表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギルドは本日も平和なり  作者: ナヤカ
問題だらけのギルド編
80/206

八十話 らしくない

「今日は二人で軽くダンジョンに潜る予定だったんだが、待ち合わせ場所に来なくて、家に行ったんだ。そしたら扉の前にこれが挟まっていた」

そうしてカウルが取り出したのは、一枚の紙。

『今までありがとう』

それだけが書いてあった。


「心当たりは?」

「ない……いや……」

考え込むカウル。

「どうなんだ?」

「多分…だが…」

煮え切らない態度を取るカウルに、俺は思ったまんまをぶつけてみる。

「昨日のことが原因か?」

そう言うと、カウルはゆっくり俺を見つめた。そして、苦しそうに呟いた。

「……あぁ、おそらく」

「昨日もしかして、何か情報を掴んだんだろ?」

「…そうだ」

やっぱりか。悪い予感は当たってしまった。

「実は俺たちも話を聞いたんだ。十年前の事件の事。だが、彼女には伝えない方が良いと判断した。理由は分かるだろ?」

「あぁ、あれでは…いくらなんでもソフィアがーー」


可哀想すぎる。その言葉をカウルは言わなかった。が、俺にはそれだけで十分だった。

「ソフィアは多分、この町を出たんだろう。今なら追い付けるかもしれない。行くか?」

そう問いかける。カウルは少し戸惑っているようだった。それは、いつも自信満々に振る舞う彼の姿ではなかった。

どうしたんだ?そう思っていると、彼は言いづらそうに言葉を吐き出す。

「俺なんかが……関わっていい問題なんだろうか?」


は?何を言ってんだ?


「俺は昨日話を聞いて、あまりにも自分とは違いすぎる問題の大きさに怖くなった。そして、その中にソフィアが居たことに…胸が苦しくなった。それでもアイツは自分で決めてしまった。それは、俺なんかじゃ絶対に真似出来ない事だ」


カウルの口から出る言葉に、俺は沸いてくる怒りを感じた。


「……その決意を考えると、俺が行ったところでーー」

「ばか野郎!!」

その言葉を聞いた瞬間、思わずカウルを殴ってしまう。不意を突かれたカウルは、ギルドの床に転がった。辺りが一気に静まり返る。それでも、我慢できなかった。

「お前が連れ戻さないでどうするんだ?俺がまた行ってやるのか?それで彼女は戻ってくるのか?」

カウルは呆然としていた。

「一人で行った理由なんて目に見えてるだろ?お前を巻き込みたくないからだ」

「……俺を?」

「ずっと一緒にパーティ組んでたくせに、そんなことも分からないのか?」

俺は先程受け取った紙を見せる。

「これは誰でもない、お前だけに宛てた言葉だ。彼女はお前に感謝してるんだろ!彼女のためにダンジョンに潜って、彼女のためにBランクに留まって、彼女のために散々無茶してきたんだろ!それがちゃんと伝わってたって事だろ!だから、これ以上巻き込みたくないと思ったんだろ!」


「俺は……ただ、自分のやりたいようにやってきただけだ。…別にソフィアは関係ない」


「だったら、今度もやりたいようにすれば良いだろ?お前はどうしたいんだ?」


カウルは座り込んだまま必死に口を開いた。

「俺は…あいつを連れ戻したい。多分あいつがやろうとしていることは間違ってる」


俺はカウルを立たせる。

「なら、やることなんて一つだろ?もう一度聞くぞ?行くのか?」

「……ああ」

「なら直ぐに行くぞ」


その時だった。

「ちょっと!テプトくん!何やってるの!?」

人混みを掻き分けてセリエさんがやって来た。

「すいません、セリエさん。後のこと頼みます」

「へ?何いって…って!ちょっと!テプトくん!?」


その言葉を無視して俺はカウルと共にギルドを出た。これじゃ、また怒られるな。


「馬を借りよう。カウルは乗れるか?」

「いや、経験はない」

「じゃあ、俺に掴まってろ。行くぞ」

それから、近くの馬屋に行って馬を借りる。急なことに主人は戸惑っていたが、金貨を二枚掴ませると、どれでも好きなのを持っていって良いと言われた。

沢山いるなかで、わりかし丈夫そうな馬を選んで跨がる。カウルを馬上に引き上げて後ろに乗らせた。

大の男二人が跨がるのだ。馬としてもきついだろうが、頑張ってもらわなくちゃな。

「頼むぞ?」

そう言って、馬を走らせた。

「おわっ!」

後ろでカウルが驚きの声を上げる。こいつにも頑張ってもらわないとな。


そのまま俺達は町を出た。


ほんと、らしくないことをしてしまった。先程のことを思い出しながら俺はため息を吐いた。

きっと俺は羨ましかったのだ。俺と同じ万能型でありながら、自分のために必死になってくれる仲間を見つけたソフィア。不器用ながらも、己の道を行くカウル。二人はお互いをよく理解しあっていて、助け合いながら冒険者を続けている。たとえその道がイバラの道であったとしても、彼等は決して諦めなかったのだ。仲間が見つけられず、諦めてしまった俺から見れば、二人はとても輝いて見えた。そして、お互いを思いあっていたからこそ、今回のような事が起きたのかもしれない。

だから、腑抜けたカウルの気持ちも分からないわけではない。それよりも、ソフィアの決意が固かったというだけの話だ。

このまま終わらせるわけにはいかない。だって、こんな幕引きをするために、彼等は頑張っていたわけじゃないはずだ。


いや、もしかしたらソフィアは最初からーー。



「昨日は嘘を言って悪かった」

突然、後ろからカウルが話しかけてきた。

「黙ってろ。舌を噛むぞ!」


話は後だ。推測だと彼女は、王都に向かったはず。王都に行けば、事件によって処刑された者、牢獄に入っている者、失踪した者たちをより詳細に調べられるからだ。それを調べた後に、彼女が何をするかなど、想像もしたくはない。しかし一人で行ったということは、そういうことなのだろう。


『一番怖いのは魔物じゃない。人間よ』


ソカの言葉が思い出される。

今になって、安易にソフィアを店に連れていった自分を呪いたくなる。ソカが、あの店に俺を連れていってくれたとき、『あなたのためになると思って』と言っていた。余計なお世話だと思ったが、俺だって同じじゃないか!

二人を助けて、いい気になっていたのだ。馬鹿か俺は!


本当にらしくない。


後ろで、必死にしがみつくカウルの腕の強さが強くなるほど、胸が苦しくなった。その苦しみは、腕の締め付けによって起こるものではなく、気持ち的な問題だろう。

「……ソフィア」

時折後ろから聴こえるその呟きが、より一層胸を締め付けたからだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ