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第7話 歩兵騎士団は西へ

 厳格な左右対称の美を誇る王城の広場。

 鏡のように磨かれた甲冑を纏う騎士たち。


 その列に、ひときわ重厚な気配を放つ旗が風に翻っている。

 深い紺青の地に、北方の厳冬を象徴する銀の装飾が施されたその紋章は、一瞥しただけで見る者を平伏させるような大貴族の権威を湛えていた。


 ライガは赤い前髪を鬱陶しく掻き分ける。

 彼は歩みは止めぬまま、顎先でその旗を指し示した。


「……なぁ。あの旗、なんだ?」

「北方の大公家よ。ヴァルケンブルグ大公が御助力されるそうよ」


 その一段に負けない怜悧な光を衣装に宿したシエラ。

 彼女はそちらを一瞥。

 すぐに前方へと視線を戻した。


「……は?」

「騎士団試験で出たでしょ。北方交易圏を押さえてる大貴族。資金も兵も持ってる、王国でも指折りの実力者よ」

「へぇ」


 赤髪の剣士が納得したように頷き、視線を横へ流した。

 そこには、一糸乱れぬ足並みで石畳を打つ騎馬の列があった。

 手綱を握る騎士たちの背筋は定規で引いたように真っ直ぐだった。

 並んだ軍馬が地面を鳴らす重低音は、王国の揺るぎない軍事力を体現しているかのようだった。


「いいなぁ……。やっぱ騎士ってああいうのだよな」

「目立ってどうする。侵入と分断が目的だ」


 別の隊列を率いるハルトが、冷徹な声音で即座にその憧憬を切り捨てた。

 彼は正面を見据えたまま、歩調を緩めることすらない。


「いや、でもよ。正面からぶつかってぶっ壊す方が早くね?」

「だから本軍がいる。俺たちは違う」

「ま、そっか。じゃあ俺たちの方がいい仕事ってやつだな」

「ロイド。そのリーダーは大丈夫か?」

「ライガは勢いの男だ」


 重厚な盾を背負ったロイドが、装備の音を響かせて真面目に頷いた。


 すると


「騎馬は機動と突破に優れますが、地形と目的に制限される。今回の任務には適しません」


 漆黒の髪を揺らす少年、レンが静かに口を開いた。

 彼の視線は、常に戦場の地図を俯瞰する。

 舞台全体を上から見ているような冷静さを保っている。


「ほらな。ちゃんと理由あるじゃねぇか」

「最初から言っている」


 短く返すリーダーの声に応じるように、周囲の空気がわずかに流れる。

 やがて、道は二つに分かれていった。

 東へと向かう大軍の蹄の音が遠ざかり、西へと抜ける少数の足音だけが、静寂の深まる森の奥へと吸い込まれていく。


「騎士団になっても俺達絶好調だな」

「ほんと、軽いわね。レン、もっとライガに厳しくしていいわよ」

「いえいえ。私は新参ですから」



 目指すは炭鉱へと続く岩山の麓。


 装備を整える金属音が静かに重なり合った。

 硬い革が擦れ、金具が噛み合う。

 歩兵騎士団『暁紅蓮隊』と『青葉の剣』隊が並ぶ。

 同じ場所に立ちながらも、二つのパーティが纏う空気は完全には混ざり合わない。


「炭鉱、か。久しぶりだな」

「以前はカルン側だ。南がカルン、北がマルシェリアだ」

「採れるものも違うわよ。北は魔法石。南は金属系が中心。魔法石があれば継戦能力が跳ね上がる。つまり、補給の質が変わるってことよ」

「へぇ。だから何だ?」


 仲間たちの半眼をひょうひょうと躱し、ライガは肩を回す。


「目的は分断ですよ。さっきほどは理解しやすく資源の話をしましたが、分断の理由は別にあります」


 黒髪の少年が地図を指先でなぞり、淡々と不吉な予測を口にした。


「……貴様。軍議で謀を」


 隣部隊のハルトが睨みつける。


「中央に拘られていましたからね。本来の目的は、その先。西海です」


 だが少年が静かに視線を上げ、短く言い切った。


「諸侯連合はアベリオン系です。海からの支援を断ち切る必要があります」

「……あー。そっちか」

「ライガ、お前は」

「ハルトは真面目過ぎ」


 シエラは目を細くする。


「理に適っているわ。東はルヴァンの森。だから脆弱そうな東拠点を狙おうとしてた。でも、それでは時間が掛かり過ぎる。兵站を考えれば、西しかないわね」

「確かにそうだ。本部への連絡は」

「なるほどなー。分断は結果であって、目的ではないと」

「そうなります。それに達成される形は同じですよ、ハルトさん」

「く……最初からそう言え」

「混乱しますので」


 レンは柔和に微笑む。


「はぁ……。通ってる時点で問題だろうが」

「結果として最適に到達しています」

「ですが、私はハルトさんの真面目さも好きですよ」

「いいじゃねぇか。分かりゃ同じだろ」

「お前はもう少し考えろ」

「考えてるって」


 軽口を叩きながら剣士が腰を下ろす。

 青葉のルナが、少年の横顔を覗き込んだ。


「そういえば、さっきのすごかったよね。地図のやつ。色んな諸侯が混じってるのに、すぐ分かるものなの?」

「その色んな諸侯の情報が揃っていれば、難しいことではありません」

「いやいや、普通分かんないって」


 朗らかに笑う少女に合わせ、穏やかな微笑みを絶やさぬミナが深く頷いた。


「なんか、流れが見えてる感じだね」

「アベリオン派と言っても、一つでありません。人間関係が現れるものなのですよ。私はそれをただ纏めているだけです」

「かっこいい〜」


 素直な称賛が漏れるその少し後ろで、腕を組んだケインが冷めた視線を外へと向けた。


「頭脳明晰、データ型。それでバランス役、ね。ま、いい。今は頼もしいか」


 独り言のように呟き、彼は己の武器へと静かに手を置いた。


「よし。準備できてんなら行くか――」


 赤髪の青年がそこで言葉を切り、周囲を見渡した。


「焦らないで。まだまだ先でしょ」


 東でひきつけるからこその奇襲だ。

 突っ込みがちのリーダーに仲間たちは肩をすくめる。


「……ま、焦る必要もねぇか。どうせ徒歩だしな」

「当たり前だ」

「分かってるって」


 笑い声とともに、戦場を前にしたわずかな緩みが生まる。

 水筒が開けられ、のどを潤す。

 駆け上がった先で、冒険者たちは軍隊と対峙する。 

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