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美少年の声は世界を救うようです  作者: 八田D子
盾教者の合奏曲
9/114

1節目

 シノーメの家は同盟が出来る前から地位の高い騎士の家系だった。父もその父も先祖もみな々多くの騎士を従える

勇敢な騎士だった。その血を引く自分が山賊の一員になっていると分かっていたらどう思っただろうか。

 恐怖のあまり戦場から逃げ出し、その先で山賊に捕らえられ命乞いの末に、雑用として生かされていると知ったら。

「さあ並べ並べ!」

 聖教国の南部を縄張りとするウーサブル山賊団は特に有名な悪党の集団だ。その名前は同盟側の

諸国にも伝わっていた。初めは戦乱に乗じて逃げてきた犯罪者や脱走兵の集まりに過ぎなかったが、

徒党を組み始めてどんどん規模を大きくしていき、領主でも迂闊に手が出せないほどの勢力へと

なっていった。

 そして今、聖教国の主要都市オズマへ向かう馬車隊を襲い、略奪を行っていた。馬車隊を護衛していた

衛兵も不意打ちされて対応できず、みな捕縛されていた。

「一人でも抵抗してみろ! その時はお前以外の誰かも死ぬぜ!」

 馬車隊は衛兵以外は女子供が殆どな所を見ると、商隊ではなく移民団だろうか? それが分かると

より強気に出るのが悪党の常だ。強者に媚びへつらい、弱者を踏みにじる。自分もその一員に過ぎないが……連行されている人々の中に、一人だけ強い意志を感じさせる少年がいた。幼くも整った顔つきの

少年は磨かれた剣の様に勇ましく見え、罪悪感から思わず目を背ける。

「お前らはさっさと積み荷を調べろ!」

 そうしてる間に他の下っ端たちと一緒に、どつかれるように積み荷を見分させられる。たとえ仲間同士でも、上下関係は厳しくて奴隷のようにこき使われる。それでも、命が保証されているだけ捕まった

馬車隊の連中よりはマシだと思える。

 やつらはなかなか質のいい服や本を持っていた。オズマに行く連中だ。それなりに裕福な

連中なのだろう。もしかしたら貴族やその親族がいるのかもしれない。

そう思いながら保管箱を漁っていると、一通の手紙が見つかった。

「げっ、デフトン様が来たぞ!」

 ウーサブル山賊団の頭デフトンはよく肥えた牛の様にでっぷりとした体躯、飢えた熊の様に

凶暴そうな顔つき、その風貌に違わぬ残虐さと横暴さで手下からも恐れられている。

ギロリとまるで威嚇するように周囲を見渡しながら、捕まえた馬車隊の人間たちの前に顔を出す。

 こうやって親分であるデフトンが直接略奪に加わるのは、自分の部下すら信用していないためだ。

銅貨一枚でもちょろまかそうとすれば、すぐに首が飛ぶと言われている。そうやっていても誰も

裏切ろうとしないのは、それだけデフトンが強いからだ。小規模の集まりだったごろつきどもの

頭を全員ひねりつぶし、暴力で山賊団として一つにまとめ上げた。

 捕らえた馬車隊の移民たちを見て、デフトンは言った。

「数が多いな。一人残して後はいらん」

 移民集団がざわめく。デフトンの言葉がほぼ全員の処刑を意味していた。女子供だろうと関係なく。

「そんな、お願いだ! どうか私は見逃してくれ!」

 何人かが前に出て助命を乞うた。自分だけでも生き延びたいと思うのは当然だ。ただでさえ戦争で

いつ死ぬかもわからない世界だ。他人の事なぞ考えてられない。

「ふざけんなよおっさん!」

 どよめき、命乞い、泣き声の中、一つの声が響き渡った。その声の主はシノーメが目にしたあの少年だった。

「いきなり襲ってきたと思ったら勝手に決めやがって! 誰がお前の思い通りになんかなるか!」

 それは山賊団のデフトンに向けての言葉だ。怖いもの知らずの態度に、手下たちの方がざわめく。

「黙れこのガキ! このお方を誰だと思ってやがる!」

「そんなん知るか! どんな奴だろうとこの俺が相手になってやる!」

 デフトンが怒りに顔を歪める。普通ならばこんな子供の言うことを真に受ける者はいないが、相手は

冷酷非道なデフトンだ。たとえ子供であろうと容赦はしない。

「デフトン様! これを見て下さい!」

 手紙を見せるように掲げながら急いで割って入る。

「この手紙を読んだ所、一団の中に教皇に謁見をする者がいるそうです! この手紙の持ち主がだれか分からない内は全員生かしておくのがよろしいかと……!」

「ちょっとお前、何勝手に……!」

「ガキは黙れ! 勝手なことをすると他の連中もろとも貴様を処刑するぞ! 我々は女子供であろうと容赦しないのだからな!」

 本来であれば雑用の下っ端には過ぎた行為だった。それでも、惨劇を回避するにはこれしか手段はない。

どうしてここまで危険なことをしたのか自分自身でも分からなかった。

「ふうむ、名も知らん下っ端が言うのが気に入らんが、教皇の関係者がいるのなら仕方ない。こいつら全員縛って連れていけ!」

 デフトンの一存で山賊たちは馬車隊を縛り上げる。あの少年も口では悪態をついていたが、他の人々が

危険になると聞いてか、抵抗はしなかった。ただ、最後にシノーメの方をじっと睨みつけた。

「帰るぞ野郎ども!」

 デフトンはそういうと、自分だけ先に馬に乗って行ってしまい、手下たちは移民の連中と

少年を連れてその後を追うように山賊団のアジトへと戻った。

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