番外 第16章-精霊王解放後 7
文章堅いし、流血シーンや残酷表現満載。
第22章の会話
「この肉体から解放されるべく考えうる事をやってみたが、結局無駄に終わった・・・」という話です。
身体があるというのは、はなはだ煩わしい事よ・・・
エルが霊石に横たわりながら天を仰いで嘆く。
この思考するという行為もこの身体にひきずられての行為。
どうすればこの肉体から解放されるのか・・・
あの人間、ナーノにもう一度会いたい。
この身と同じ遺伝子を持つ肉体が、このよどむ状況に変化をもたらしてくれるはずだ。
どうしたことか、どこに居るのかがわからない。
地上にはまるで小さなブラックホールのようにエルの力が及ばぬ地域がいくつもあった。
そこに足を運べば、未知なる者達・・・異端の精霊がたむろしていた。
ナーノはそのような場所に居るのだろうと思う。
そう思えばこそ足を運んで、異端の精霊を追い払いつつナーノを探しているのだが。
いったいどこに・・・
わからない・・・
*****
事態は急展開した。
「たすけてくれー!コザガラ様ーーー!!」
誰かの声が霊山の上にいた3人の耳に届き、すぐさまビオルブが声の主のもとへと向った。
そこはキリークの宮殿で、風の精霊・地の精霊・そして雷の精霊に囲まれた青年が今まさに宙に身を放られ、地の水晶に身体を串刺しされるところだった。
ビオルブが手を伸ばし彼を抱きかかえて平坦な地に下りるとたちまちその異端の精霊は怒り狂い、取られたおもちゃを奪い返そうとする。
ビオルブが叫ぶ「緊急停止!」
その言葉は笑ってしまうほど異端の精霊には効く。まるでプログラミングされているようにだ。
一瞬彼らは動きを止めた。
その間にビオルブは飛行船を出してその場を飛び去る。
すぐに追いかけてきた精霊が飛行船に襲いかかろうとするがすでに鷲が2匹、むんずと掴むとその力強い翼でシャール渓谷まで運んでくれたのだった。
青年の名前はバスコーといった。
その昔、霊山をよくうろうろしていた人達と同じ匂いがする青年に、コザ・ガーランは懐かしさを感じた。
エルはエルで彼の中に精霊を感じ、稀に生まれる人と精霊の合いの子だろうと見た。
ちょっと変わった毛色の人間をわきに置いておき、エルとコザ・ガーランが他の精霊と話をしていると、この青年が横からナーノの話をしだした。
そうか。
ナーノは宮殿に居るのか。
精霊王は首都:ルーパス攻略を画策する。
*****
月も雲も風もない夜。
まるで時が凍りついたように木の葉一つ動かない夜。
そんな夜の荒野に青年が一人。
精霊王エルが地面に横臥しているのだ。
その暗黒の空間の向こうにいる天母を緑の瞳で見つめ続ける。
これほど星はあるのに
これほど宇宙は広いのに
この星にだけ命などというものが在る
我星もまた宇宙からみれば異端か・・・
天に意思は無いのだろう
天母に心は無いのだろう
心情で頼むなど無為な事だろう
我は異端の精霊達をこの星から消さねばならぬ。
だが、彼らの強大な力を惜しむこの感情はなんだ。
彼らの居るべき場所に彼らを誘える存在は一つしかない。
天母よ・・・我に機会をお与え下さい。
*****
そして。
空がどこまでも青く澄みわたり雲ひとつ無い晴天の日。
その日は来た。
ついに精霊王エルはアルフィードの肉体から解放されるのである。
コザ・ガーランもビオルブも・・・いや、この星の全ての精霊達が精霊王の一挙一動に注視した。
そして、アルフィードの肉体が異端の精霊により灰すら残らぬほどの攻撃を受け消滅した時、地上の精霊全てが歓喜に沸き一人ビオルブだけがアルフィードの為に涙した。
2億年前の惨事の再来は回避された。
不遜なるヴァーウェン。
その子孫がその肉体によって罪をあがなったのだ。
生まれてから16年、その10年間は牢獄で、あとの6年間をエルに傷つけられながら・・・それでもエルと共にありエルを恨む事無く地上の命を守ってくれた青年よ。
誰一人お前の苦悩を知る人間はいない。だが私は忘れない。
キリーク王国第5代目アルフィード王よ・・・安らかに眠りたまえ・・・