆さんは何をしてるのですか――」
いつの間にかやってきていたギルド長が、呆れた様子で声を発した。
そしてよく見るとマリーンも頭を抱えていた――




