第一話 隣の席の風原くん
よろしくお願いしますm(__)m
桜の花びらが風に舞う。
春。
新しい制服。
新しい教室。
そして、新しい出会い。
「今日から高校生かぁ……」
私は窓際の席に座りながら、小さく呟いた。
立花柚月。
ごく普通の女子高生。
友達はそこそこいるし、勉強もそこそこ。
趣味はゲーム。
そんな私の高校生活が始まった。
――そして。
私の隣の席には。
ひとりの男子が座っていた。
黒髪。
整った横顔。
少し長めの前髪。
まるで絵画から抜け出してきたような美貌。
女子達がちらちら見ているのも無理はない。
でも。
「……」
彼は誰とも話さない。
窓の外ばかり見ている。
まるで何かを考えているみたいに。
少し寂しそうに。
少し切なそうに。
ただ青空を眺めていた。
(風原藍斗くん……か)
出席番号順で隣になった男子。
入学式の日からずっと気になっていた。
女子の間ではすでに有名だ。
『隣のクラスの子が見に来てた』
『モデルみたい』
『めっちゃイケメン』
『でも全然喋らない』
そんな噂ばかり聞こえてくる。
確かに格好いい。
でも。
私が気になるのはそこじゃない。
(なんだろう……)
時々。
風原くんは。
とても遠くを見ているような顔をする。
まるで。
誰かを探しているみたいに。
「立花さん?」
「ひゃっ!?」
突然声を掛けられ飛び上がった。
隣を見る。
風原くんだった。
「え?」
「消しゴム」
「あっ」
私の消しゴムが彼の机の下まで転がっていた。
「ご、ごめん!」
「ううん」
彼は拾って差し出してくれる。
指先が綺麗だった。
思わず見惚れる。
「ありがとう」
「どういたしまして」
それだけ。
会話終了。
再び彼は窓の外を見た。
(終わった……)
たった数秒の会話だった。
でも。
心臓が少しだけうるさい。
そして数日後。
事件は起きた。
「よーし!!」
担任教師が教壇を叩く。
名前は熱海先生。
三十代前半。
体育会系。
声が大きい。
「青春は交流から始まる!」
生徒全員が嫌な予感を覚えた。
「ということで!」
嫌な予感は当たった。
「隣の席同士でペアを組み自己紹介をしてもらう!!」
「ええええええ!?」
教室中が悲鳴に包まれた。
先生は満足そうに笑う。
「一人五分! スタート!」
強制だった。
問答無用だった。
私は隣を見る。
風原くんもこちらを見ていた。
「あー……」
「あの……」
同時に口を開く。
そして同時に黙る。
気まずい。
すごく気まずい。
先に口を開いたのは彼だった。
「じゃあ僕から話そうか」
「う、うん」
「風原藍斗です。好きなものは読書とゲーム」
「ゲーム?」
思わず食いついてしまう。
風原くんが少し驚いた顔をした。
「うん」
「ゲームするの?」
「最近始めたばかりだけど」
「なにやってるの!?」
気付けば前のめりになっていた。
風原くんは少しだけ笑う。
初めて見た笑顔だった。
「ルミナス・オンライン」
「えっ」
私は固まった。
ルミナス・オンライン。
私が何年も遊んでいるゲーム。
超有名タイトルではない。
むしろ知る人ぞ知る作品だ。
「知ってる?」
「知ってるどころか毎日やってる!!」
「本当に?」
「本当に!」
風原くんが目を丸くした。
「すごい偶然だね」
「すごい!」
そこから会話は止まらなかった。
好きな職業。
好きなマップ。
苦戦したボス。
お気に入りの装備。
気付けば五分なんてとっくに過ぎていた。
そして。
「もしよかったら」
風原くんがスマホを取り出す。
「連絡先交換しない?」
「え?」
「色々教えてほしい」
その瞬間。
私の胸が小さく跳ねた。
だって。
風原藍斗が。
クラス中の女子が憧れる美男子が。
私に連絡先交換をお願いしているのだから。
「もちろん!」
私は即答していた。
この時の私はまだ知らない。
この出会いが。
ただの高校生活では終わらないことを。
現実とゲーム世界。
二つの世界を巡る物語の始まりだったことを――。
(第二話へ続く)
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