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精霊王転変  作者: 笹野
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第二章 ノサッポ村1

キリーク王国最西にある辺境の地、ノサッポ。


「村長!一本杉の道から5人、見かけない奴らが来てる。変なリヤカー引いてるぞ。」

「ああ、中央から来た調査団の旦那方だろう。やっと来たか。」

「やっとって?」

「この村にもようやく舗装道路が出来るんだ。」

「え?道路?」

「そうだ、すごいだろう!山向こうまでは来てたんだけどようやくこっちまで来るそうだ。」

「へええ」


一方、一本杉から少し町よりのところに空き地を見つけ小休止していた調査団の一行には、静かなどよめきが起こっていた。

電動キャリーに搭載した計器を囲み、興奮ぎみに話をしている。

「これは間違いない。」

「ここからじゃ見えないな。」

「この坂の向こう・・・距離は3キロ程か。」

「俺が先に行ってみようか?」

「焦るな。まだ時間はある。」

「・・・ああ。」


そしてちょうどその頃。

町外れの畑からロバに乗って町に帰ってくる10歳ほどの少年がいた。

薄汚れた格好に汗で汚れた髪はもともとは白金色なのだろうが、艶も無く白髪めいて見える。

鮮やかな緑眼もうつろに開いた瞼の奥でくすみ、ただロバの鼻先を見つめていた。

彼は村の内柵を入ると一番北にある建物に向かった。

そこが彼の生活の場。もっと言えば占い師ディーの家だった。

ディーは高齢ですでに足が萎え、家から出られなかった。が、口だけは達者である。


「遅いじゃないか!ナーノ!どこほっつき歩いてたんだい」

「別に」

「腹が減って死にそうだよ。早くめしの用意をしなよ!」

「ああ」

「まったく…ちょっとばかり知恵がついたとたんにサボることばかり考えて」

フー・・・

毎日同じ小言を聞かされるのも疲れる。

けれど、ナーノには他に頼る人も無い。

一本杉で倒れていたどこの誰かも判らぬ妊婦を引き取り、そのまま出産のため亡くなった時には供養し、その子供を育てたのはディーである。



調査団が到着するとその夜は歓迎会が開かれ、次の日はさっそく彼らは持ってきた計器で何かを計測していた。

その夜、村長と見慣れない男がディーの家を訪れた。


「わたしはキリークの調査団に同行しているアルガスと申します。」

「調査団の人じゃないのか。何の用だ?」

「キリーク王国の人権擁護に関するパンフレットをまずどうぞ。」

ディーの前に立派な印刷の冊子が置かれる。

ディーの顔がひきつるのを無視してそのまま話を続けるアルガス。


「あなたの所にいるナーノという子供の事ですが…彼を我々の所に預からせていただきたいのです。」

「は?」

「あの子には首都ルーパスできちんとした教育を受けさせてあげたいのですが。」

「は!教育?何言ってんだい。ここにいたって教えることぁキッチリ教えてるよ!出てっとくれ。私があの子の親だ。あの子を育ててるのは私だ。手放すもんか!」

「あの子の本当の親では」

「私はあの子が生まれたときから面倒を見ているんだ!私の面倒を見るのがあたりまえだろ!あの子がいなくなったら足萎えの私ァどうすればいいのさ!?」

「ごもっともですね…では、あなたも同行しますか?」

「へ?」

ディーは怒り顔のまま口元だけがヒクリと動いた。

予想外の展開に固まっている。


「あなたもルーパスへご招待します。あちらの病院へ行けばその足も元に戻りますよ。もちろん現金は渡せませんが宿と食事はわたし達の施設でどうぞ。それにあなたの歳でしたら病院代は無料ですしね。」

「ほ、本当か?」

思案するディーの顔はこころなしか微笑んでいる。


ここで今まで無言だった村長が苦い顔で割り込んできた。

「アルガスさん。話が違うよぉ」

「村長。あの子がいなくなればこの方を世話する人を探さねばならないでしょう。わたしが引き受けた方がいいんじゃないですか?」

「う・・・ん、だが、ディー様はそもそも祈とう師なんだ。彼がいなくなったら神を祭る者がいなくなる」

「足が良くなればすぐにでもこちらに帰します。」

「そうか。で、どのくらいで治るもんなんだ?」

「それは、医者に見せなければ何とも…検査の結果はすぐにお知らせします。」

アルガスは口調も人当たりも穏やかなまま村長に言った。

が、村長は何かひっかかるのだ・・・が、中央の人間にあまり難癖つけてると思われるのも困る。

昨日の歓迎会では、舗装道路が村まで通され車が往来するようになればこの村がどれだけ発展するか教えられて、村人も乗り気になっているのにミソを付けたくはない。


ディーはもはや足が治り自分で出歩けるバラ色の未来しか見えていないようだ。

「いつルーパスに行けるんだ?」

「調査団が帰るのと一緒です。」

「いつだ!」イラつくディー。

「2日後を考えています」

「よし用意しよう。」



奥でこの話を聞いていたナーノは喜びに震えた。

こっそりと家を出ると丘に向かって走った。


「ルーパス?ルーパス!ここから出られる!もうあいつの面倒を見なくてもいいんだ!」


ちょっと話に無理があったので修正しました(10/13)

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